MONO TRENDY

小沢コージのちょっといいクルマ

ホンダNSX デキは良い。が、なぜか心底喜べない。

2016/10/13

初代デビューから26年、生産中止になってから11年ぶりに登場した2代目「NSX」

■ホンダは欧米スーパーカー界に殴り込みをかけたのか?

非常に悩ましい話題作が登場した。日本が誇る本格的ミッドシップ・スーパーカー、ホンダ「NSX」の2代目だ。すでにテレビやネットで紹介されているので、ご存じの人も多いはずだが、まずは奇跡の復活劇を喜びたい。

なぜなら今や世界で年間1000万台以上も売る世界最大のトヨタグループでも、スーパーカー市場にはほぼ食い込めていないのが現状だからだ。実際、NSXが出るまでの国内最高価格の四輪車は、1500万円強のトヨタグループのレクサス「LS600hL」。それも主にビジネス用に使われる、ある種の実用高級車だ。

比べると最近出た純粋娯楽たる国産2人乗り本格スーパーカーは、レクサスが6年前に生産した「LFA」のみ。しかも世界500台限定(2012年12月に生産終了)と試し売りレベルにとどまっており、世界で頂点に立つイタリアのフェラーリやランボルギーニ、英国のマクラーレンの三大スーパーカーブランドにはまったくもってかなわない。

いってみればルイ・ヴィトン、グッチ、エルメスなどほとんどがフランスやイタリアの欧州ブランドに独占されている高級ファッション界にも似た状況だ。

対してNSXは初代デビューから26年、生産が途絶えてから11年ぶりの復活だけあって、覚悟は決まっているかのようで、生産は当面継続するという。しかも2代目の造りの本格度は格段に上がり、税込み価格は初代の約3倍となる2370万円! ライバルのフェラーリ「カリフォルニアT」、ランボルギーニ「ウラカン」にほぼ並んだわけで、ホンダは2015年に自動車レース、F1グランプリに復帰したが、続けざまに欧米スーパーカー界に殴り込みをかけたのか? と一瞬思えなくもない。自動車メディアに関わるものとして期待せずにはいられない状況なのである。

全長×全幅×全高は4490×1940×1215mm。フェラーリ488GTBより全長はわずかに短いが、幅や高さは同等

■どこかとがりきってない印象が漂う

というわけで神戸の新型NSX試乗会に訪れた小沢。だが、その姿は期待を感じさせつつも残念さが残るなんとも微妙な出来だった。

全長×全幅×全高は4490×1940×1215mmと本格的。これは世界のミッドシップカーの頂点たるフェラーリ「488GTB」よりわずかに短いが、幅や高さは同等。しかしフォルムは本格的でも、フロントマスクは同社の量産ハッチバック「フィット」を押しつぶして平たくしたよう。他より抜群に美しいとは言いがたい。

かたや中身はものすごい。ボディーは製法の違う数種のアルミを使った軽量&超高剛性のスペースフレーム。技術的にもフィーリング的にもライバルもかくやの出来で、外板は軽量アルミ材からカーボン材から耐熱プラスチックまで使われている。

パワートレインもすごい。ホンダ独自のパワーとエコと操縦性を両立した3モーター式ハイブリッドで、新設計の3.5リッターV6型6気筒ツインターボをリアに搭載して1モーターを直結。そのうえ、左右フロントタイヤにモーターをそれぞれ配し、システム出力は合計で581ps!

これが実際に乗ると発進はモーター、伸びはエンジンという具合に補い合うので、発進から高速までスキなく速いうえに、驚きはコーナリングだ。フロント左右に配備したモーターにより、左右回転トルク差を絶妙に制御。コーナー進入時にはインにピタっと寄り、脱出時はムダに膨らまず、狙い通りに曲がる曲がる!

