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ワインの健康効果は価格と関係あるか

2016/10/9

赤ワインは黒ブドウを原料に、果皮や種子ごと発酵させる。写真は代表的な黒ブドウ品種「カベルネ・ソーヴィニヨン」((C)Magdalena Paluchowska -123rf)
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今、ワインが人気だ。実はここ数年は「第7次ワインブーム」と言われ、日本のワインの消費量は過去最大を更新している。今なぜ、ワインが人気なのか? その背景には、安くておいしいワインが手軽に入手できるようになったという面もあるが、忘れてならないのが「健康にいい」というイメージだ。そこで、知られざるワインの健康効果を紹介していく。
この記事では、ワインの醸造方法と価格、製造過程で加える酸化防止剤、そして最近話題の自然派ワインについて詳しく見ていこう。

最近は、安くておいしいワインが手軽に入手できるようになった。しかし、ワインと一口に言っても、価格はもちろん、味わいはさまざまだ。ワインに健康効果があるといっても、どんなワインでも等しく健康効果があるのだろうか。また、醸造過程で加えられるという「酸化防止剤」を気にする人も少なくない。最近では、「自然派ワイン」「ビオワイン」などと呼ばれるワインも人気で、専門店も増えている。これらは普通のワインと何が違うのだろうか。

メルシャン酒類研究所所長を務め、醸造と健康効果両方の研究に取り組んできた山梨大学ワイン科学研究センターの佐藤充克客員教授にこれらの疑問を聞いていく。

■安いワインと高いワインは何が違う?

赤ワインは果皮や種子も含めて発酵させるのがポイント。発酵後のワインは、酵母や酒石などのオリ(澱)が沈降する。これを取り除くのがオリ引き

まずは、ワインの製造方法を簡単におさらいしておこう。ワインの原料は、ご存じの通りブドウ。ブドウを搾った果汁を酵母によりアルコール発酵させてできたお酒がワインだ。

赤ワインを例にもう少し詳しく説明しよう。赤ワインの場合、材料になるブドウは黒ブドウ。カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、ピノ・ノワールなどが代表的な品種だ。このブドウの実を破砕し、果皮や種子ごと発酵槽に入れる。ここに酵母を入れ(ブドウについている天然酵母を使うケースもある)、アルコール発酵させる。アルコール発酵とは、ブドウに含まれる糖分が酵母によりエタノールへと変化する過程のこと。この過程によりブドウに含まれる糖分は消費されるため、ワインに含まれる糖質は少なくなる。

発酵槽では、数日から1カ月程度かけて発酵(主発酵)およびポリフェノールなどの抽出(醸し)を行った後、乳酸菌によってリンゴ酸を乳酸と炭酸ガスに分解するマロラクティック発酵(乳酸発酵)が行われる。

その後、液体部分(ワイン)と果皮や種などの固形部分に分離する。固形部分にもワインが含まれているので、圧力をかけて、ワインを搾り取る(圧搾)。なお、高級ワインの場合は、圧力をかけずに、自然と流れ出た液体部分のみ使うケースもある。こうしてできた若いワインは、たるなどの中で寝かして熟成させる。一般にたるでの熟成期間は、数十日程度から3年程度と幅がある。底にたまったオリ(澱)は取り除かれ、フィルターなどでろ過して不純物などを取り除いて、瓶詰めされる。なお、フィルターをかけると、おいしさに影響する成分まで取り除くことになるということで、フィルターを通さない無ろ過(ノンフィルター)のワインも多くある。

一方、白ワインは、シャルドネやソーヴィニヨン・ブラン、リースリングなどの白ブドウから作られる。ただし、赤ワインのように、果皮や種子ごと発酵させるのではなく、先に圧搾して搾汁したブドウ果汁をアルコール発酵させる点が異なる。白ワインが赤ワインに比べてポリフェノールが少ないのはこの製法による違いが影響している。ちなみに、白ワインは白ブドウから作られると説明したが、黒ブドウからも作ることができる。黒ブドウの果皮を含まないように搾汁した果汁を発酵させれば白ワインになる。

■一番安いワインは、ブドウの濃縮ジュースから作られる

最近は、フルボトルのワインでも、1本500円程度からととてもリーズナブルに購入できるようになっている。これら安いワインは、数千円以上する高級ワインと何が違うのだろうか。佐藤教授に聞いてみた。

「銘柄によっても異なるので一概には言えませんが、最も安い価格帯のワインはブドウの濃縮ジュースを発酵して作られています。チリやアルゼンチンなどで栽培されたブドウを現地でジュースにして、濃縮させて日本に輸入し、これを国内で酵母を入れ発酵させて製造したものです※。これだけ安くできる理由は、ワイン用の濃縮ジュースがとても安いためです」(佐藤教授)

