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世界を席巻したスマートフォン(スマホ)向けゲーム「ポケモンGO」。しかし、2003年に全地球測位システム(GPS)を活用した位置情報ゲーム(位置ゲー)の先駆は日本にある。コロプラは、世界で初めての位置ゲー「コロニーな生活」を開発、多くの利用者を獲得したが、今では海外で別の顔を持つ。仮想現実(VR)に関することならあらゆる技術に投資するファンドとしての顔だ。世界に目を向ける馬場功淳社長は、ポケモンGOの隆盛を見て、今後の戦略をどのように描いているのか。

「位置ゲー」の持つ危険性

――2003年に提供を始めた「コロニーな生活」は位置ゲーの先駆的存在です。爆発的にヒットしたポケモンGOをどのように見ていますか。

「位置ゲーというジャンルのゲーム、それは確かに我々が世界で最初にやったものです。ポケモンGO以前で、経済規模的にも一番だったと思う。それが日本で生まれた理由は、インフラの問題です。当時、日本では従来型携帯電話(ガラケー)が流行し、モバイルの先進国でした。GPS情報が取れる端末は日本にしかなくて、このジャンルが生まれたのは必然だったと思います。しかし、スマホが登場しました。高性能で、地図が見られるのというは一番の訴求ポイントでした。そこからエンタメ、ゲームに応用したいという考え方は自然に発生したのだろうと思います。もともとポケモンGOを開発したジョン・ハンケ氏は米グーグルで地図を開発していた人でした。お会いしたこともありますが、彼はうちのサービスを知りませんでした。昔、意見交換したこともあります」

コロプラ社長 馬場功淳氏

コロプラ社長 馬場功淳氏

「私はポケモンGOの構想も知りませんでしたが、半年か1年前に発表があったとき、なるほどな、と思いました。リアルタイムで位置情報を取得できるなんて画期的です。そこに世界的なIP(知的財産)であるポケモンを使った。しかも、ポケモンは町でモンスターを捕まえるゲームなので、すごいところにいったな、と」

――ポケモンGOのようなものをつくる発想は馬場さんにはなかったのですか。

「もちろんありました。ただ、位置ゲーをすでにやっていたからだと思いますが、位置ゲーの危うさを理解していた分だけ、有名なキャラクターでやる怖さはありました。つくり方によっては、今話題になっているように町中での事故など、いろんな問題が起きるんだろうな、と。また、我々にはグローバルに展開するノウハウがありません。ポケモンについては、彼らがやった方がよかったと思いますね」

モバイルゲーム、ヒットの定義は

――モバイルゲームについてですが、ヒットの定義はあるのでしょうか。

「決まってはいないですね。2年前と今ではモバイルゲーム市場がまったく違っています。今のほうがより多く求められるし、昔の大ヒットが今の大ヒットではない。数字は決めていませんが、なんとなく電車でやっている人を見かけたらヒットかな、と思っています。そもそもエンターテインメントで目標設定っておこがましいでしょう。我々は提案しかできないし、選ぶのはユーザーです。目標を決めるのは、使わせる、ということなのでそれはエンタメではない。社員に対しても会社なので売り上げの目標はありますが、それをもって評価したりとかはないです。見ないようにしているし、見ても仕方がないと思っています」

――今、コロプラはVRに注力していますが、どのような戦略を進めているのですか。

「VRについてはシンプルで、とにかくすべてに『張る』。内容はあまり関係なくてVRかどうかが重要な指標です。将来VRが世の中に広まるか、広まらないかのパラメーターしかない。自分たちでゲームもつくるし、映像の会社もつくるし、ハードの部分にもすべて投資する。もしVRが広まったらうちの会社がプラスに働くし、広まらなかったらマイナスになります。これだけ多くのゲームをVRでつくっているのは、うちくらいではないでしょうか」

