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LGBTトイレ、手探り 自治体など絵文字掲示

2016/10/9

ホテルグランヴィア京都(京都市)はトイレの表示で性的少数者への配慮を始めた

 企業や自治体の間で、性的少数者に配慮したトイレを設置する動きが出てきた。男女別だと入りにくいという声があるためで、性の多様性を認める社会への試金石になりそうだ。

 TOTOは9月14日、大阪市で「公共トイレにおけるLGBT配慮」をテーマにセミナーを開いた。「並んでいるときの周囲の目が気になる」「警備員に注意されたことがある」。当事者の悩みや、男女共用トイレを増やすといった対処法に、建築関係者ら十数人が熱心に聞き入った。

■TOTOが講座

 セミナーに参加した設計事務所の男性は「依頼者から要望を受けたことがあり、前から関心があった」と話す。

 LGBTとはレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字をつなげたもの。なかでもトイレの問題が深刻なのは、生まれたときの体の性と心の性が一致しないトランスジェンダーだ。外見が心の性と異なったり、中性的であったりして、男女別トイレを使うのに抵抗を感じる人が多いという。

 昨年4月に東京都渋谷区で同性カップルを認める条例が施行されてから、LGBTへの社会的な関心は高まっている。衛生陶器のメーカーには建築関係者や企業の人事部からの問い合わせが多い。TOTOは今年4月から、LIXILは昨年11月から、それぞれセミナーを開き顧客の疑問に答える機会を設けている。

 車いすの人などのために設置された多目的トイレなら問題ないように思えるが、入り口で男女別に分かれているケースが少なくない。「車いすの人に悪い」と使用をためらう人も多い。TOTOの調査で「使用後ににらまれたことがある」と答えた人もいた。

■顔隠しトイレへ

 LIXILは昨年、NPO法人の虹色ダイバーシティ(大阪市)と共同でネット調査を実施した。トランスジェンダーの64.9%が職場や学校のトイレ利用で困ったりストレスを感じたりしていた。トイレを我慢し、ぼうこう炎などの排せつ障害を抱えている人も25.4%いた。

 実際にトランスジェンダーの当事者に話を聞いてみた。「我慢しなければならないことも多く、つらかった」と話すのは都内の広告会社に勤めるAさん。男性として入社したが、昨年から女性として働いている。見た目はすでに女性に変え、いずれ性別適合の手術も受けるつもり。ただ社内の女性トイレは入りにくく、しばらくは人が少ない駐車場のトイレを使っていた。

 「帽子で顔を隠しトイレに行ったこともある」と嘆くのは化粧品会社の販売員Bさんだ。元は男性だが今は女性として働く。職場がある百貨店は戸籍上の性別に基づくトイレを使わなければならず、男女共用トイレもないという。

 こうした声を受け、性的少数者に配慮したトイレを用意する自治体も出てきた。

 大阪市の淀川区役所は14年、各フロアに2つある車いす用トイレの一方にLGBTを表す虹色のマークとともに「どなたでもご利用いただけます」と明示した。東京の渋谷区役所は庁舎建て替えに伴い、仮庁舎の多目的トイレに虹色の人を描いたピクトグラム(絵文字)を掲示する。

 民間施設では、ホテルグランヴィア京都(京都市)が昨年10月からロビー階のトイレで、全日本空輸は今年7月から羽田空港にある自社のラウンジで、それぞれ同様の取り組みを始めている。

 ただ、こうした対応への当事者たちの反応は一様ではない。「うれしい」と喜ぶ声の一方で「配慮されすぎるのは心苦しい」との意見もある。周囲にトランスジェンダーであることを明らかにしていない場合、「意図しない形でのカミングアウトにつながる」という懸念の声も出ている。

