「格付け」と利便性は違う

ホテルを判断する場合、多くの人が参考にしているのが、いわゆる「格付け」ではないでしょうか。

格付けでもっとも有名なのは、フランスのタイヤメーカー・ミシュラン社が発行する『ミシュランガイド』でしょう。もともとは自動車運転者向けのガイドブックで、紹介するレストランやホテルを星の数によって格付けしています(レストランは1~3つ星、ホテルは1~5つ星)。

格付けはミシュラン以外にも、たくさんあります。たとえば、発行部数90万部を誇る『Travel and Leisure』誌では「世界のベストホテル100」というランキングが発表されますし、エクソン・モービル社の『モービルトラベルガイド』でも「モービルトラベルアワード」としてホテルの格付けを行っています。

このように、ひと口にホテルの格付けといっても様々な種類があり、その基準もまちまちです。ミシュランでは5つ星でも、モービルでは4つ星ということもありますし、ミシュランで無印のホテルが、他の格付けで高く評価されることもあります。

とくに日本人にとっては、その評価が分かり難いこともあります。たとえば、ヨーロッパの古いホテルなどは、アメリカの大手ホテルチェーンのように、使い勝手が必ずしもよいものばかりではないからです。

ヨーロッパの由緒ある3つ星ホテルの中には、シャワーしかついていないところがあります。日本のように毎日浴槽に浸かるという習慣が少なく、シャワーがあれば十分だと考えられているからです。ヨーロッパでは浴槽のあるなしは、それほど重要ではないのでしょう。

ホテルステイの楽しみ方も違います。歴史的に価値のあるホテルに身を置いて、重厚な雰囲気を味わうことがすでに観光なのです。観光は光を観ると書きますね。光とは「人々の営み」そのものです。だからそのホテルで、時間の流れを感じ、歴史の中の人々の営みをゆっくりと感じることが最高の観光になります。急ぎ足で「観光地」を回る観光とはひと味違う楽しみ方だと思います。そういうことまで加味した格付けの基準があるのです。

格付けのもう1つの側面ですが、ヒルトンやリッツ・カールトン、マリオットなどのアメリカ系の高級ホテルチェーンの場合は、アメリカンスタンダードで統一されています。世界中どこでもほぼ同じ設備、同じサービスを受けることができます。ほとんどのホテルで、浴槽も完備されています。日本人には、とても使い勝手がよいホテルだと評価されます。では、日本のホテルの格付けはどうなっているのでしょうか?

『ミシュランガイド』日本版が刊行され、ホテルやレストランの格付けを行っていることは、すでに多くのかたがご存じでしょう。

日本独自の格付けとしては、ビジネス誌等が毎年ホテルランキングを発表しています。ただし、これはネットと連動した、利用者の採点が、基準となっていることが多いようです。

そのため、歴史的な価値などに重きを置くよりも、利便性や使い勝手のよさが評価されがちです。専門家による厳しい査定・審査の結果というよりは、人気ランキングという色合いが濃いと思います。

とはいえ、利用者の生の声も貴重な情報の1つには違いありません。そうした意見を参考にしてホテルを選び、利用してみたときの印象はどうだったのかをチェックするのも、感性を養うための大切な経験となります。

高野登(たかの・のぼる) シニアコンサルタント。人とホスピタリティ研究所代表。1953年、長野県生まれ。ザ・リッツカールトン・ホテル・カンパニー前日本支社社長。

[日経プレミアシリーズ「大人を磨くホテル術」(日本経済新聞出版社)から抜粋]

大人を磨くホテル術 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 高野 登, 牛窪 恵
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)