しかもインストルメントパネルのセンターの使いやすい位置に、4つの走行モードが選べるダイヤルが付いている。その中で一番エコな「クワイエットモード」を選ぶと、最初の一瞬は静かに電気自動車(EV)としてスタートする。……といってはみたもののものすごいエコというほどではない。JC08モード燃費は12.4km/Lで、同じエコ系スーパーカー、BMW「i8」のハイブリッド走行時の19.4km/Lに負ける。

つまり、コーナリングは確かに面白いし、本格的な中にも、絶妙にうま味調味料が効いたような独特のテイストが味わえるが、スタイル的インパクト、加速的インパクト、エンジンサウンド的インパクトは突出していない。

ライバルのフェラーリやランボルギーニと比べて地味さもあり、どこを狙っているのか分からない部分も見えてくるのだ。

走行モードは静粛性を目的とした「QUIET Mode(クワイエットモード)」や走りと燃費をバランスさせた「SPORT Mode(スポーツモード)」の他「SPORT+ Mode(スポーツプラスモード)」、「TRACK Mode(トラックモード)」の4つがある

■ブランドビジネスを本気でヤル気があるの?

それは当のホンダも熟知しているようで、今回私が最も拍子抜けしたのは販売目標台数だ。グローバルで年間わずか1000台、なかでも大半の900台はスポーツカー天国の北米でさばく予定で、わが日本ではたった100台のみ。

ホンダ関係者はいう。

「実際、いま日本で売れる2000万円台のスポーツカーマーケットはせいぜい400台。その内100台でも取れたら御の字でしょう」

確かにそれが冷静な判断なのだろう。とはいえ正直ガッカリした。年間100台ということは月間販売数は全国で10台以下となり、NSX販売店が全国に100店舗あるとして1店舗あたり年間でたった1台しか売れないということ。それで本当に、ホンダとしてビジネスになり、ディーラーが喜ぶのかという問題だ。

というかそもそもホンダは本気でブランドビジネスをやる気があるのか? という根本的疑問にもブチ当たる。

例えば現在スーパーカーの頂点たるフェラーリは年間7000台、ランボルギーニは3000台、新興メーカーであるマクラーレンが2000台以上のレベルでビジネスを繰り広げている。それはいわゆる日本だけで月間数千台から数万台売れる量産車ビジネスとは全く別世界の話だ。

1台当たりの利益率は量産車とは比べものにならず、例えばフェラーリは2000万円台の入門用V8エンジンモデルから3000万円オーバーのミッドシップV8エンジンモデルやV12エンジンモデル、1億円クラスの限定ハイブリッドスポーツまで取りそろえている。

そこは1着数十万円のシルクのスーツ、数百万円のクロコダイルのバッグ、ブーツやらアクセサリーまでをそろえる一流ファッションの世界同様。極論すれば少人数のガッチリとした太いパトロンを握ればそれなりに成り立つ世界で、何千、何万、何十万の庶民に同じクルマを売って稼ぐ量産車ビジネスとは、販売戦略から商品戦略までまるで違うのだ。

ところが今回のNSXは基本グレードが1つしかなく、今後のバリエーション計画もさほど見えてこない。この点では、800万円スタートと安かったもののさほど売れなかった初代NSXと大して変わらない。もちろん1台2370万円としっかり利益を得るようになったし、初代のときのようにムダに工場に投資しすぎることもなくなったようではある。

しかし、まだまだ欠点修正のレベルで、本気でフェラーリ、ランボルギーニに勝つ! という戦略が見えてこない。もちろんそれはいきなり日本のファッションブランドがヴィトンやグッチに勝つ! と宣言するようなもので途方もない夢のプランなのかもしれない。

だが、日本はすでに安くて良いモノを売ることでは世界を制覇していて、今後は高くてより良いものを売ることにシフトしていくべきだと私は思っている。そういう自分自身、NSXを本当にフェラーリ並みに売り切るアイデアも技術も、申し訳ないがない。しかし、そこに踏み込んでこそホンダ! だと勝手に期待を抱いてしまっていたのだ。

やはり日本は、永遠に安くて良いモノを売るビジネスから突破できないのだろうか。

新型NSXを試乗する小沢コージ氏
小沢コージ
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。

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