 明確な答えがない問題だけに、どこも対応は手探りの段階だ。今年1月に同性パートナーの登録制度を導入して配偶者と同等の扱いにするなど、LGBTへの対応に力を入れている日本IBMには、会社が把握しているだけでトランスジェンダーの社員が4人いる。昨年に社屋を改装した際、性的少数者への配慮も込めて全フロアに男女共用の多目的トイレを用意した。ただ「必要としている人みんなが気兼ねなく使えるように」と、あえて虹色のピクトグラムは使わなかったという。

■更衣室・健診も課題

 性的少数者のトイレ利用をめぐり、海外では論争も起きている。米国では今年3月、ノースカロライナ州で出生時の性別に応じたトイレを使うよう義務付けた法律が成立。これが性差別だとして、人気歌手が同州での公演を中止したり、企業が投資計画を撤回したりする騒ぎになった。

 日本でも昨年、経済産業省のトランスジェンダーの職員がトイレ利用などで差別的な処遇を受けたとして損害賠償を求める訴訟を起こした。決して対岸の火事ではない。

 トイレ以外にも更衣室や健康診断、さらに差別的な発言や態度などLGBTが日常生活の中で抱える悩みは多い。多様な生き方を受け入れる社会づくりは、すべての人にとって暮らしやすさにつながるはずだ。

 ◇   ◇

■LGBTトイレの設置、コストなど課題も

 トイレのLGBTへの配慮は、コスト面との兼ね合いがあるほか、当事者や社会の受け止め方も様々。企業などの担当者たちも対応策を模索している段階だ。

 全日本空輸は昨年12月、社内の勉強会に招いた講師からトイレの問題を聞いたのがきっかけで検討を始めた。今年6月、性的少数者でも気兼ねなく使えるようにと、羽田・成田・伊丹の各空港にある自社ラウンジの多目的トイレの表示に虹色の翼のマークを加えて配慮を示す方針を公表した。

全日本空輸は、羽田空港のラウンジにあるトイレでLGBTを表す虹色マークの掲示を始めた

 ただ、現段階で実際に改装できているのは羽田空港のトイレの一部のみ。伊丹空港では男女別に分かれた入り口の奥に多目的トイレが別々に設置されているため、表示の変更だけでは対応できないことも判明した。同社は「この件だけのためにトイレ全体を作り替えることは難しい。今後、施設の改修がある際などに対応を検討していく」(ブランド戦略部の荒木知哉リーダー)と説明する。

 ホテルグランヴィア京都(京都市)も事情は同じだ。同性結婚式のプランを提供するなど、もともとLGBTへの配慮には積極的に取り組んできた。昨年10月からロビーのあるフロアの多目的トイレで「Gender Neutral Bath room」の表示を掲げているが、ほかのフロアは未対応のまま。やはり男女別トイレの入り口の奥に多目的トイレがあって対応が難しいのだという。

渋谷区役所が仮庁舎のトイレに掲げるピクトグラムには、ネットなどで賛否両論が出た

 良かれと思って進めた施策が思わぬ反応を招くこともある。渋谷区役所は昨年から利用している仮庁舎の多目的トイレに、右半身が男性、左半身が女性の形をした虹色のピクトグラムを掲示して性的少数者への配慮を示している。ツイッターなどでは「すてきなデザイン」「さすが渋谷区」と評価する声の一方で、「謎の生物感が半端ない」「マジョリティー(多数派)目線になってしまっている」などと否定的な声も多い。

 誰もが納得するような正解のない難しい問題だが、それでも答えを模索しようとする動きは出ている。

 NPO法人のピープルデザイン研究所(東京・渋谷)は、2014年から東京・渋谷ヒカリエで「超福祉展」と題した展示会を開催している。今年はこのイベントの一環として、性的少数者も含めたすべての人が使いやすいトイレのアイデアを募るデザインコンペが開催されている。9月に応募を締め切り、トランスジェンダーの当事者も審査に加わる形で10月中旬に優秀作品などを公表する予定だ。

 審査員を務める建築家の岡部修三さんは「難しい問題だが、それでも話題にし続けることが重要。今回のコンペがこの問題を広く考えるきっかけになってほしい」と話している。

(本田幸久)

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