増える大人の歯列矯正 見た目以外のメリットも
歯列矯正は歯並びが前後、上下、左右いずれかでかみ合わない状態か、もしくはあごと歯の大きさがアンバランスであることにより引き起こされた「不正咬合」を治療する手段だ。
矯正装置を介して個々の歯に力を加え、歯を根元から前方や後方に動かしたり、歯軸をひねって向きを変えたり、歯を引き出したり、圧し下げたりして歯並びとかみ合わせを整える。
子どものための治療と思われがちだが、何歳でも受けられる。実際、「矯正治療を受ける大人はここ数年増えている」と昭和大学歯科病院の槇宏太郎病院長は話す。大人の場合、あごの成長は期待できないので「その人が持っている条件の中で、最も良いと考えられる"個性正常咬合"を達成することが治療目標になる」と名古屋矯正歯科診療所の佐奈正敏院長は話す。
矯正治療のメリットはよくかめるようになることのほかに3つある。まず、むし歯や歯周病にかかりにくくなる。「歯に凸凹があるときれいに磨いたつもりでも磨き残しが出やすいが、矯正によりそのリスクを軽減できる」と佐奈院長。海外の研究でも矯正後は歯垢がたまりにくくなることが確かめられている。
2つ目は歯の保存性の向上。「歯並びを整えるとかむ際にかかる力を分散できるので、歯とそれを支える骨が傷みにくくなる」(槇病院長)からだ。
3つ目は発音障害の改善。前歯に隙間がある人はP、B、M、Sなどいくつか発音しにくい子音があるが、これらを問題なく発音できるようになる。
さらに英国の研究では自分に自信が持てるようになる効果もあった(下グラフ)。大人の場合、むし歯の治療で神経(歯髄)を取った歯がある人も多いが、「歯の根を包む歯根膜が生きていれば歯は動かせる」と佐奈院長。ただし、むし歯や歯周病がある場合はそれらの治療を終えてから矯正歯科を受診するのが基本だ。近年は女性にとって抵抗感の少ない装置の選択肢が増え、トライしやすくなっている。
この人たちに聞きました
昭和大学歯科病院(東京都大田区)病院長。昭和大学歯学部歯科矯正学講座教授。昭和大学大学院歯科研究科修了。歯学博士。日本矯正歯科学会専門医・認定医。昭和大学歯学部歯科矯正学講座講師を経て2003年、歯学部主任教授。13年、病院長就任。痛みの少ない装置「マニューバー」を開発
名古屋矯正歯科診療所(名古屋市中村区)院長。愛知学院大学歯学部卒業。歯学博士。日本矯正歯科学会専門医・認定医。日本舌側矯正歯科学会認定医。01年から現職。舌側矯正に詳しい数少ない矯正歯科医の一人。愛知学院大学歯学部歯科矯正学講座非常勤講師
(ライター 小林真美子)
[日経ヘルス2016年11月号の記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。