※こういったワインは、背面のラベルなどに、輸入されたブドウ果汁を使用していることが書かれている。

こうして作られたワインは、ブドウから直接製造するワインに比べて、やはり味わいの面では劣るという。「果汁を濃縮する段階で、ブドウに含まれるうまみ成分が落ちてしまうのが原因です。しかし、最近では、発酵に使う酵母の選別技術も進み、以前に比べて香りや味わいは確実に向上しています」(佐藤教授)

「次に安いのが、近年、輸入量が急増しているチリ産など、南米で生産されているワインです。こちらは、ブドウの濃縮ジュースを使って製造されているものではなく、ブドウから直接醸造しているワインですが、フランスなどに比べて、ブドウそのものが安く購入できるため、最終成果物のワインも安くできます。チリなどでは、大量に生産できるうえに人件費も安い。安いものだと500円程度からあります。近年は品質の向上が著しく、フルボトルで1000円くらいからおいしいワインが手に入ります。私も普段楽しんでいるのはこのクラスのワインですね」(佐藤教授)

■高額ワインは生産本数が少なく、“希少性”で高くなる

「ワインというと、フランスを思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、フランスは、人件費も安くはありませんし、畑の面積も限定されます。生産する本数も少ないため、安くはなりにくいのです。有名なロマネ・コンティというブルゴーニュ産のワインは、年間にたった5000~6000本程度しか生産していません。それだけ少ないワインを、世界中のワイン愛好家が欲しがるため、驚くほど高くなるのです」(佐藤教授)。ロマネ・コンティは世界で最も高価と言われるワインで、1本数十万円以上で100万円を超えて取り引きされることも珍しくない。

佐藤教授によると、同じヨーロッパでも、スペイン産のワインは高品質なものが安価に購入できるのでお薦めだという。「スペインでは、現地の人は『フルボトルで1本5ユーロを超えると高くて買えない』と話しています。もちろんスペインにも数万円以上する超高級ワインもありますが、一般にスペインで高級と言われるワインでも20ユーロくらいで購入できます。その数倍以上するようなフランスワインに引けを取らない味わいのものが、日本でも数千円で買えますよ」(佐藤教授)

■健康効果は安いワインと高いワインで違う?

では、「健康効果」という面で、高いワインと安いワインに違いはあるのだろうか。

佐藤教授によると、「安くても健康効果は基本的に同じです。ただし、濃縮ジュースを発酵させて造った場合は、果汁を濃縮する段階を経ることで味わいは落ちます。ポリフェノールの量も少なくなるので、健康効果も低くなります」(佐藤教授)

「ブドウの品種による違いはあります。赤ワインの健康効果の代名詞となっているポリフェノールの含有量はブドウの品種により異なります。濃厚でしっかりした味わい(フルボディ)のカベルネ・ソーヴィニヨンはポリフェノールが多く含まれていますから、健康効果が高いといえるでしょう。チリなどで生産されているフルボディのカベルネ・ソーヴィニヨンなどは、割安なのでお薦めです。また、赤ワインに含まれるポリフェノールは、数年程度熟成させることで抗酸化作用が向上します。ポリフェノールの総量は同じでも、より効くようになるのです。このため、数年熟成させた高額なワインはより健康効果が高くなると言えます」(佐藤教授)

■酸化防止剤の使用量は減少傾向にある

ワインの成分表示をよく見ると、ほとんどのワインに「酸化防止剤(亜硫酸塩)」などと書かれている。この酸化防止剤の健康への影響を気にする人も少なからずいる。この影響はどうなのだろうか。

ワインの背面などに貼られているラベルを見ると、酸化防止剤(亜硫酸塩)が含まれているという表示がある。上はフランス・ブルゴーニュの著名ワイン。これに限らず高級ワインのほとんどに酸化防止剤が添加されている

ワインに使われる酸化防止剤とは主に亜硫酸塩で、硫黄を燃やした気体である二酸化硫黄(SO2)が液体に溶けたものだ。これは、ワインが酸化して劣化するのを防ぎ、ワインに好ましくない雑菌などが繁殖するのを防ぐために添加する。

「亜硫酸を使った酸化防止は、近年になって使われるようになったわけではなく、古代ローマ時代から使われています。亜硫酸により雑菌の繁殖を防ぎ、ワインの劣化を防いだわけです。健康に害がないかと不安に思われる方もいらっしゃいますが、使用が認められている基準では、長年にわたって日常的にワインを摂取しても、健康に害を及ぼすことはありません」(佐藤教授)という。

「最近は、酸化防止剤を必要最小限にしようと生産者が努力を重ねています。日本では、亜硫酸塩の添加は350ppm(1リットルあたり350mg)以下まで認められていますが、最近のワインを調べた範囲ではほとんどのワインで50~100ppm程度です。確実に使用量は減少傾向にあり、20年ほど前と比べると半分程度に減っています」(佐藤教授)

