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「世の中を見回すと、やる気を失った社員、不満を抱く部下、悩める中間管理職があまりに多く、その一方で、過ちを犯し、職を失うリーダーも後を絶たない」。スタンフォード大学ビジネススクールの名物教授で、経営学修士(MBA)のコースで組織と権力について教えているジェフリー・フェファー氏はこのように指摘する。同氏の最新刊『悪いヤツほど出世する』から、世の中に出回るリーダー論の「ウソ」を小気味よく指摘する序章を7回に分けて紹介しよう。

にもかかわらず、職場は不満だらけ

リーダーシップ開発にこれほどの時間と資金が投じられているにもかかわらず、職場の状況は、アメリカでも世界を見渡してもいっこうに改善されていない。やる気をなくした不平不満たらたらの社員であふれている。いくつか証拠をお目にかけよう。

数年前、スタンフォードの同僚である経営学教授のロバート・サットンは、『あなたの職場のイヤな奴』(邦訳は講談社刊)という本を書いた。この本は多くの読者の熱烈な共感を得て、全世界でベストセラーになった。2冊買って1冊は上司のデスクにこっそり置いてやったという読者が大勢いた。自分の職場のイヤな奴にどう対処するかを学ぼうと、自分のために買って読んだ人はもっと大勢いた。サットンの元には、自分の職場のいじめや侮辱や圧力をことこまかに描写したメールがたくさん送られてきたという。なかには涙なくして語れないようなものもあった。サットンの本がこれほど売れ、読者からストレートな反応があったのは、よからぬリーダーがいかに多いかを雄弁に物語っている。

そしてこのことは、データでも裏付けられている。職場のいじめ調査などでは、怒鳴る、大声で叱責する、威嚇するといった言葉の暴力が報告され、職場の雰囲気がとげとげしくなっている現状が浮き彫りにされてきた。イギリスのスタフォードシャー大学で社会人学生が行った調査では、過去にいじめを受けたことがあると答えた回答者は全体の半数にのぼった。やはりイギリスの国民保健サービスが1100人の被用者を対象に行った調査では、38%が過去1年間にいじめを受けたと回答している。国民保健サービスで働く看護師を対象にした調査では、看護師の44%が過去12カ月の間にいじめを受けたと答えた。またジョージタウン大学で経営学を教えるクリスティーヌ・ポラスらの共同研究によると、アメリカの被用者の10%は、職場で毎日のようにいじめを目撃しているという。回答者の約20%が、週に1回以上いじめのターゲットになっていることもわかった。

部下をいじめるイヤな上司のいる不健全な職場で働くことは、部下にも上司にも影響をおよぼす。部下はストレスを感じ、精神的にも肉体的にも傷つく。そして、「職場でのいじめや抑圧的な雰囲気のせいで、部下の働く意欲は減退し、パフォーマンスは低下する」。そして辞めていく人が増える。

とげとげしい職場や威圧的な上司に悩まされる部下は、当然ながら自分の仕事に満足していない。全米産業審議会の委託を受けてニールセンが行った全国調査によると、現在の仕事に満足していると答えた被用者は半分を下回る47.2%にとどまった。この調査は1987年から行われており、仕事に対する満足度は懸念すべき下降傾向を示している。初年度の1987年には61.1%だったのが、25年後には47.2%まで下がったのである。しかも、不況からの回復期に一時的に上向いた以外は、一貫して下がり続けてきた。

2012年にライトマネジメントがアメリカとカナダで実施した仕事満足度調査では、満足していると答えたのはわずか19%で、回答者の3分の2が満足していないと答えた。フォーブス誌のライターであるスーザン・アダムスは、人材コンサルティング会社マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティングが行った調査の結果を報告している。それによると、全世界で約3万人の被用者を調査した結果、国によってばらつきはあるが、28~56%がいまの仕事を辞めたいと答えたという。

次に、社員のやる気を示すデータを紹介しよう。ギャラップが2012年に発表した調査報告によると、アメリカでは仕事に意欲的な被用者は全体の30%にすぎないという。それどころか、20%は仕事を怠け、職場の雰囲気を悪くし、会社の評判を落としている。また142カ国で行った調査によれば、アメリカ以外の状況はもっと悪い。仕事に意欲的な労働者はわずか13%で、24%が怠けている。しかもここ数十年で経済のあり方はがらりと変わったにもかかわらず、やる気のある社員の比率はほとんど変わっていないという。ギャラップ以外の調査も同じような結果になっている。要するに大方の社員は自分の仕事がきらいで、やる気がなく、転職を希望している。

一段と問題なのは、部下が上司に不満を抱いていることだ。それも、並大抵の不満ではない。2012年夏にパレード誌がアメリカ企業を対象に行った職場調査の結果を発表したが、それによるとなんと被用者の35%が、直属の上司の解雇と引き換えなら昇給を諦めてもいいと答えている。

以上をまとめると、こうなる。だいたいにおいて職場の状況は芳しくない。不健全な職場は社員に悪影響をおよぼす。この状況はアメリカでも他国でも変わらない。また、状況が改善される兆しは見当たらない。したがって、リーダーシップに関する本や講演やブログがどう言おうと、リーダーシップ教育のおかげで職場がよくなったという証拠は存在しない。

リーダーシップ研究の大半は、リーダーシップはリーダーの行動に表れるとし、その成果は仕事満足度、部下の意欲、離職率などで測定できるとしている。となれば、いま挙げたデータはリーダーシップのお粗末さを、ひいてはリーダーシップ教育産業の失敗を意味すると言ってよかろう。リーダーシップに関する最近の研究論文をひもとくと、「リーダーシップのあり方と部下の仕事満足度の関係が近年注目されている」「マネジメントとリーダーシップは、社員の満足度を左右するきわめて重要な要素である」「質の高いリーダーシップは、仕事満足度を予測するよい判断材料となる」といった指摘が目につく。多くの研究が示すように、リーダーシップが部下の仕事満足度や意欲や離職率に影響を与えるなら、職場の実態を示すデータを見る限り、リーダーシップがうまく機能していないことはあきらかである。

(村井章子訳)

ジェフリー・フェファー(Jeffrey Pfeffer)
スタンフォード大学ビジネススクール教授。
専門は組織行動学。『「権力」を握る人の法則』『なぜ、わかっていても実行できないのか』など、これまで14冊の著作があり、とくに権力やリーダーシップなどのテーマで高い人気を誇る。経営学の第一人者として知られ、ロンドン・ビジネス・スクール、ハーバード大学ビジネススクール、シンガポール・マネジメント大学、IESEなどでも客員教授として教鞭をとるかたわら、複数のソフトウェア企業や上場企業、非営利組織の社外取締役も務める。

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