――VRコンテンツの制作コストはどれくらいですか。

「モノによります。うちは1本1億円、2億円でVRはつくっていて、そんなにお金をかけているわけではありません。モバイルのほうがコストがかかります。なぜならモバイルは、高い表現をロースペックでやらなければいけないからです。軽自動車でサーキットを走るのとF1マシンで走るのはどちらがドライバー大変か、という話です。ハイスペックの方がやりやすい。ただ、今後VRが発達してきて本当の大型ゲームをつくろうとすると、50億円から100億円はかかります。それはまだ先です。今はまだそれを支える市場規模もありません」

――今、日本や米国でVRの市場規模は伸びているのでしょうか。

「日本はあまりないですね。市場規模自体は端末を売るので広がりますが、まだまだです。基本的にVRのゲームは海外向けにつくっています。一方で、米国では伸びる一方です。ゴールドマン・サックスは、VR市場は最速で2025年にヘッドセットなど、ハードウエアが1100億ドル(約11兆円)、ゲームなどのソフトウエアが720億ドル(約7兆円)で合計1820億ドル(約18兆円)になると予想しています。端末が安くなり、コンテンツが増えて市場が爆発するといいな、と思っています。VRが広まればうちは必ずもうかるからです」

「今のところ、次に流行する最有力がVRといわれています。私は可能性はそこしかないと思っています。ほかのアイデアは、何かすごい発明をしなければ実現できないような夢物語みたいなモノしかない。VRは、技術的にはもう可能です。VRの技術が3年後、コンテンツが出てきたり、解像度が上がったり、ユーザーの動きを感知するスピードが増すことは間違いない。これが他の概念だとそこまでいきません」

日本の文化は特殊である

――今後、どのようにグローバル戦略を進めていきますか。

「難しいですね。コロプラには米シリコンバレーに拠点がありますが、なかなかうまくいきません。海外は難しい。日本の文化は世界のあらゆる人種から見て特殊です。一方で、米国の価値観は世界の標準です。だから米国でつくったものは世界で受け入れられる。我々の感覚は外れに外れているところにあるので、我々がつくってもグローバルにいけない。ガラケーにしても世界の人は、あんな小さなボタンを押したくないんです(笑)。いいことも悪いことも、我々は世界から見たら異質である、ということを認識しなければならないと思います。特に、ゲームを含めたエンタメは感性なので、より強く表れます。車はカスタマイズしているとは思いますが、モノであればある程度少ないのではないでしょうか」

VRに賭ける

「エンタメの分野は世界の市場規模のほうが大きいので、我々はなんとか前に進もうとグローバルの道筋を探っています。日本人がエンタメの世界で頑張ることは困難ですが、可能性はゼロではない。VRに関して、投資している会社はほとんど海外です。日本の会社がこれまで海外の企業に投資できる例は珍しいと思います。投資ってお金さえ出せば出せると思っている人がいますが、そんなことはありません。お金を持っていても入れてくれないのがほとんどです。とにかく現地のコミュニティーに入って仲良くする。米国だったらシリコンバレーのパーティーに出て、友達になる。そして信用してもらわなければなりません。今、VRファンドの金額は60億円、30社弱ですが、ある意味うちでつくった唯一のグローバルヒット商品ではないでしょうか」

――5年後、10年後のコロプラを、どのようにイメージしていますか。

「できてまだ8年の会社なので、どうなっているかはわかりません。VRがもしかしたら大成功しているかもしれない。そうなれば面白いし、伸びしろのある会社といえるでしょう。今の我々の姿を5年前に想像できたかといえば、できなかったことも考えると、地道にやり続けるしかないと思います」

馬場功淳氏(ばば・なるあつ)
1978年兵庫県生まれ。2004年九州工業大学大学院博士課程中退。学生時代からゲーム開発を手がける。ケイ・ラボラトリー(現KLab)、グリーを経て、08年にコロプラを設立。12年に東証マザーズ上場、14年に東証1部に市場変更。

(松本千恵 代慶達也)

「キャリアコラム」は随時掲載です。

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