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通信販売大手ジャパネットたかた。前社長の高田明氏はテレビ通販王国を一代で築き、お茶の間の人気者ともなりました。朝から晩までテレビカメラの前に立ち続けてきた高田氏は、「ひとつの商品には開発した人の思い、強い動機がある」と説き、だからこそ「すべての商品に伝える価値はある」と語ります。

◇   ◇   ◇

今日は商品との向き合い方をお話ししましょう。

私の30年間の通販人生を振り返ってみて、「この商品はどうしても売れなかった」といった苦い記憶はそんなに多くなかったと思います。売ることが可能なら何にでも挑戦したい。270万~280万円もする電気自動車も99台売れましたし、今は規制の関係で扱えませんが(編集部注:宅地や建物を販売するには国土交通大臣または都道府県知事の免許が必要となる)、億円単位の超高額マンションである「億ション」でもいざ通販業者が売れば、結構売れると思います。

ジャパネットたかた前社長 高田明氏

ジャパネットたかた前社長 高田明氏

以前、ハワイに行った時にテレビの深夜番組を見ていたら10億円、20億円はしそうな「億ション」をテレビショッピングで売っていました。結局それは「情報を売る」ということです。通販というのは自分の発信する情報を客さんに信用してもらうビジネス。物件さえあれば現地に行かなくても買う消費者が米国には大勢いることに驚きました。ジャパネットたかたでもチャンスがあれば、家を売ることもできるし、自動車ももっと売ればいいと思います。

ところが、日本は強固なディーラー制度があるから参入しづらい面があります。韓国、中国などでは、通販業者がいろんなジャンルの商品を日本と違ってどんどん取り扱っています。以前、経団連が主催した中国視察で同国の電子商取引(EC)最大手、アリババ集団を訪れたことがあります。その時、20代そこそこの若い人が生放送でスマートフォン(スマホ)を宣伝して売っていところを偶然目にしました。日本では当時、規制により通販業者はスマホを売れませんでした。伸びざかりで何でもありの新興国と規制でがんじがらめになっている日本との彼我の差を感じましたね。

もちろんこうした違いが出るのは、規制というものに対する国民の意識の違いも大きい。日本はいわゆる認可制のお国柄で消費者に自己責任を問う風土があまりありません。お役所が手取り足取り、事業者の行動を縛ることで間接的に消費者を守ることをやってきた。一方、競争原理が徹底した米国では、行政がテレビ放送枠の許可をいったん出したら、あとは事業者が自由に放送番組をつくれます。その代わり、間違った情報を伝えると罰せられ、法的責任を厳しく問われる。日本の場合は、業者はもちろんですが、そんな事業者に放送枠を与えた行政が責められる。どちらがいいでしょうか。家父長的に役所が目を光らせることが全て悪いとは言いませんが、日本はあまり過保護になりすぎず、自己責任原則に任せた方が経済的に活気づくこともあるのではないでしょうか。通販には今もこうした規制や商習慣の違いが横たわっています。

商品を売る話に戻りましょう。ひとつの商品があるということは、つくった人がいるわけです。なぜ、それを開発したのか。売れないとか、人の役に立たないとか思ってつくる人はいません。そう考えると、その商品を開発した人の思い、強い動機があるはずです。その視点からモノを解明していけば、すべての商品に伝える価値はあると思うのです。もちろん、商品の品質には厳しい目が必要です。

商品の見えない価値を顕在化させる例をご紹介しましょう。

会議やインタビューで使う電子機器にボイスレコーダーがあります。私は通販番組で「おじいさんやお母さんこそ使うべきですよ」と視聴者にいつも訴えていました。なぜか。歳を重ねれば誰でも物忘れが多くなりますよね。そんな時に何か伝えなければならないことや、ふと思ったことをメモを取る代わりにボイスレコーダーに吹き込んでおけば、物忘れの心配は無くなりますよね。

お母さんだったら、仕事へ行く前に、子どもさんが学校から帰ったら、「お母さん6時ごろに帰るからね、おやつが冷蔵庫に入っているよ」とボイスレコーダーに肉声を残しておけば、お子様はその声を聴いて安心しますよね。その様な使い方の提案を色々テレビで伝えたらあれよあれよという間に何千台も売れました。私も何かアイデアが浮かんだら、すぐに音声に残します。私の実生活でもボイスレコーダーはいろんなシーンで利用しています。実に便利な商品です。

私はメーカーが気付きにくかった新しい提案をしたわけです。ボイスレコーダーは技術的には音声を記録する道具です。メーカーはいちいちシチュエーション別の利用法まで示しません。我々は伝えるために、視点を変えていくのです。使う側も知らない使い方を提案する時に初めてニーズが顕在化してくるのです。消費者も使いたい気持ちになる。使いたくなったら、そう使ってほしい。

デジタルカメラでも同じように目先を変えることによって販売増につなげたことがあります。デジカメの出始めのころは画素競争が盛んでした。200万画素のカメラが出たと思ったら、主戦場は500万画素になり、とうとう1000万画素、2000万画素の時代になりました。数字が上がると何かよくわからないけど、高性能になったことは消費者にもぼんやりとは分かります。消費者は最初、性能の進歩を商品の良さと思っていました。しかし、今や2000万画素を備えたカメラでも1万円しない時代です。そこで消費者はハタと気付くわけです。カメラは一体何のためにあるのか、と。そこまで行くと消費者は自分が求めていたのは実は、カメラの性能ではないことがわかってきます。

私は25歳で実家のカメラ店に入り修行しました。だから、友人の結婚式でもいつでも写真係に駆り出されました。ネガを見ると当たり前の話ですが、私は全然写っていません。その経験からですが、ビデオカメラを宣伝する時にはよく次のように言っていました。「お母さん、子供の運動会に行くときには子供だけの映像を残すのではなく、お父さんやお母さんや家族の方も一緒に残しましょうね」。

なぜならば子供が大きくなった時、小さい時の自分を見るだけでは物足りないものです。20年前の若きころのお父さん、お母さんや、亡くなった祖父や祖母が元気でいる映像を見たら、めちゃくちゃ感動するものです。だから一緒に家族を入れてビデオを撮るべきだとずっと通販番組で言い続けました。商品というのは体験的に腑(ふ)に落ちるシチュエーションを頭にまず思い描いて、商品の先にある本当の役割と価値を、使用者目線で伝えて行く事が大切だと思っています。それは結果的に開発者の真の想いを伝える事にもなるでしょう。

こうしたことは、私だからできるということでは決してありません。「伝える」ために「伝わる」ためにどうしたら良いだろうと、日夜考え続けて精進し続ければ、変化対応、変化創造の直感力は誰にでも備わってくるものだと信じています。私は商品の魅力を引き出して一人でも多くの人にモノを使って人生を豊かに生きてもらいたいと思って、テレビカメラの前に立ち続けました。

高田明(たかた・あきら)
1971年大阪経済大経卒。機械メーカーを経て、74年実家が経営するカメラ店に入社。86年にジャパネットたかたの前身の「たかた」を設立し社長。99年現社名に変更。2015年1月社長退任。16年1月テレビ通販番組のレギュラー出演を終える。長崎県出身。67歳

(シニア・エディター 木ノ内敏久)

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