エミー賞から読み解く 米国ドラマ黄金時代
「ゲーム・オブ・スローンズ」史上最多12冠
テレビ界のアカデミー賞ともいわれ、米テレビ界で最高の栄誉であるエミー賞。その第68回授賞式が9月18日、ロサンゼルスで開かれた。その結果を基に海外ドラマの人気作を探ってみよう。
スペクタクル大作12冠
最も注目が集まるドラマシリーズ部門の作品賞は、「ゲーム・オブ・スローンズ」が2年連続の受賞となった。架空の大陸を舞台に、7王国の覇権争いを描くスペクタクル大作。大手ケーブル局HBOで2011年から全米放送されており、今回は最新のシーズン6が対象。主な登場人物だけ数えても100人近くになる大河ドラマで、世界各地でロケを繰り広げており、映画をしのぐスケールの映像と濃厚な人間ドラマで人気を得ている。
主要部門では監督賞、脚本賞も受賞。そのほかもあわせると、昨年同作が記録した史上最多タイとなる12部門受賞の快挙を成し遂げた。原作はジョージ・R・R・マーティンのファンタジー小説。これまでファンタジーやSFやホラーといったジャンルは人気はあっても、受賞にはなかなか結びつかなかったが、2年連続の作品賞受賞でクオリティーの高さが証明された格好だ。近年、良作を次々と生み出す米国ドラマは黄金時代を迎えたといわれるが、それを象徴する作品といえるだろう。
主演男優賞はラミ・マレック。「MR.ROBOT/ミスター・ロボット」で、昼はサイバーセキュリティーの技術者として働き、夜は天才的なハッカーとして活動する青年を演じて初受賞。主演女優賞はタチアナ・マズラニー。遺伝子操作を扱うSF「オーファン・ブラック ~暴走遺伝子」で何役ものクローンを演じ分け、こちらも初受賞した。いずれも現代的なテーマを扱った作品であり、旬の題材がテレビで人気が高いことがわかる。
実話に基づいた作品続々
コメディ部門でも、米国の今日的な問題を反映した作品の受賞が相次いだ。作品賞は、女性副大統領の日々を描く政治コメディ「Veep」が昨年に続いて受賞。主人公を演じたジュリア・ルイス=ドレイファスは、同役で5年連続の主演女優賞。「政治の風刺で始めたドラマが、今日ではドキュメンタリーの様相を呈しています」と、現実の大統領選を意識したスピーチで観客を笑わせた。主演男優賞は、「トランスペアレント」で老齢のトランスジェンダー(性別越境者)を演じたジェフリー・タンバーが2年連続受賞した。
アマゾンが配信した「トランスペアレント」は監督賞も受賞。ネットフリックスが配信したインド系米国人の売れない俳優が主人公の「マスター・オブ・ゼロ」は脚本賞を受賞と、コメディ部門では動画配信サービスのオリジナル作品が目立った。スポンサーなどの制約がない分、表現が自由にできる強みを生かし、マイノリティー問題などにコメディの形で鋭く切りこんだ手法が評価されたようだ。
リミテッドシリーズ/テレビムービー部門では、「アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件」が作品賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、脚本賞の主要5部門で受賞した。
90年代に全米を騒がせた、アメフトの元スター選手で俳優のO・J・シンプソンが妻殺害の容疑をかけられた事件の裁判を、ジョン・トラヴォルタら豪華キャストでドラマ化した。ドキュメンタリーを意識した手法で描く実録ドラマは、米国ドラマ界でブームとなりつつある。その先駆けが「アメリカン・クライム・ストーリー」で、シーズンごとに異なる事件を扱う形式も目新しい。
実話の映画化はたくさんあり、賞レースをにぎわせる秀作も多いが、その波がテレビ界に押し寄せてきている。「~/O・J・シンプソン事件」の受賞は、そうした新しいトレンドの反映といえるだろう。
(日経エンタテインメント!別冊編集長 小川仁志)
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