マネー研究所

カリスマの直言

「心のデフレ」脱却こそ成長への道(渋沢健)

2016/10/10

「株価上昇のために政府の介入を求めるような風潮は危惧すべき。これでは健全な資本市場の発展は望めない」

 私の経験則にすぎないが、夏から秋へと季節が変わる9~10月には金融マーケットが神経質になる傾向がある。

 私が米ウォール街で米証券大手の研修生として働いていた1987年に市場を襲ったブラック・マンデーは、10月19日だった。私がコモンズ投信を設立している最中に起こった2008年のリーマン・ショックも、9月15日のリーマン破綻から始まった。

 理由はわからないが、夏季休暇などで市場の材料や値動きが乏しくなる枯れ相場を経て、気づくとそろそろ年末になるという市場参加者の焦りが関係あるのかもしれない。特に欧米金融機関で働く人は、その年に支給されるボーナスをにらんで自分の取り分を固めたい、あるいは増やしたいという心理的状況に置かれている。相場が自分のポジションと逆の方向に急激に動くとパニックになるかもしれない。あるいは、相場の急激な変動は大きな収益チャンスとして勝負を仕掛ける場合もあるかもしれない。

 今年もちょっとマーケットがきな臭い。世界の中央銀行の金融政策の限界が感じられる中、欧州の金融機関が収益増強のために一線を越えて起こした問題がマーケットの不安をあおっている。

 ただ、長期投資の観点では「○○ショック」が起きても動揺せずに冷静な心構えで対応できる。ショックで持続的な価値創造の可能性が高い企業の株価が下がれば、むしろ買いの絶好の機会になるからだ。株価回復には長い時間がかかるかもしれない。しかしながら、ショックは結果的に長期投資家にまたとない買い場を提供してくれたことが過去のショックの経験則である。

 一方、長期投資家として気になるのはマーケットにショックが走ったとき、資本主義および投資家が「カネがカネを生む」悪者として批判にさらされることだ。平時でも資本主義は格差問題の諸悪の根源として問題視されているのが昨今の傾向だ。再びショックがあれば、資本主義は世論につるし上げられるであろう。

 そうすると資本主義の暴走を抑制する統治を高めるべきという声がわき上がる。今の日本のように政府・中央銀行頼みの官製相場、国家が自らプレーヤーになる国家資本主義への道筋が見えてもお構いなしだ。

9月下旬にタイ・バンコクで開催した公開セミナーでは、渋沢栄一が提唱した社会的利益と経済的利益の合致の意義について、現地でも共鳴する声が相次いだ

 こうした近視眼的な風潮を長期投資家は危惧する。企業の持続的な価値創造が株価の上昇につながるという本質的な議論はそっちのけ。政府の介入により相場を維持させることを求める。こんなことでは健全な未来への持続的な成長は描けない。

 株価上昇だけを手をたたいて喜ぶのは、まさに「カネがカネを生む」ことにしか関心がない人々だ。一方、社会は将来への不安を払拭できない「心のデフレ」に病んでいる。

 日本の社会的課題は「物価のデフレ」ではなく、心のデフレだ。持続的な成長にはイノベーションが不可欠。マネーを供給したり、金利をマイナスにしたりするだけでは「心のデフレ」の解決は期待できない。「心のデフレ」にとらわれればイノベーションに火が付くはずはない。

 しかし、本来の資本主義の姿とは「心のデフレ」とは無縁のはずである。

 約500の営利目的の企業と約600の非営利目的の大学・病院・社会福祉団体などの設立に関与し、「日本の資本主義の父」といわれる渋沢栄一は日本に銀行という社会的イノベーションを導入した際、あるメッセージを唱えた。「滴から大河へ」である。

 要約すると次のような内容になる。個々が保有するお金は、ぽたぽた垂れている滴のように微力な存在だ。ただ、銀行に集まってくれば、それは大河のような勢力へと変化する。そして、その大河は未来に流れている。もともと金融機関の社会的役割とは未来志向の成長資金を世の中へ循環させることなのだ――。

 共感により集まり、共助により互いが不足なところを補い、価値を共に創る。これこそが、本来の資本主義の姿である。

 経済的リターンが社会的リターンを生み、社会的リターンが経済的リターンを生む。これこそが、持続的成長へとつながる道筋だ。

 普通の人々が普通の夢、そして、気持ち豊かな生活の未来を望む。これこそが、微力な滴だ。微力な滴はエンパワーメント(力の結集)により勢力ある大河となる。

 例えば、コモンズ投信という運用会社が個人のエンパワーメントに提供できることは様々な気づき、出会い、学びの場を設けること。そして、持続的価値を創造する企業への長期投資を通じて未来への蓄えを共助することである。

10月初旬に都内で開催したコモンズ社会起業家フォーラムでは社会的インパクトを目的に設立した株式会社・NPOの経営者によるトークリレーを実施した。会場運営の助っ人の学生たちに感謝!

 このようなメッセージは、パッシブ(消極的)な姿勢であれば響かないであろう。一方、自分たちは社会において、滴のような微力な存在であるけれども未来志向がある。もちろん社会への当事者意識がある。このようなアクティブ(積極的)な姿勢があれば届くメッセージのはずだ。

 すでに様々な活動を実践しているが、「今日よりも、よい明日」を目指す未来志向の人々が共感して集まって共助する場(コモン・グラウンド)を共に創りたい、と改めて決意している。これこそがリーマン・ショック中に設立したコモンズ投信の起源であろう。

 資本主義は岐路に立っている。

 微力ながら、共感・共助・共創による本来の資本主義の姿を取り戻したい。心のデフレを吹き飛ばし、社会の持続成長と豊かな未来の実現に向かって歩んでいきたい。

渋沢健(しぶさわ・けん) コモンズ投信会長。1961年生まれ。83年米テキサス大工学部卒。87年カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)MBA経営大学院卒。JPモルガン、ゴールドマン・サックス証券、大手米系ヘッジファンドを経て、2001年に独立し、07年コモンズ株式会社(現コモンズ投信)を創業、08年会長就任。主な著書に『渋沢栄一 愛と勇気と資本主義』 (日経ビジネス人文庫、2014年)『運用のプロが教える草食系投資』(日本経済新聞出版社、2010年)『渋沢栄一 100の訓言』(日経ビジネス人文庫、2010年)『日本再起動』(東洋経済新報社、2011年)『渋沢栄一 100の金言』(日経ビジネス人文庫、2016年)など。

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