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読書の秋に思う 極地写真家・星野道夫さんとトナカイ

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NIKKEI STYLE

「今月の原稿を書こう!」と、やっと意を決したのが9月27日。「読書の秋だな」と思い、ふと事務所の書棚から手にしたのが「星野道夫展~星のような物語~」。写真集です。くしくも、星野道夫さんの誕生日でした。

「写真集は読書ではない」と思われるかもしれませんが、僕の中では読書です。一枚一枚の写真の中に物語を感じるからです。星野さんの写真はどれも動物単体ではなく、背景の色や光も含め、自然の持つ調和やバランス、厳しさ、包容力、被写体のヒストリーを感じます。自然という調和の中で生きる「全体の中の個」。それはヒトも含め、そうでありたいと強く願った星野さんのメッセージのように感じます。

昭和61年(1986年)。僕は廃園がまことしやかに噂される旭山動物園に就職し、飼育という、星野さんとは正反対の視点から野生動物のすごさ、素晴らしさを知りました。動物系の雑誌などで目にした星野さんの写真に引き込まれたのも、そのころです。平成8年(96年)に年間入園者数が26万人と過去最低になった年に、星野さんはカムチャツカ半島でヒグマに襲われ、亡くなりました。

平成18年(2006年)、年間入園者数が300万人を達成。自分の中では「パンダやラッコでなくても、スズメもアザラシもみな、素晴らしい生き物なんだ」と伝えたくて、それを具体化し続けた結果なのだと信じていました。ところが、周囲の評価は経済効果や地方再生のお手本、イノベーションなど、自分の思いとはかけ離れた軸で走り始めました。

そんな時、星野さん没後10年の展覧会が札幌で開かれるのを知り、手にしたのが「星のような物語」でした。僕にとって、星野さんは節目節目で目を覚まさせてくれる、力をもらえる縁のようなものを感じる存在です。没後20年の今年、北海道では今のところ特別展はないようですが……。手元には雑誌が一冊、あります。「こんにちは、星野道夫。」

さて星野さんの活動の地はアラスカ、極地でした。極地に行けば行くほど曖昧な要素がそぎ落とされ、生きる本質が見えてくるように思います。星野さんの写真集にも取り上げられている、トナカイ。1年の10カ月近くを地面が露出しない極地で生活する、シカの仲間の草食動物です。

トナカイには、極地での生活に特化した特徴がたくさんあります。外見の一番の特徴は鼻の頭(鼻鏡)にも毛が密生していること。鼻の頭とはイヌやネコ、ウシやシカとも同じで、鼻の先の毛のない一般的には黒い部分です。ホッキョクグマでも鼻の頭は黒くて、毛が生えていません。トナカイは蹄(ひずめ)や角で固くなった雪をかき分け、鼻ずらも使って地面に到達し、こけや下草を食べます。極寒の地で生き抜くたくましさの象徴的な特徴です。

ちなみにクリスマスの定番ソング、「赤鼻のトナカイ」の真っ赤な鼻のルドルフ。鼻が赤いのでいつもバカにされていたルドルフに対し、サンタさんが「暗い夜道は、お前のピカピカの赤い鼻が役に立つのさ」とほめる、何ともすてきな話です。ルドルフにはきっと、鼻の頭に毛が生えていなくて、寒さと雪を掘るためにいつも霜焼け状態で、真っ赤だったんだと僕は思います。

もう一つの特徴は、歩く時に発するカチカチという音です。蹄も大きく扁平(へんぺい)で、雪の上でも歩きやすいような形なのです。耳を澄まして足音を聞くと、歩いても走っていても「カチカチカチカチ」と、何ともいえない澄んだ音がします。土の上だと地面と蹄が接する音も混じるのですが、雪上では神秘的にさえ聞こえます。明らかに蹄の付近、つまり指の部位から聞こえるのですが、蹄同士がぶつかっている音でないのは確認できます。

どうも僕たち人間が「首ポキ」とか「指ポキ」など、関節を鳴らすのと同じ原理のようです。ただ首ポキ、指ポキもなぜ音が鳴るかの定説はないようですが、関節内でのある種の真空現象に伴うものとされています。死亡したトナカイの蹄部の関節をさまざまな角度で動かしても、音は再現できません。つまり、骨と骨や骨と腱(けん)が機械的に接触して鳴る音ではないと考えられます。少なくとも生きていなければ、鳴らないようです。しかも、ヒトでは一度指ポキをすると、数十分ほど間隔をあけないと同じ関節から音は出せませんが、トナカイではつねに、音がします。不思議です。

原理はさておき、この音は極地では冬の間24時間、ほとんど暗闇の状態とともに続きます。さらに地吹雪など、視界がゼロの状況も頻繁に起こります。カチカチ音は親子や群れがはぐれないための、とても大切な音だといわれています。生き抜く絆なのです。

もう一冊ご紹介したいのは、柳澤桂子さんの「生きて死ぬ智慧」です。平成17年(05年)の冬に、ラジオの朗読番組で出合いました。「苦のなかにいて、苦のままで、幸せに生きることができるのです」のフレーズを聴いた瞬間、頭の中の霧が一気に晴れました。

この本のことは長くなったので、次回また。

ちなみに、この秋に出合った本の中で僕のベストは、「読むのが遅い」と叱られそうですが、川村元気さんの「世界からネコが消えたなら」でした。

坂東元(ばんどう・げん)1961年旭川市生まれ。酪農学園大学卒業、獣医の資格を得て86年から旭山動物園に勤務。獣医師、飼育展示係として働く。動物の生態を生き生きと見せる「行動展示」のアイデアを次々に実現し、旭山動物園を国内屈指の人気動物園に育てあげた。2009年から旭山動物園長。

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