納豆に「オートファジー」促す成分 骨折予防にも日経BPヒット総合研究所 西沢邦浩

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エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を斬るコラム「ヒットのひみつ」。今回のテーマは、「納豆のアンチエイジングパワー」。納豆の成分の中でも健康寿命を延ばす可能性があるビタミンK2とポリアミンを取り上げます。ビタミンK2の骨折予防作用も注目ですが、ポリアミンは、東京工業大学の大隅良典栄誉教授のノーベル賞受賞研究である「オートファジー(自食作用)」を促すとされ、研究者の間でも赤丸急上昇中なのです。

高齢になって起こると寝たきりリスクが高まるばかりか、半年後の死亡率まで高まる股関節骨折(大腿骨頸部(けいぶ)骨折)率は「西高東低」という研究結果があるのをご存知だろうか。そもそも高齢女性に多いこの骨折の新規患者を1987年から2007年まで20年間分調べたところ、関西から九州にかけての地域で発生件数が多くなっていたことが判明したのだ。

関連する因子を分析すると、カルシウムやマグネシウム、ビタミンD摂取量との相関が認められたが、特に関西と関東で差があったのがビタミンKの摂取量だった[注1]

食品からとれるビタミンKには主にK1とK2の2種類があるが、更年期以降の女性の血中ビタミンK2濃度と股関節骨折率が相関し、しかも血中のK2濃度は納豆の摂取量と関係することを明らかにした研究もある[注2]。つまり、納豆消費量が関東以北に比べ低い関西で、骨折率も高くなっているのだ。

緑の濃い野菜や海藻で摂取できるのがK1。日本人の食生活を考えたときに、骨を守るK2摂取源としては納豆ほど効率的な食品はないと言っていい。

日本人女性の都道府県別の股関節骨折率と1世帯当たりの年間納豆消費金額の関係

「日本人の食事摂取基準2015年版」では成人男女で1日150μg以上のビタミンK摂取が目安量になっている。そして、国民平均で1日231μgとっていることになっているので見かけ上は足りていることになる(2014年国民健康・栄養調査)。

しかし、「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」では、骨粗しょう症の人で1日250~300μgのビタミンK摂取が推奨されているため、致命的な骨折から身を守るという観点からすると国民健康・栄養調査の数字では足りているとはいえない。

そこで納豆だ。

通常の納豆は100gに、股関節骨折リスク低減が期待されるK2を600μgも含む。K2は大豆が納豆菌で発酵する過程で作られるが、発酵総面積が広いひきわり納豆では930μgにもなる(日本食品標準成分表2015年版)。

つまり、納豆なら、店頭で見かける約50gの1パックで骨粗しょう症改善量がとれるのだ。

ビタミンK2は男性の元気ホルモンを増やすかも

さらに、ビタミンK2は股関節骨折だけでなく、加齢に伴い増加する男性ならではの疾病リスク低下にも恩恵がありそうだ。

米国では男性で発症数1位のがんであり、日本でも急増しつつある前立腺がんのリスク低下と関係があるという報告がある。ドイツのハイデルベルクで1万1000人強の男性を平均8.6年間追跡した研究では、特にK2摂取量が最も多い群は最も低い群に比べて進行性前立腺がんにかかるリスクが63%も低かった。欧州なので主な摂取源はもちろん納豆ではなく乳製品だったが。

なお、K1の摂取量と前立腺がんリスクに相関はなかった。また、K2には前立腺周辺の血管を守る作用もあるようだ[注3]

40代以降の男性で、男性ホルモン・テストステロンが急激に低下することに伴い、気分が落ち込んだり、やる気が出なくなったり、イライラしたりするといった症状が出る男性更年期障害「LOH症候群」(加齢男性性腺機能低下症候群)にも、納豆が味方になってくれるかもしれない。

こうした期待を抱かせる研究を行っているのは東北大学のチーム。

ラットの研究だが、ビタミンKが精巣で炎症を抑制しテストステロンの正常な分泌を維持するという内容や、ステロイド産生を促して高齢ラットのテストステロン分泌能を改善するという報告を行っている[注4]

同チームは、今年神戸で開催された第70回日本栄養・食糧学会大会でも、ビタミンK高含有食を与えた雄ラットでテストステロン産生が上昇したと発表している。ヒトでの試験が待たれるところだ。

納豆には、ノーベル賞学説「オートファジー」を促す成分もたっぷり

優秀なビタミンK2源というだけでもうれしいが、さらにもう一つ、納豆には今脚光を浴びている話題のアンチエイジング成分もたっぷり入っている。

それは、細胞分裂や増殖に欠かせない成分で、炎症を防ぎ細胞の老化抑制に役立つとされるポリアミン。アミノ酸から体内でも作られる物質で、いくつか種類があるが、中でも注目度が高いのがスペルミンとスペルミジンという2種類のポリアミンだ。いずれも発酵食品には比較的多く含まれるが、一般的にスペルミンよりスペルミジンの含有量のほうがより多い。

