AI時代の到来で「専門家」人材は仕事を奪われる?人材紹介会社・コンコードの渡辺秀和社長に聞く(4)

公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司

公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司
コンコードエグゼクティブグループの渡辺秀和社長
コンコードエグゼクティブグループの渡辺秀和社長

2020年の東京五輪・パラリンピック後の「post2020」時代にビジネスリーダーのキャリア戦略を考えるうえで、人工知能(AI)の動向は無視できない。ファンドや外資系企業への転職に強みを持つ人材紹介会社、コンコードエグゼクティブグループ(東京・千代田)の渡辺秀和社長にキャリア戦略について聞く最終回は、AI時代のキャリアについて考える。(聞き手は公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司)

藤田 AIの進化に伴い、AIに取って代わられる可能性がある仕事も出てきますね。

渡辺 post2020時代のキャリア戦略を考えるうえで、AIの進化を考慮に入れることは必須といえます。今までは大きく分けて、経営スキルを身につけて「経営者」として組織をリードしていく方法と専門スキルを身につけて企業内の「専門家」として価値を生んでいく方法の2つがありました。しかし、AIの登場によって「専門家」としてのキャリアが瓦解するリスクが出始めています。特定領域における豊富な専門知識や事例をベースにしてパターンに導き出し、与えられた問題を解決するという仕事はAIが最も得意とするものだからです。

藤田 AIは「経営者」人材としてのキャリアには、どのように影響するでしょうか。

渡辺 将来のビジョンや夢といった大きな絵図を描く、新しく事業を作る、必要な人を巻き込むといった役割が経営者には求められます。こういった仕事はAIには難しいと考えています。「何を問題と思うか」「何をしたいのか」を考えるのは、人間の価値観や意思が関わることです。意思決定や合意形成は人間の仕事として残ると思います。ただし、一度まわり始めた事業の改善はAIが担うことになるでしょう。

課題を整理する専門家に出番も

藤田 新たなニーズを見い出したり、何が課題かを定義することはやはり人間の仕事ですね。

渡辺 さらに言えば、AIに相談できるレベルにまで課題や悩みを引き出して整理することも人間に求められる仕事だといえるでしょう。解決したい課題や悩みが言葉にできるレベルにまで具体化されていない場合や、問題を問題として認識できていない場合はAIに相談しようにも相談できません。そういった状況を整理し、言葉にまとめたり、問題を問題として気づかせたりすることも人間の力が求められる仕事です。そのような能力を持った人材は今後も求められ続けると思います。同じ専門家でも、そのような段階から顧客に関わることができるかどうかが明暗を分けるのではないでしょうか。

藤田 そういった経営者人材、専門家人材と並行して、AIをはじめとしたIT(情報技術)や進化する科学技術を扱う能力が高い人材も必要とされるでしょうね。

渡辺 今の時代は優れたウェブサイトを持っていることが企業の大きな強みとなっていますが、今後は優れたAIを持っている企業が強い時代になるでしょう。優れたAIを持てば、いくら競合他社が頑張っても、太刀打ちできない品質の商品やサービスを低コストで提供できるようになるわけですから、AIスペシャリストには大きなニーズがあるといえるでしょう。

藤田 低コスト化もポイントになりますね。

渡辺 AIだけでなく、シェアリングエコノミー、クラウドソーシング、3Dプリンターなどによって、あらゆるモノのコストが下がります。LINE(ライン)で無料通話ができる。動画投稿サイト「ユーチューブ」を見れば、テレビがなくても動画を楽しめる。3Dプリンターで手軽にモノを作れる。様々なモノやサービスが無料あるいは安価で手に入るようになってきています。

