ゴールデンボンバー 「笑われてナンボ」の美意識
ビジュアル系の系譜(3)
あの『女々しくて』がリリースされたのは、はるか大昔の2009年10月。2年後の11年8月に再リリースしたあたりから、配信やらカラオケやらの各社チャートで1位を飾り始め、翌12年の歳末にはインディーズ・バンドながら『NHK紅白歌合戦』初出場を果たした。それ以来毎年毎年、<コント『女々しくて』>という同一演目で13年も14年も15年も紅白に出場し続けている。きっと今年も来年も再来年も出るだろう。
にわかに信じ難い現実だが、ゴールデンボンバー(以下、金爆)はいつの間にか日本を代表する国民的バンドなのだ。おお。
とはいえ金爆は、楽器を一切演奏しないエアバンドである。しかもビジュアル系(以下、V系)を標榜しているにもかかわらず、演奏中に熱湯風呂に入るし800メートルリレー走るしTバック姿でサンバ踊るし、ステージは毎回毎回「これでもか」のネタライブと化す。
これまでの常識からいえば、完璧な<イロモノ>ですがすがしいまでの<一発屋>が、矮小(わいしょう)化する音楽業界の救世主になったのだから、なんとも痛快な話ではないか。
V系の様式美をとことん戯画化
なんたって雑食性あふれる美意識と音楽性でもって、どこまでもスタイリッシュに<破滅の美学>を構築した音楽ジャンルが、V系である。だとすれば「笑われてナンボ」の金爆ワールドは明らかに正反対なわけで、これが15年前ならYOSHIKIの取り巻き連中に真夜中に呼び出され、間違いなくボコボコにされていた。
ところが金爆の「VISUAL JAPAN SUMMIT 2016」出演は、X JAPAN、LUNA SEA、GLAYに続いて発表される破格の扱いだ。またGacktはかねてより金爆をかわいがっていたし、YOSHIKIはニコ生の「YOSHIKIチャンネル」に生出演させるなど、レジェンド勢は金爆に理解を示すことで己れの懐の深さをアピールしているように映る。言い換えれば、それだけ金爆が無視できない存在であるということなのだ。
BUCK-TICKやXの登場を機に80年代末に誕生したV系は、その自由進取過ぎる姿勢もあっていまだに、<ナルシシズム満載の何でもありロック>とでも定義するしかない、日本オリジナルのロックである。しかしその半面、レジェンドたちが強烈過ぎてシーンそのものが様式美化してしまうというジレンマに陥り、世間から見れば2000年代以降はスタイルが硬直停滞している感があった。
そんな現状を知ってか知らずか、金爆は硬直化を逆手にとってV系ならではの様式美をとことん戯画化した。彼らのライヴ定番曲『十ザ・V系っぽい曲十』なんて、徹頭徹尾V系していて笑うしかない。最初はおちょくってるのかと思ったが、彼らは本気で戯画化にいそしんでいた。
真剣にやればやるほど、滑稽でおかしい。
そう、これぞまさしくV系の真骨頂なのである。
自虐スピリットを体を張って表現
思い出してほしい。V系サウンドの基本は、肉体の限界になぜか挑む超高速ハイスパート・ロック。「そこまで速く弾かんでも」「たたかんでも」的な人体実験が繰り広げられた。毎回毎回ドラム・ソロを叩き過ぎたYOSHIKIが倒れて運ばれる光景は、まさにその象徴だ。たしかに感動的なのだろうが、ぷっと吹き出してたのは私だけではあるまい。
そんな笑っちゃう自虐スピリットを、金爆は金爆でまた体を張って表現しているように、私には映った。エアバンドにしても、<楽器を演奏する暇と体力と集中力があるなら、その分までパフォーマンスにつぎ込めばいい>――いいねぇこの生き急ぎ感。V系の神様もきっと、草葉の陰で喜んでいることだろう。
鬼龍院翔の言葉を借りれば、「80年代や90年代に思春期を過ごし、バンドの音楽に心助けられたものすごく大勢の人たちから見たら、エアバンドなんかやってやがるボンバーは<バンドという神聖なもの>を踏みにじる、許せない反逆児」となる。そして、アイドルの<口パク>もバンドの<楽器パク>も、DJブースでお皿回すフリしながらトラックを流すヒップホップの<口パク>だって「エアバンドと似たようなもの」と言い放てる鬼龍院は、レジェンド勢の暴れカリスマに引けをとらぬ、ある意味<立派なV系>なのであった。
そうだった。
V系とは昔から、<無駄なことに命を賭ける、誰にも真似できないコンテンツ力>そのものだったのだ。
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