KISS博覧会開幕 ソニーがもくろむ新・音楽ビジネス
CD市場の縮小が続き、レコード各社はライブビジネスやアーティストマネジメントなど周辺事業の拡大に注力している。その中で、ソニーミュージックグループは展示会などの「エキシビションビジネス」に本腰を入れ始めた。
グループ会社のソニー・ミュージックコミュニケーションズ(以下、SMC)は、10月13日からラフォーレミュージアム原宿(渋谷区)で米国のハードロックバンドKISSをテーマにした「KISS EXPO TOKYO 2016~地獄の博覧会~」を開催。
スタッフがKISSメンバーの自宅に通い、膨大なお宝のなかから借り出した、衣装や楽器、デビュー当時の手書きポスターなど貴重なアイテムを約100点を展示する。ポール・スタンレーとジーン・シモンズの自宅内部を撮影し、360度のバーチャル・リアリティー映像で楽しめる仕掛けなどもある。同時に、ジーンのベロめくりカレンダーや初来日時のパスをあしらったTシャツなどのオリジナルグッズを用意し、売り上げを見込む。
2017年1月からはデヴィッド・ボウイの回顧展「DAVID BOWIE is」をスタートする。同社代表取締役の古川愛一郎氏は、「近年、コンサートグッズの売れ行きが好調だったのが、展示会ビジネスに注目したきっかけ」と語る。
成功例となったのが、4月に東京・六本木にオープンした「スヌーピーミュージアム」。同じくグループ会社のソニー・クリエイティブプロダクツが、「スヌーピー」などで知られる「ピーナッツ」の日本国内独占エージェント権を持つため、アメリカの本家以外で初となる同ミュージアムの開設にこぎつけた。原画などを展示し、カフェやミュージアムショップも併設するこの施設は人気スポットに。「来場者は計画に対して120%の見込み。それ以上に好調なのがグッズで、当初予想金額の250%に達する」(古川氏、以下同)。
意識しているのはファンにとっての"聖地"を作ること。初期作品の原画が楽しめ、キャラクターの世界を反映したフードも用意するなど、「そこに足を運ばなければ体験できない本物に出合い、満足するからこそ自然とグッズにも手が伸びる」ためだ。半年ごとに原画を入れ替え、コラボグッズや限定品を定期的に投入するなど、リピーターの獲得にも力を入れる。
一方、前述の「KISS EXPO」は、SMCのオリジナル企画。「今回は会期も半月と短く、自主企画で何ができるかトライアルの意味合いも強い」と言う。
ライブに続く収益源に
今回の「KISS EXPO」は東京のみでの開催だが、「今後はもっと長期間で、全国を巡回できる展示会も手がけたい」と古川氏。日本人アーティストをテーマにした企画も可能性は十分にあると話すなど、エキシビションビジネスをさらに推進していく意向だ。
その背景には、同じ"動員"で稼ぐライブが飽和状態に近づいたことがある。近年、ライブ会場は絶対的な不足が叫ばれているが、「展示会は騒音問題が起こりにくいため、都心の施設でも問題はない。企画によっては船の上での開催なども考えられる」と、会場の選択肢は広い。1会場でせいぜい数公演というライブに対し、長期間の開催が可能なため収益が見込みやすいというメリットもある。
さらには「2020年」も視野に入る。東京オリンピック・パラリンピックに向けて大型ビルや複合施設などの建設が相次いでいるが、今後は集客の核として、エンタテインメント関連施設の需要が増えると見る。実際に「デベロッパーからの引き合いが来ている」と言うように、展示会で得たノウハウを生かして、こうした常設型の施設にも参入したい考えだ。
(ライター 橘川有子)
[日経エンタテインメント! 2016年11月号の記事を再構成]
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