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器の魅力を堪能 千年の「やきものの里」を歩く 水津陽子の ちょっとディープ旅

2016/9/30

(写真:瀬戸本業窯)
 自分とは異なる世界で生きる人やカルチャーに触れる、ちょっとディープな旅に出てみませんか。平安時代から千年続く古窯(やきもの)の里で、現在も伝統的な製法で器を作り続ける窯を訪ねて、やきもののまち散策に出かけてみました。

 名古屋(栄町駅)から名鉄瀬戸線の急行列車で33分。終点の尾張瀬戸駅は、日本を代表するやきものの街、愛知県瀬戸市にあります。陶器の総称「セトモノ」の語源にもなったといわれる瀬戸焼は、中世から現代まで続く6つの陶器産地「日本六古窯」の一つに数えられます。

 瀬戸では10世紀後半に「灰釉陶器」の生産が始まりました。その後、他窯では量産化によって陶器の購買層はそれまでの貴族などから一般庶民にシフト。日用雑貨の生産が大勢を占めるようになりましたが、瀬戸では12世紀末、当時は国内初となる施釉陶器「黄瀬戸」が焼かれ、唯一高級な施釉陶器を焼く産地として発展しました。

 江戸時代の初め(1616年)、佐賀県有田市で伊万里焼の生産が始まると次第に磁器の人気が高まり、瀬戸でも本来の陶器「本業焼」をつくる窯元は減少していきました。現在も伝統を守る数少ない窯元が、今回ご案内する「瀬戸本業窯」です。

■陶祖を祭る「深川神社・陶彦神社」にまずはお参り

 瀬戸のやきもの散策をしながら本業窯まで出かけてみましょう。尾張瀬戸駅を出たら、まず徒歩約10分のところにある瀬戸の産土(うぶすな)神を祭る深川神社へ向かってみましょう。1200年以上の歴史を有する深川神社の宝物殿には、陶祖・藤四郎(加藤四郎左衛門景正)作と伝えられる国の重要文化財の陶製狛犬が奉納されているほか、本殿の一部には織部瓦が使われています。境内には陶祖・藤四郎を祭った陶彦神社があり、4月には陶祖まつりが行われます。

深川神社(左)の宝物殿には重文の陶製狛犬が納められ、境内には陶祖を祭る陶彦神社(右)がある

 陶彦神社には重要文化財の陶製狛犬を御影石であらわした「なでこまいぬ」があり、その隣では「お願い狛犬」の奉納を受け付けています。「お願い狛犬」は、願いごとを書いた紙を狛犬の胴体に入れ、封をして納めます。2体を求めて1体を奉納し、1体を自宅に持ち帰ることもできます。

陶彦神社の縁起物、「なでこまいぬ」(左)と願掛けの「お願い狛犬」(右)

■美しい窯垣の小径を通って、瀬戸本業窯へ

 陶彦神社を出たら参道を抜け、瀬戸川にかかる宮前橋を渡ります。宮前橋には江戸時代の陶工の様子が染め付けされています。橋を渡った左手の「招き猫ミュージアム」の前から始まる「陶の路」を10分ほど進むと、宝泉寺という大きなお寺の前に出ます。本業窯へは陶の路をまっすぐ進んでも行けますが、ここからは「窯垣の小径(かまがきのこみち)」を歩いてみます。

瀬戸本業窯がある洞町(ほらまち)周辺には、窯垣が密集する(写真:瀬戸市)

 窯垣とは、使われなくなった窯道具(エンゴロ、タナイタなど)を組んで築いた塀や壁の総称で、瀬戸のあちこちで見られます。中でも本業窯がある洞町(ほらまち)では、約400mにわたって美しい窯垣を見ることができます。

瀬戸本業窯では登り窯やギャラリー、資料館などの見学、陶芸体験などができる(写真:瀬戸本業窯)

 本業窯では、1970年代まで使われていた全長14mの登り窯や、資料館、ギャラリーのほか、裏山には13世紀から15世紀に古瀬戸を焼いていた窯跡をはじめ、江戸時代から明治、昭和にかけての窯跡やモロ(作業場)跡などが残された公園「窯跡の杜」があり、見学や買い物だけでなく、瀬戸のやきものに思いをはせる散策も楽しめます。

