変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長

セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長

セブン&アイ・ホールディングスが6日、2019年度までの中期経営計画を発表した。百貨店・総合スーパー(GMS)事業が不振に陥るなか、井阪隆一社長が断行する改革の目玉はエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)との資本業務提携だ。そごう神戸店(神戸市)など関西の3店舗をH2Oに譲る。カリスマ経営者と呼ばれた前会長の鈴木敏文氏がグループに取り込んだ百貨店事業を大幅縮小する。新帝王はカリスマの負の遺産にメスを入れた。

「鈴木前会長には報告していません」。6日、東京都内で記者会見した井阪氏は、新たな中期経営計画の内容について鈴木氏には話していないと淡々とした表情で語った。鈴木氏は2005年にそごう・西武を買収、百貨店事業を取り込み、コンビニエンスストア、GMSなどからなる国内最大級の小売り帝国を築いた。しかし、井阪氏は百貨店やスーパー関連の減損処理を実施、17年2月の連結決算の純利益は前期比50%減の800億円に落ち込む。

業績不振でも不敵な笑み

今期のセブン&アイの連結業績予想は芳しくない。営業収益は前期比4.6%減の5兆7700億円、営業利益は0.2%増の3530億円。今年5月に社長に就任した1年目の社長の通信簿としては決して合格点とは言えない。しかし、会見時の井阪氏の表情に暗さはなかった。むしろ不敵な笑みさえ垣間見られた。

井阪社長の誕生の経緯はよく知られたとおりだ。4月に鈴木氏が突如セブン―イレブン・ジャパン社長だった井阪氏を退任させる人事案を取締役会にかけた。それに対して社外取締役の伊藤邦雄氏(一橋大学大学院特任教授)らは「井阪氏は業績を上げている」として同案を否決。鈴木氏は会長職を辞し、セブン&アイの経営から離れた。取締役会は新社長に井阪氏を選んだ。いわば現代の下克上、「セブンの変」が起こったのだ。

井阪氏は「経営体制が25年ぶりに変わった。社長に就任して100日、新しいグループのあり方について考え続け、変えるべきモノは変えようと決意した」という。7月にH2Oの経営陣に接触、提携を打診した。大阪・梅田を本拠地として阪急百貨店や阪神百貨店を展開するH2Oにそごう神戸店など3店舗の譲渡を申し出た。

鈴木敏文氏

鈴木敏文氏

「そごう神戸店はもう82歳」

そごう神戸店は神戸市中心部の三宮に立地、旧そごう時代の旗艦店。譲渡するには惜しいとの見方もある。「確かに売上げも400億円程度あるし、少し利益も出ているが、もう築82年、82歳だ。老朽化が著しく改装するのにコストがかかる」と井阪氏はこう説明した。会見中、井阪氏は百貨店やスーパーの老朽化対策について何度も言及、その都度、築年数を年齢に置き換えた。83歳の鈴木氏の顔がよぎっていたのかもしれない。

井阪氏は創業者の伊藤雅俊・名誉会長が創り上げたイトーヨーカ堂の構造改革にも踏み込んだ。不採算店は次々閉鎖するほか、GMSは食品をベースとしたスーパーにシフト。不動産再開発も進める。「好立地の物件は不動産再開発の対象とし、食品スーパーやマンション、託児所などの複合施設に改造すれば、新たなニーズが生まれる」(井阪氏)と自信満々に語った。

鈴木氏の息子、セブン&アイ取締役の康弘氏が手掛けたオムニチャネル戦略も抜本的に見直す。井阪氏は「これまでEC(電子商取引)を対象にシステムの視点でやってきたから失敗だった。今後は顧客視点で全面的にやり方を変えてゆく」と強調した。康弘氏はもともとシステムエンジニア。井阪氏の発言からすると、社内では厳しい立場に置かれてるようだ。

井阪氏は鈴木氏にコンビニ事業をゼロからたたき込まれたまな弟子だった。しかし、社長就任からわずか約4カ月で、一気にカリスマの「負の遺産」処理に切り込んだ。中期経営計画では19年度の連結決算で営業利益として4500億円、ROE(株主資本利益率)10%の目標を掲げる。井阪氏は、伊藤氏と鈴木氏という「2人の創業者」が築き上げたセブン&アイ帝国の再生に全力を注ぐ構えだ。会見後、報道陣の囲み取材を拒否するようにサッと会場を後にした井阪氏。3年後の記者会見で満面の笑みを浮かべられるのだろうか。

(代慶達也)

「キャリアコラム」は随時掲載です。

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック