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【悲報】長年連れ添っても夫婦の睡眠習慣は似ない

日経ナショナル ジオグラフィック社

2016/11/1

ナショナルジオグラフィック日本版

PIXTA

似たもの夫婦という言葉があるが、あまたの家族調査によれば長年連れ添った夫婦は確かに性格傾向が似ているらしい。「一緒に暮らしているから似てくる」のか、「元々似ているもの同士が結婚した」のか、その理由についても研究が行われている。

米国ミシガン州立大学の心理学者が1296組の夫婦を対象に調べたところ、陽気さ、陰気さ、慎重さなど大部分の性格傾向は同居年数には関連せず、どうやら「元々似ているもの同士が結婚した」可能性が高いと結論づけている。

ただ、「攻撃性」は一緒に生活しているとだんだん似てくるらしい。片方が攻撃的だと売り言葉に買い言葉方式でパートナーも攻撃的になるとのことで、「似たもの夫婦」は必ずしも「おしどり夫婦」とはならないようだ。

睡眠習慣についてはどうだろうか。長年生活を共にしていれば、寝起きの時刻や体のリズムも徐々に近づいていくのではないだろうか?

私たちが行った調査結果では、答えは「NO」である。性格傾向と同様に、夫婦間でも睡眠パターンは似てこないことが分かった。

(イラスト:三島由美子)

■パートナーの睡眠習慣に影響を与える要素は?

調査対象になったのは225組(450人)の夫婦である。平均年齢は夫が44.4歳、妻が42.1歳、同居年数は平均17.0年(1年~48年)。食事を一緒にする回数は、週あたり朝食が3.4回、昼食が1.2回、夕食が4.9回。86.9%の夫婦が寝室を共にしていた。

夕食を週に5回近く、昼食も(おそらく休日だと思われるが)1回以上一緒にできているのは立派なもので、帰宅が遅く休日出勤も多い私としては実に耳が痛い。これが日本の夫婦生活の平均像に近いかどうかは別として、かなり生活時間を共有している夫婦が調査対象になった。

さて、これらの夫婦で寝つく時間(入眠時刻)と目覚める時間(覚醒時刻)が似てくるのかどうかを解析した。睡眠習慣を近づけるような、お互いに影響を与え合う要因ははたしてあるのだろうか。その要因として取り上げたのは、それぞれの朝型・夜型傾向(クロノタイプ)、睡眠問題(不眠、眠気、その他の睡眠障害の有無)、睡眠習慣(入眠・覚醒時刻、睡眠時間の長さなど)、年齢、性別、同居年数、そして、寝室や食事を含めた生活習慣の共有の度合いなどである。

(イラスト:三島由美子)

その結果分かったことは、入眠時刻に強く影響したのは「自分自身のクロノタイプ」と「不眠傾向」であり、パートナーの睡眠習慣で影響したのは入眠時刻のみであった。それもごく弱く。同居年数、寝室や食事の共有回数などはお互いの睡眠習慣に全く影響していなかった。

クロノタイプは遺伝的に決められている部分が大きい。つまり体質的なものである。元々夜型傾向が強ければ、パートナーがいくら早寝をしてもそれにつられて早寝をするようにはならないということだ。旦那が早々とソファーで高いびき、妻は夜な夜なネットサーフィン、そのような家庭内時差に陥っているご夫婦も少なくないのでは。

ちなみに、不眠傾向は後天的な要素で、当然ながら寝つきに時間がかかり入眠時刻は遅くなる。中年以降になると不眠症状が増加する。眠れず悶々としている脇で高いびきをかくパートナーが恨めしいと話す患者さんも少なくない。

■研究のきっかけになった悲しい一例

一方、覚醒時刻に最も強く影響したのもやはり「自分自身のクロノタイプ」であった。覚醒時刻については「性別(女性が早起き)」と「相手の覚醒時刻」もある程度影響していた。

入眠時刻と異なり、覚醒時刻に女性であることと相手の覚醒時刻が影響したのは、覚醒時刻は目覚ましや出社時刻などで人為的に操作されやすいためである。妻が夫の朝食や弁当作りのために早起きをする、などはその典型である(女性が食事を作るべきだと考えているわけではなく、調査結果がそうなので・・・念のため)。

しかし、やはり覚醒時刻に最も大きな影響を及ぼすのは自分自身のクロノタイプであった。甲斐甲斐しく早起きをしている妻も、必ずしも楽々起きているわけではない。夜型傾向が強い人の場合、早起きした分だけ早寝できるわけではなく、睡眠時間は短くなりがちだ。寝不足を溜め込んで週末はブランチでごまかすことになる。

かくも個人の睡眠習慣というのは体質によって強く決定されており、いくらおしどり夫婦でも睡眠習慣は似たもの夫婦にはならないのである。

私がこのような研究を行うきっかけになった患者さんがいる。うつ状態で精神科外来を受診してきた主婦の方である。問診の結果、ご本人が悩んでいたのは夫婦間の性格の不一致ならぬ「生活時間の不一致」であった。

公務員のご主人は夕方に帰宅すると食事もそこそこに20時過ぎには寝てしまい、朝3時には起床するのである。結婚当初は頑張って夜も付き合ってくれたが、よほど辛いらしく、結婚10年目ともなれば自分の体内時計に忠実に従う生活に戻ってしまった。

結婚後に同居して分かったのは、義父も同様に「超」早寝早起きであること。いや、順番が逆で、超朝型体質は父親から遺伝したようなのだ。そしてあろうことか、生まれてきた2人の子供もさらに輪をかけた超朝型であることがわかってきた。下の妹は生まれてこの方、朝に起床の声かけをしたことがないという。幼稚園に入る頃には朝5時前から自分で起きてきたというのであるから、大変な朝型である。

このご家族のように、極端な朝型睡眠パターンが複数世代にわたって性別を超えて遺伝(常染色体優性遺伝)する睡眠障害は「家族性睡眠相前進症候群」と呼ばれている。時計遺伝子の一部に突然変異が生じることで発症する。このご家族は日本で初めて見つかった家族性睡眠相前進症候群であるが、奇しくも発症したご本人ではなくその奥さんが相談に見えたわけである。

夫も子供も早々に寝てしまい家族団らんの時間がとても短い。自分だけが家庭内の時差ボケ状態。でも、自分の睡眠習慣はなかなか変えられない。自責感もつのる。睡眠習慣が似たもの夫婦になれない悲しい一例として非常に強く印象に残ったのであった。

三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2016年9月29日付の記事を再構成]

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著者:三島 和夫
出版:日経ナショナルジオグラフィック社
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