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「名ばかり」「やり過ぎ」 生前贈与の負けパターン

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2016/11/18

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生前贈与で税務署が厳しく見るポイントは、「贈与する」「贈与を受ける」の双方の意思が実態を伴って成立しているか否か。親が勝手に子供の名前で作った口座にお金を振り込み続ける、いわゆる「名義預金」は、子供が実際に口座を管理していなければ贈与として認められない。名義預金は相続財産としてカウントされ、相続税の課税対象になってしまう。

下図の条件に該当する「一方的な贈与」は特に要注意だ。名義預金(名義財産)と見なされ、後で想定外の相続税が生じれば、子供はがっかりするはず。心あたりがあるなら贈与と見なされる状態に改善しておきたい。

落合孝裕さん(落合会計事務所税理士)

贈与するお金は手渡しでなく振り込みが理想。通帳の印鑑は、親が普段使うものとは別にし、通帳・印鑑共に子供が管理するのが絶対条件だ。口座も親の居住地ではなく、子供が暮らす地域の金融機関の窓口で開設したものを使う。さらに「贈与契約書を作成しておくのが望ましい」と税理士の落合孝裕さんは助言する。

CASE1は、子供名義の保険契約なのに、親が保険料を払っていたため最終的に親の資産と見なされた失敗例。「正式な贈与とするには、親が一旦、子供にお金を渡し、子供が自ら保険料を支払う必要がある」(落合さん)

CASE1:子供名義の生命保険、保険料は親が振り込んだので失敗に

E太さんの亡き父は、生前にE太さん名義で生命保険を契約。毎年基礎控除の範囲内で贈与を行うつもりで100万円ずつ保険料を負担してきた。E太さんもこのことを承知しており、生前贈与が成り立つと思い込んでいた。

ところが実際に相続が発生し、生命保険で蓄えた資産は贈与になっていないことを知る。贈与を成立させるには、父からダイレクトに保険料を支払うやり方は駄目で、まず保険料相当をE太さんの口座に振り込み、E太さん自身が自分の口座から保険料を支払う必要があったのだ。
お金を残してくれたのはありがたいが、生前贈与による相続税対策は無効。保険で蓄えた資産は相続財産として計算されることになってしまった。
土田義二さん(土田会計事務所税理士)

相続税の多寡とは違うが「必要以上に生前贈与を繰り返し、自分の生活費が足りなくなり困る例もある」(税理士の土田義二さん)。特に分割での贈与もできる教育資金贈与の特例は、あげる話をすると、子供も「もらえるのが当たり前」と期待してしまう。贈与が途切れたことで親子関係がぎくしゃくすることもあるそうだ。

生前贈与を行う際は、相続税額がいくらかだけでなく、自分の生活費の見通しも十分に立てた上で実行するよう心掛けたい。

■相続と贈与の税負担を比較

CASE2は、もともと相続税の納付は不要だったのに、先走って生前贈与をしてしまった話。配偶者に対する2000万円までの贈与が非課税になる「おしどり贈与」[注]で節税を試みたが、結局、必要のない対策のために無駄なコストを支払ったという失敗だ。

CASE2:節税のつもりでおしどり贈与、他の税金がかかってガックリ

長年連れ添ったF夫さん夫妻。F夫さんは自分が死んだ時、妻の相続税を少しでも軽くしようと婚姻期間20年以上の配偶者への不動産贈与が2000万円相当分まで非課税になる「おしどり贈与」を実行することにした。

贈与の手続きが済んで分かったことだが、おしどり贈与で非課税になるのは贈与税だけ。不動産の名義を書き換える時に必要となる不動産取得税、登録免許税などの税金の払いは生じてしまうのだ。加えて、名義を変えるための手続きを依頼した司法書士への報酬も必要で、税金を含めた一連の費用として約70万円も掛かってしまった。

こんなもんかと思っていたFさんだが、その後、配偶者への相続は1億6000万円まで非課税であることや、小規模宅地等の特例が使えることを知る。どうやらF夫さんが死んでも相続税はかからなかったようなのだ。結局、70万円を掛けた対策は無意味だったわけだ。今、夫妻は「もう少し勉強していれば……」と揃って肩を落としている。
[注]おしどり贈与(贈与税の配偶者控除)とは、結婚後20年以上の配偶者に、居住用不動産、または居住用不動産を買うための資金を贈与した場合に2000万円まで贈与税が非課税になる優遇。110万円の基礎控除とは別枠
佐藤絵里子さん(相続手続支援センター横浜駅前・川崎駅前 税理士)

おしどり贈与自体は生前贈与の有効手段の一つだ。しかし、不動産の所有権の移転に掛かる諸費用は贈与と相続で大きく異なることに注意が必要だ。贈与で不動産を取得した場合は不動産取得税が掛かるが、相続なら非課税。さらに所有権の移転登記に掛かる登録免許税は、贈与だと相続の5倍だ。

「不動産の所有権を移転する時の税金は、相続の方が圧倒的に優遇されている。このことを理解した上で、費用を掛けてまで生前贈与による相続税対策をする必要があるかどうかをよく考えて見極めてほしい」(税理士の佐藤絵里子さん)

(ライター 福島由恵)

[日経マネー2016年11月号の記事を再構成]

日経マネー2016年12月号

著者 :日経マネー編集部
出版 : 日経BP社
価格 : 730円 (税込み)


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