 なかでもおすすめしたいのが、登り窯の脇にある「窯横カフェ」です。

■器をめでながらランチ&ティータイム

 2013年2月。本業窯の8代目、水野雄介さんは資料館の裏手にあった倉庫を改装して、本業窯の器を使った食や暮らしを提案する「窯横カフェ」をオープンしました。器はそれを使う人がいて、そこに食べ物が載って初めて完成する。本業窯のものづくりの原点である、心豊かな暮らしとともにある器への思いがそこにはありました。

 今年6月、二代目の店長に杉山奈津子さんを迎え、インテリアもメニューも一新しました。それまで名古屋でワイン販売会社に勤めていた杉山さんは8代目に請われ、40代半ばにして都会でのOL生活に終止符を打ち、本業窯の魅力を伝えるカフェを新たなステージに選び、昨年末に瀬戸へ移り住んできたとのことです。

登り窯の隣にある「窯横カフェ」。器は瀬戸本業窯を代表する三彩や馬の目皿を使用している

 30代の頃は夜遊びも謳歌し、週末は癒やしを求めて京都に遊びに行くなど、便利な都会の暮らしを満喫していましたが、次第に満たされない思いを抱くようになっていました。そんなとき、友人が経営する店で瀬戸本業窯の器に出会い、昔ながらの手仕事の器に魅せられ、瀬戸に通うようになりました。当初は個人の楽しみでしたが、4年前にワイン販売会社に転職したのを機に、ブログでワインに合う家庭料理と器を紹介するようになり、本業窯の器もたびたび登場させていました。その内容に8代目が惚れ込み、店長を任せたいという信頼を得たのです。

 現在、窯横カフェの営業は金土日祝の午前11時から午後6時まで(ランチは午後2時まで)。ほかの日は地域になじむ活動をしています。窯横カフェでは本業窯を代表する三彩や馬の目皿などの器を使い、ランチやカフェ、デザートに加え、ワインなどのお酒も提供しています。カフェメニューには「三河わ紅茶」など杉山さんこだわりの逸品も多く、ランチタイムを逃した人には食べごたえのある「イングリッシュマフィンのフレンチトースト」など軽食も用意しています。

 東京から一人で訪れる女性も多いという窯横カフェ。訪れた際はぜひ、杉山さんと本業窯や瀬戸のおすすめスポットなどの会話も楽しんでみてください。

※「窯横カフェ」 午前11時~午後6時 金土日祝日営業 TEL 050-3576-9671

■ここだけは見ておきたい、圧巻の「瀬戸蔵ミュージアム」

 最後にもう一つ、瀬戸に行ったらぜひ訪れてほしいのが「瀬戸蔵ミュージアム」です。

 ここには紀元前2万8000年(旧石器時代)から江戸時代までの瀬戸の歴史、平安時代から現在までの瀬戸焼千年の歩みをたどる資料がわかりやすく展示されていて、やきもの初心者や子どもでも楽しみながら見て学ぶことができます。ミュージアムの下にはショップやレストランもあります。尾張瀬戸駅の目の前なので、先にミュージアムで基礎知識を得てからまち歩きに出かけてもよいでしょう。

※「瀬戸蔵ミュージアム」 午前9時~午後6時(入館は午後5時30分まで) 休日:12月28日~1月4日、月1回程度臨時休館あり TEL 0561-97-1190

瀬戸蔵ミュージアムではやきもの工場や石炭窯、やきもののまちを再現(左)。2000点の資料を陳列した「瀬戸焼回廊」も圧巻(右)

 尾張瀬戸駅周辺にはこのほかにも瀬戸焼を販売する商店や窯元、ミュージアムなど、やきものに関連した施設が多数あります。名古屋にも近く、ひと足伸ばせば気軽に訪れられます。秋の休日、お気に入りの1枚を探してやきものの里を歩いてみませんか。

水津陽子(すいづ・ようこ)
 合同会社フォーティR&C代表。経営コンサルタント。地域資源を生かした観光や地域ブランドづくり、地域活性化・まちづくりに関する講演、コンサルティング、調査研究などを行う。

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