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外国人に「また行きたい」と思わせる国の条件 「ANA社長×パラリンピアン成田選手」対談(上)

スポーツイノベイターズOnline

2016/10/11

(写真:加藤康)

 地球の裏側、リオデジャネイロで開催されたパラリンピックに水泳女子日本代表として出場した成田真由美選手。7年振りに第一線に復帰し、パラリンピック出場5回を数える“超ベテラン”である。リオ大会出場を控えた7月、成田氏はANAホールディングス(以下、ANA) 代表取締役社長の片野坂真哉氏と対談した。

 2人の共通項は、2016年リオ大会直後の10月19~22日に、文部科学省などが京都と東京で開催する国際会議「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」(以下、ワールド・フォーラム)である。同フォーラムは、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年の関西ワールドマスターズゲームズなどに向けて、観光とも連動させつつ、スポーツ、文化、ビジネス等の幅広いテーマについて議論すると共に、情報を発信。国内で開催が続く世界的な大型国際スポーツ大会を契機に、スポーツや文化に関するムーブメントを国際的に高めるためのキックオフイベントだ。

 ANAはワールド・フォーラムのパートナー企業、成田選手はアンバサダー(大使)を務める。日本を代表する航空会社の経営者とパラリンピアンの対話は、スポーツのビッグイベントを契機に増加が期待できる訪日外国人を迎える日本の環境づくりからスタートした。

(司会は、上野 直彦=スポーツライター)

―― ANAグループからリオ五輪・パラリンピックに出場する選手がいます。

片野坂 先日、障害者水泳・背泳ぎの津川拓也選手(ANAウィングフェローズ・ヴイ王子)と、女子7人制ラグビーの横尾千里選手(全日本空輸)、この2人を送り出す壮行会を行い、社員を挙げて盛り上げました。その他、プロ車いすテニスプレーヤーの国枝慎吾選手も応援(スポンサー契約)しています。企業がスポーツ選手を応援するという意味で、スポーツ選手を社員として雇用する取り組みをしています。

―― 雇用も含めてアスリートを応援しているのですね。

片野坂 津川選手は大阪の伊丹空港の近くの職場で、航空機の整備記録を残すという、非常に根気のいる仕事をやっています。実際、私もそこに訪ねて、彼と名刺交換をしました。現場での彼の仕事ぶりも見ています。職場のみんなにも支えられて、仕事をする喜びを感じながら、彼はスポーツにも打ち込んでいます。ラグビーの横尾千里選手もANAの人事部に所属しており、ダイバーシティー関連や、ANAの企業文化を変える取り組みを行っています。2人とも仕事にも取り組みながらスポーツ選手であるということで、我々も非常にありがたいです。

ANAホールディングス 代表取締役社長の片野坂真哉氏(写真:加藤康)

―― スポーツ・文化・ワールド・フォーラムは2020年、そしてその先の未来に向けてスポーツ、文化、経済の領域が新しい価値の創造につながることを期待しています。ANAグループは強みを生かしながら、どんな未来を創造していきたいと考えていますか。

片野坂 未来の創造ということでは、 “インバウンド”と“地方創生”についてお話ししましょう。例えば、日本の各地には素晴らしい食材があります。和牛や日本酒、焼酎、泡盛、あるいは野菜。食の分野では「テイスト オブ ジャパン バイANA」というプログラムを手掛けています。このプログラムは、日本全国から3つの都道府県を選び、3カ月間ずつ、各自治体の特産品を用いたファースト・クラスのお食事や、空港ラウンジのおつまみ、お酒を味わっていただく試みです。

 今は和食、日本酒ブームですので、ラウンジや機内で日本食を注文したり、テイスティングを希望したりする訪日外国人がいらっしゃいます。このプログラムを通じて地方の具体的な産業活性化につなげていくのが地方創生の1つの取り組みです。

 もう1つの取り組みは航空運賃です。訪日外国人が日本の国内線を利用する際は、一律1万800円の運賃で航空券を提供するサービスを行っています。海外の方が日本の地方にもスムーズに訪れることができるようにする取り組みです。