2004年に発表された東京都健康安全研究センターによる研究では、赤ワインで0.16、白味噌で14.4、濃い口しょうゆで12.1なのに対し、丸大豆使用の納豆で平均56.1、ひきわり納豆では75.2(単位はμg/g)と、納豆で飛び抜けた量のスペルミジンが検出されている。なお、発酵食品以外にシイタケなどのキノコ類などにも多いようだ[注5]

ポリアミンに関する一番ホットなニュースは、東京工業大学の大隅良典栄誉教授がノーベル賞を受賞した「オートファジー」、つまり、体の細胞が自己分解をしてがんや感染といった病気から私たちを守る働きを促すことで健康寿命延伸に役立つとして世界で研究が進められていることだろう。

東工大の大隅良典栄誉教授

実際に、米国立老化研究所(NIA)は、現時点でアンチエイジングに寄与するエビデンスがある7つの方法の一つとして、オートファジーを促すスペルミジン摂取を挙げている。ちなみに、ほかの6つは、カロリー制限、断食、運動、レスベラトロール(ポリフェノール)、ラパマイシン(免疫抑制剤)、メトホルミン(糖尿病治療薬)だ。

うち5つはマイナス面も指摘されているが、メトホルミンとスペルミジンは特記すべき副作用も指摘されていない[注6]

まだヒト試験データは十分とは言えないが、加齢に伴い体内での生成量が減る成分だけに、食品で補給する意味はありそうだ。

さらに、ポリアミンが活性酸素の害を減らしてストレス耐性を高めるとする考察や、更年期女性の大腸がんリスクを下げるとする研究などもある[注7]

やはり、ビタミンK2同様、ポリアミンはアンチエイジングに欠かせない成分といえるだろう。

ポリアミンは、寿命を縮める体内時計のずれまで直す

夜遅い時間のスマホ利用や、不規則な睡眠による体内時計の乱れは、がんなどの生活習慣病やうつ病などのリスクも高め、寿命を短くすることが明らかになりつつある。

ポリアミンはこうした体内時計の乱れを修正する働きでも注目されている。

そもそも私たちの体内時計は上記のような生活習慣の乱れ以外に、加齢によっても狂っていくことがわかっているが、ポリアミンを十分に補給すれば、時計遺伝子を正しく制御して体内時計を正しく動かせるかもしれないのだ。

ポリアミンレベルの低いマウスに食事で同成分を与えたところ、乱れた体内時計が修正されたという試験結果もある[注8]

女性だと平均して45歳くらいから更年期に入る。男性もまたしかり、と考えた方がいい。つまり、放っておくと心身が下り坂にさしかかる40歳を過ぎたころから、生活習慣の見直しを始めるのがお勧めだ。

ことに食事は、続けることで緩やかに私たちに影響を与えるので、まずは毎朝朝食に日本が世界に誇るアンチエイジング食品、納豆を加えてみてはいかがだろう。

今、中国や米国でも納豆に対する関心が高まりつつある。

しっかり朝食を食べることで体内時計がリセットされたり、肥満や糖尿病リスクが低下したりするという報告も多いので、そこに納豆を加えれば鬼に金棒だ。

[注1] Arch Osteoporos. 2009;4:71-7.
[注2]  Nutrition. 2001 Apr;17(4):315-21.
[注3] Am J Clin Nutr.2008;87:985-92
   Med Hypotheses. 2015 Mar;84(3):219-22.
[注4]  Food Funct. 2011 Jul;2(7):406-11.
   Lipids Health Dis. 2011; 10: 158.
[注5]  Ann Rep Tokyo Metr Inst P.H.2004;55
   Biosci Biotechnol Biochem.1997 Sep;61(9):1582-4.
[注6]  Cell 2014 June;157(7):1515-26
[注7]  Front Plant Sci. 2015 Oct 13;6:827.
   Am J Clin Nutr 2015;102:411-9
[注8] Cell Metab. 2015 Nov 3;22(5):874-85.
西沢邦浩(にしざわ・くにひろ)
日経BPヒット総合研究所 主席研究員・日経BP社ビズライフ局プロデューサー。小学館を経て、91年日経BP社入社。開発部次長として新媒体などの事業開発に携わった後、98年「日経ヘルス」創刊と同時に副編集長に着任。05年1月より同誌編集長。08年3月に「日経ヘルス プルミエ」を創刊し、10年まで同誌編集長を務める。
日経BPヒット総合研究所

日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

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