行列のできる農家レストラン　農業特区で実現

新潟市の田園地帯で平日でも行列のできるレストランが2軒ある。タカギ農園の「ラ・トラットリア エストルト」と、そら野テラスの「農園のカフェ厨房 トネリコ」だ。共通するのは、新潟市の国家戦略特区の規制緩和を利用して、今春オープンした農家レストランであること。

国家戦略特区は、地域のいわゆる岩盤規制に対し、その規制を緩和して産業の活性化を図る安倍内閣の成長戦略の柱の一つだ。新潟市は、2014年に「革新的農業実践特区」（農業特区）の指定を受け、農業を核に食分野の成長を目指している。通常、農業用施設用地には農業用施設しか建設ができないが、この農業特区のおかげで、農業者が自分たちの農地内にレストランを開くことが可能になった。

16年9月初旬に『日経おとなのOFF』16年11月号の取材で訪れたエストルトは、フルーツトマトやイチゴの栽培で有名なタカギ農場の運営。まず、宮大工に依頼して天然木で組んだ巨大なログハウス風の建物に驚かされるのだが、前菜として注文した定番の野菜サラダは、甘みと酸味のバランスが絶妙で、この価格（324円）とおいしさに二度驚かされた。眼前に広がる田園風景を眺めながら、朝採れの野菜を使った料理やデザートをいただく。そんな農家レストランならでは趣向もあって、口コミや地元メディアに取り上げられて客足が絶えない。

トネリコも同様だ。特別栽培米コシヒカリ「寿々木（すずき）米」や朝採れの新潟野菜を生かしたメニューを見晴らしのいいテーブル席でゆっくり味わうことができる。

新潟は米や日本酒が有名だが、実はナスや枝豆、トマトなど、種類の多さや味わいで定評のあるところ。その美味な地域資源を生かし、農家ならでは新鮮さ、農園ならではの景観や開放感、さらに農業特区という話題性も加わり、ほかのレストランにはない差別化ができているところが、人気を呼んだのだろう。

現在、農業特区の農家レストランは、市内産牛肉を使ったステーキハウス「ラ・ビステッカ」を含め3店舗のみ。新潟市では、「農家レストランセミナー」を開催するなど、普及させたい考えだ。

ただ、「セミナーは盛況だったが、レストランの建設コストやスタッフの確保などが必要で、3店舗のような大型の投資には慎重な農家も多い」（新潟市担当者）という。

一方、先行者の施設では、マルシェや観光農園の機能も持たせ、コト消費の時代にも対応、農家であることのメリット、価値を最大限に生かそうとしている。彼らの取り組みは、ほかの地域の農業関係者からの期待も大きい。

「これからは根菜類が旬を迎え、冬から春にかけて野菜はさらに味が濃厚になり、もっとおいしい料理を提供できる」（エストルト）。農家レストランにとって初めて秋冬。どんな表情みせるのか興味深い。

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