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東京大学

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2016年のノーベル生理学・医学賞に東京工業大学の大隅良典栄誉教授の受賞が決まった。大隅教授は東京大学出身。ノーベル受賞者の出身大学別で東大は8人となり、ライバルの京都大学の6人を突き放した。しかし、東大時代の研究の成果でノーベル賞を受賞した人は意外と少ないとの指摘もある。

ノーベル賞が決まった東京工業大学の大隅良典栄誉教授も東大出身だ

ノーベル賞が決まった東京工業大学の大隅良典栄誉教授も東大出身だ

「東京大学に残っていたら、ここまで研究は広がらなかった」。日本経済新聞社のインタビューに大隅氏はこう語った。「東大が悪かったわけではないが、本当に全てのことをひとりでやらないといけなかった」として、1996年に東大助教授から岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所(当時)に移籍。同研究所で他の教授との交流が「研究生活の大きな転機だったと思う」と大隅氏は振り返る。

東大よりも米研究機関で成果

自然科学分野のノーベル賞を東大出身で受賞したのは、米国籍となった南部陽一郎氏を含めると5人だ。しかし、1973年に受賞した江崎玲於奈氏は現在のソニーや米IBMなど民間企業の研究機関で成果を上げた。根岸英一氏も帝人を経てペンシルベニア大学など米国で研究を続けた。南部氏もシカゴ大などで研究成果を磨いた。東大を研究のベースとしたと言えるのは、東大理学部の教授になった小柴昌俊氏と今回の大隅氏ぐらい。その大隅氏も東大時代の研究活動には十分に満足していなかったというわけだ。

一方、京大のノーベル賞受賞者は6人。全員が自然科学分野だ。日本人として初めて受賞した湯川秀樹氏と2番目に受賞した朝永振一郎氏は学生時代からの同期。切磋琢磨(せっさたくま)し、理論物理学者として競い合い、大学の近くの「哲学の道」を散策しながら、独創的な思考を磨いた。ノーベル生理学・医学賞で日本人の第1号となった利根川進氏は東京都立の日比谷高校出身だが、あえて京大に進学している。

京都大学

京都大学

京大の場合は他大学の出身でありながら、ここでの成果を研究の基盤とするノーベル賞受賞者も少なくない。物理学賞を共同受賞した益川敏英、小林誠両氏は共に名古屋大学の出身だが、成果を上げたのはいずれも京大の助手時代だった。iPS細胞で知られる山中伸弥氏は神戸大学出身だが、京大教授として実績を上げている。

しかし、東大は研究施設や教官数では断トツの存在だ。事業規模を示す経常収益は2357億円(15年度)と京大の1.5倍以上だ。当然、国からの東大への予算配分は手厚い。15年度の運営費交付金は東大が804億円に対して京大は548億円。これほどの厚遇でありながら、東大は京大と比べてノーベル賞の自然科学分野では十分な研究果実を出していると言い難い。

「コスパ」が見合わない

なぜなのか。東大生に聞くと、「ノーベル賞には憧れるが、コストパフォーマンス(費用対効果)が見合わない。長期間の忍耐強い研究が必要だし、成果が出る人はごく一握り」(工学部3年生男子)。「先生たちが高齢化しているし、オーバードクターで教授職にもなかなか就けない」(理学部4年生男子)。今の東大生は極めて現実的だ。

東大理学部から博士課程を経て千葉大学に転じた助教は「やっぱり官僚的で保守的だったからでは。東大の『エリート研究者』とは、海外の研究機関と行き来しながら『東大卒、東大助手、東大准教授、東大教授』という4つの階段を上った人をいう」と解説。さらに、「ただ、ノーベル受賞者でこの条件をクリアしたのは小柴先生ぐらいでしょ。東大教授の肩書を持つ人は多いけど、そんな人に限って処世術にたけてはいるが、ノーベル賞級の独創的な研究はやっていない」と指摘した。

しかし、東大も純血主義から脱しつつある。15年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章・東大特別栄誉教授は、大学院からは東大だが、出身大学は埼玉大学だ。今回、ノーベル賞の決まった大隅氏は、東大を離れて基礎生物学研究所で、様々な研究者と交流して議論を深め、研究が進んだとしている。米欧の大学では研究者のダイバーシティー(多様化)が革新的な研究成果につながるというのは常識的な考え方だ。東大の研究陣にも、他大学出身者や外国人、女性などが増えている。「ノーベル賞の東大」といわれる日は来るのだろうか。

(代慶達也)

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