■酸化防止剤は数万円以上の超高級ワインにも使われている

「酸化防止剤の添付は、ワインの高い安いには関係ありません。高級ワインは長期熟成を前提にしたものが多くありますが、これらのほとんどに酸化防止剤が添付されています。数万円から数十万円するような超高額ワインにも添付されています」(佐藤教授)

最近は健康志向の中、酸化防止剤無添加をうたうワインも店頭で目にする。各ワインメーカーは、消費者のニーズにこたえて、無添加のワインもラインアップとして用意しているのだ。

佐藤教授によると、「酸化防止剤を使わないワインは製造可能ですが、酸化を防ぐための設備なども必要になります。無添加でおいしいワインを造るのは簡単ではありません」という。「ワインは空気(酸素)にさらされていると酸化して味が劣化します。特に、ワインの保存状態で酸素を完全に抜くことが必要です」(佐藤教授)

■人気の「ビオワイン」は生産者を選んで買う

最近は、有機栽培されたブドウを使用し、農薬を使用しない(もしくは使用を抑える)、天然酵母を使うなどの人工的な処置を極力しないことを特徴にする自然派ワイン(ビオワイン)が数多く登場して、人気になっている。

実は、自然派ワイン(ビオワイン)には明確な定義がなく、生産者や団体によって方針は異なっている。「自然」「ビオ」といっても、生産者の考えや捉え方に幅があるのだ。EUでは2012年に、域内で生産される自然派ワインの一種、オーガニックワインの基準を定めたが、二酸化硫黄はここでも酸化防止剤として使用を認められている。自然派ワインだからといって、酸化防止剤が使われていないわけではないのだ。ただし、従来のワインより上限が抑えられており、1リットルあたり最低でも30~50mg少ない。上限は1リットル当たり赤で100mg、白・ロゼで150mg(残糖度により多少上限値が変わる)。

佐藤教授によると、自然派ワインで高品質なものも登場しているが、自然派ワインはその製法上、高品質のワインを安定して作るのが難しい面があるという。

「ワインの質を決めるのは何と言ってもブドウの品質です。ブドウが病気になったり腐敗したりすると、いいワインはできません。しかし、雨が多く続くような環境では、農薬に頼らず、完熟した高品質のブドウを収穫するのはとても難しいのです。当然、その年の天候によって大きく左右されるわけですが、フランスや日本のように、ある程度の降雨が避けられない環境では、毎年健全なブドウを安定して収穫するのは簡単ではありません。自然派ワインにはすばらしいものもありますが、高品質のワインを生産するには技術やノウハウが欠かせません。きちんと勉強せずに造った品質の悪いワインもあります。生産者選びには注意が必要です」(佐藤教授)

■乾燥した場所では健全なブドウが収穫しやすい

「一方、アメリカやオーストラリアのワイナリーなどのように、雨が少なく乾燥しているエリアでは、栽培しているブドウにカビが生えたり、病気になったりしにくいのです。このため、農薬などに頼らずとも毎年安定していいブドウができます。このように雨の少ないエリアでは、高品質な自然派ワインをつくりやすいといえるでしょう」(佐藤教授)

フランスなどの有名ワイナリーで自然派ワインをつくっているところもあるが、そういったワイナリーでは、ブドウ畑に必ず人がいて常に手入れを欠かさないなど、畑の管理に非常に手間をかけているそうだ。「これを実現するには当然コストがかかります。そこまで手間をかければ、すばらしいものができる可能性があります」(佐藤教授)

自然派ワインに限った話ではないが、ワインを選ぶ際にはやはり生産者を選んで買うのが大切だ。最近では、自然派ワインを扱うワインショップやレストランも増えている。まずは“プロ”に相談しよう。場合によっては、試飲させてもらえるケースもある。また、ワイン専門誌などでも頻繁に特集を企画している。話題の作り手がどこで、どんな方法でつくっているかも詳しく紹介しているので、参考にするといいだろう。

佐藤充克(さとう・みちかつ)さん


山梨大学ワイン科学研究センター・客員教授。農学博士。東北大学農学部卒業後、メルシャン入社。東京大学農学部、カリフォルニア大学デービス校を経て、メルシャン酒類研究所・所長に就任。赤ワインのポリフェノールの研究を進める。NEDOアルコール事業本部、研究開発センター所長、山梨大学大学院ワイン科学研究センター、ワイン人材生涯養成拠点・特任教授、山梨県果樹試験場・客員研究員などを歴任。ワイン及びポリフェノールに関する論文多数。

(大塚千春=フリーエディター・ライター)

[日経Gooday 2016年9月9日付記事を再構成]

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