藤田 この流れが一段と進めば、それほど多くのお金を持っていなくても不自由することなく暮らせる時代になることも予想できます。

渡辺 そうですね。お金を稼ぐために我慢して働かなくてもよい社会になるかもしれません。これは本質的な人間らしい生き方ができる時代ともいえます。

藤田 そんな時代になったとしたら、人間の意識はどこに向かうのでしょうか。

古代ギリシャ人のように

渡辺 恐らくはエンターテインメントや哲学、内面の成長を高める努力などに向かうのではないかと思います。まさに労働から解放されていた古代ギリシャ人のようです。リオデジャネイロ五輪・パラリンピックの盛り上がりを見ていてわかるように、スポーツは人間がやるから感動があるのです。ロボットが100メートルを5秒で走っても、そこに感動はありません。結果がすごいだけではダメなのです。試合までの不断の努力、ケガや挫折を乗り越える強い心、チームメンバーとの絆(きずな)、全力を出し尽くす気合などが背景にあるからこそ、人は感動します。人は物語に感動しているのです。AIが発達した社会が到来しても、エンターテインメントに携わる人の仕事は残るでしょう。

藤田 そういった時代には、どのようなキャリア戦略が重要になりますか。

コンコードの渡辺秀和社長(右)と対談した筆者

渡辺 お金をたくさん持つ必要がないならば、高収入かどうかよりも、やりがいや社会的意義を感じられたり、周囲の人に喜んでもらえたりする仕事を選ぶ人が増えるでしょう。自分の「使命」を通じて周囲や社会に貢献する、そして「豊かな人間関係」をつくるという生き方です。ただ、このような社会になるというのは、一つの有力なシナリオであっても、確実に起こるといえるものではありません。また、そのような社会が訪れるとしても、いつそうなるのか、全員がそうなれるのかなど不確定な要素が多々あります。「お金は要らない」と振り切るには早すぎます。

藤田 今は、そんな社会に向かう過渡期かもしれません。

渡辺 過渡期ともいえる現代に、私たちが提唱しているキャリアの一つに「社会起業家」という生き方があります。自分が関心を持つテーマを通じて、世の中をより良くしていく事業を生み出しながら、恵まれた収入も得ていくのです。社会起業家としてビジョンを掲げ、事業を創造し、人を巻き込んで流れを作るという仕事は人間に求められ、残っていくと思います。自分の使命を通じて周囲や社会へ貢献するという本質的なキャリア設計が大切な時代となったのは間違いないでしょう。年収や会社のブランド、社内ポジションなどを追い求めても「自分が追い求めてきたものの価値が急になくなってしまった」ということにもなりかねません。post2020は、それほど変化の激しい時代になるといえるでしょう。

対談を終えて
これからの時代、ただ安定を求めようとする人材は逆に安定が得られなくなる――。これは4回の対談を通じて特に印象に残ったことです。渡辺秀和社長はpost 2020は科学技術の進化も転職市場の環境も激動すると予測していました。AIなどの台頭により既存のビジネスモデルが簡単に崩壊する時代、ただ組織に依存するだけの生き方に安定を求めることは難しいと言わざるを得ません。
人材市場において高く評価される人材になるべく、変化の時代に備え、求められる力を身に付けるための場を探し出し、好機を逃すことなく自らキャリアをデザインしていく。こういった生き方の中に、これからの時代の「安定」があるといえるでしょう。
2020年の東京五輪・パラリンピックを一つのきっかけとして時代は大きく変化していきます。その変化を恐れるのではなく、変化に飛び込んで好機を見出していく。そんな次世代のビジネスリーダーに期待したいと思います。(藤田耕司)

(この項おわり)

わたなべ・ひでかず 一橋大商卒。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)戦略コンサル部門を経て、人材紹介会社のムービン・ストラテジック・キャリア(東京・中央)で5年連続ナンバーワンキャリアコンサルタントとして活躍。2008年にコンコードエグゼクティブグループを設立。ビズリーチ(東京・渋谷)が主催する「日本ヘッドハンター大賞2010」のコンサルティング部門で初代MVPを受賞。1000人超の相談者をコンサル業界やファンド、事業会社の幹部に転身させてきた。著書に「ビジネスエリートへのキャリア戦略」(ダイヤモンド社)がある。
ふじた・こうじ 公認会計士、税理士、心理カウンセラー。早大商卒。監査法人トーマツを経て日本経営心理士協会、FSG税理士事務所、FSGマネジメントを設立。経営コンサルティングと心理学を融合した経営心理学の普及活動を行い、企業の経営顧問、経営者のメンターを務める。主な著書に「リーダーのための経営心理学」(日本経済新聞出版社)がある。

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