 ANAのウェブサイトでは日本全国の広域観光ルートを紹介するテーマサイトも用意しています。観光客はある1つの地方だけを訪れるわけではなく、他の地域にも足を運びます。広域観光ルートの紹介は地方創生につながると考えています。1つの地域だけが盛り上がればいいというわけではなく、隣の自治体も訪れてくださいという思いで日本全体がつながっていくような取り組みになればと。

―― 成田さんは2020年、そしてその先に向けてどんな世の中を創造していきたいと考えていますか。

成田 バリアフリーを基盤とした誰もが住みやすい街づくりが進んでいくことを希望しています。2020年がゴールではなく、2024年にもつながるようにと思っています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを訪れた選手や家族に「また東京に行きたいね」「また日本に行きたいね」と思ってもらえたら…。そのためには、当然、バリアフリーな社会が基盤になると思います。

―― 障害者、健常者という垣根を越えて、多くの人がスポーツを通じて豊かな生活を送るためには、どのような環境づくりを進めていけばいいでしょうか。

成田 障害者スポーツを子供たちに伝えていきたいですね。障害者スポーツに関する知識は必ずしも勉強する必要はないので、ただただ目の前で、私たちがスポーツをしている姿を見てもらえれば、子供たちに何か伝えられるのではないかと思います。

 例えば片手がない選手が泳ぐ、目の見えない選手が泳ぐ、もちろん知的障害者も、耳の聞こえない人も泳ぎます。水泳は赤ちゃんからお年寄りまでみんなが楽しめるスポーツです。しかしながら、人には向き不向きがありますし、スポーツが得意ではない人もいるので「絶対にスポーツでなければならない」とは言い切れませんが、文化や芸術も含め、人はいろいろな可能性を持っていることを多くの子供たちに伝えていきたいと思います。

 実は私は、歩ける頃には泳ぐことができませんでした。泳ぐことができなかった私がちょっとしたきっかけで泳げるようになり、今では、水泳中心の毎日を送っています。そうした自分自身の経験からも、人は可能性を持っていることを伝えていきたいと思います。

パラリンピアンの成田真由美氏(写真:加藤康)

片野坂 成田選手のおっしゃった「もう1回」「再び」日本を訪ねたい、と日本を訪れた方に思っていただくという点は、非常に大事だと思います。日本に初めて来て日本に良い印象を抱いてもらい、また日本を訪れたいと感じていただきたい。

 空港は、訪日した外国人が日本を感じる第1歩です。例えば、車いすの選手、あるいは観光客に対する配慮が足りなければ、日本への印象が悪くなります。しかしながら、入国や、都心、ホテルへの移動がスムーズであれば、日本に対する印象は良くなるのではないでしょうか。もう1度、日本を訪れたいと思っていただけるでしょう。こうして日本が世界に注目され、「再び」「また」訪れてみたいと思ってもらえるように努力することが、我々の務めだと考えています。

(次回に続く)

[スポーツイノベイターズOnline 2016年9月1日付の記事を再構成]

片野坂真哉(かたのさか・しんや)。ANAホールディングス 代表取締役社長。1979年に東京大学法学部を卒業後、全日本空輸に入社。経営企画部や営業推進本部、人事部などを経て、2009年にCS推進室・商品戦略室などの上席執行役員に就任。常務や専務を経て、2013年からANAホールディングス副社長。2015年4月より現職
成田真由美(なりた・まゆみ)氏。アトランタ、シドニー、アテネ、北京と夏季パラリンピック4大会連続出場(競泳)し、金15、銀3、銅2と計20個のメダル獲得。その功績より、内閣総理大臣賜杯、内閣総理大臣顕彰、パラリンピックスポーツ大賞(最優秀女子選手賞)など数々の賞を受賞。2008年北京大会以降、現役を退いていたが、2015年に選手に復帰
上野直彦(うえの・なおひこ) スポーツライター。兵庫県生まれ。ロンドン在住時にサッカーのプレミアリーグ化に直面しスポーツビジネスの記事を書く。女子サッカーやJリーグを長期取材している。 『Number』『AERA』『ZONE』『VOICE』などで執筆。Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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