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森トラストの会長、森章氏(80)の事業熱が止まらない。北海道苫小牧市で東京ディズニーランド20個分にあたる1057ヘクタールの敷地を購入、超大型のリゾート開発に乗り出したのだ。目指すのは日本のどこにもなかった本物の超高級リゾート。森家のDNAは1代で売上高1600億円もの大企業をつくり上げた起業家に決して「休め」とは命じない。

森家の家訓でサラリーマン

「森家の家訓の1つに『マネをしてはいけない』というのがあった。それで銀行マンになることを選んだ」。1960年、慶応義塾大学の経済学部を卒業した森章氏が就職先を選ぶ際、最も重視したのが森家の家訓だった。

三男坊だった森章氏。1番うえの兄の敬氏は学者、2番目の稔氏が不動産業だったため、マネをしないというならサラリーマンしか残っていない。それならいっそ「サラリーマンの権化のような銀行マンになってやろう」と安田信託銀行(現みずほ信託銀行)への入行を決めたという。

北海道苫小牧市の植苗地区に1057ヘクタールの敷地を取得した。

北海道苫小牧市の植苗地区に1057ヘクタールの敷地を取得した。

今回の超高級リゾートプロジュエクトも「人のマネをしない」という点ではこの就職先選びとよく似ていて森章氏らしい。今年の6月23日付で自身が創業した森トラストの社長の席を長女の伊達美和子氏(45)に譲り、会長に退くやいなや打ち出した構想だが、これほどまでスケールの大きいリゾート開発は、誰も手掛けたことはない。

計画ではまず1500室のホテル、数棟のコテージを建て、26年までにはホテルを330室、コテージは40棟に増やすというが、例えばコテージなら1区画で8000平方メートルものプランを用意する。

執事のいる超高級リゾート

その敷地に建てるコテージは2階建てで延べ床面積1000平方メートル。通常、ファミリータイプの標準的なマンションが75平方メートル程度だから、その13倍以上もの大きさだ。コテージの一画には帯同させる料理人の部屋も用意する計画。海外の富豪のような「執事」のいる空間までできるわけだ。そんな高級リゾートで休日を過ごせる日本人はいったいどれくらいるだろうか、と疑問を呈したくもなるほどだ。

もっとも、森章氏が今回の開発プロジェクトで想定しているのは海外から日本を訪れる富裕層だ。開発を予定している場所は新千歳空港からも近くすぐ脇を道央自動車道が通る。外国人から人気の医療ツーリズムの機能の持たせるため、腕の良い医師を置くクリニックも建設する計画だ。

森トラスト 森章会長

森トラスト 森章会長

さて、今回はどうだろう。

森章氏と言えば、1970年代に日本で初めての法人会員制リゾートシステムである「ラフォーレ倶楽部」を創設したことでも知られる。今で言う、いわば企業の福利厚生代行サービスの原型といえ、企業が保有資産の見直しに着手する流れを読み、見事に成長軌道に乗せた。

森章氏はかねて日本はインバウンド(訪日外国人)への対応が「まだまだ不十分」との持論を展開してきた。仮にインバウンドが2000万人になっても消費規模は4兆円弱で国内総生産(GDP)の約0.8%にすぎない計算になるからだ。「欧米に比べれば伸ばす余地は大きい」といい、確かに説得力はある。

ただ、こうした森章氏らしい大仕掛けなリゾート開発は森トラストの社長というポストを伊達氏に移譲したからこそできる技とも言える。例えば開発用地も森章氏個人が全額出資する投資会社、MAプラットフォーム(東京・港)が取得しており、一義的には森トラストの経営とは一線を画す。

DNAは長女にも

森トラスト 伊達美和子社長

森トラスト 伊達美和子社長

では、森トラストの方は今後、どう進むのか。後を託された伊達美和子氏は森章氏同様、不動産事業で挑戦し続ける方針だ。6月末に開いた社長就任会見でも「森家のDNA」を強調、2027年度までに最大で8000億円を投資することを表明した。売上高を現在の1.4倍に引き上げ、45%の自己資本比率を実現するという。不動産は男の世界といわれるが、守りではなく攻めに徹する考えだ。

プロジェクトを実行に移す前にまずは資金調達が必要になる不動産業でものを言うのは信用力。いきおい三菱地所や三井不動産など財閥の名前を冠した企業が幅を効かせる。森トラストや森ビルのような勢いのある独立系の企業はごくわずかだ。「誰に助けてもらえるわけではない」厳しさのなかで、歯を食いしばりながらギリギリまでリスクをとり成長を遂げてきたという。

その自信と自負が森章氏を挑戦することを宿命づけ、その後を担う伊達美和子氏にもまた成長を義務づける。生き残ることとは、勝ち続けること、勝つためには挑戦し続けること――。その悲しいまでのストイックな森章氏の生きざまと森トラストをとりまく環境を苫小牧の森は映し出しているようにも思える。

(前野雅弥)

「キャリアコラム」は随時掲載です。

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