介護予防、地域の力で「要支援」に新制度 NPOなど担い手

ボランティア、NPOなどによる高齢者向けイベントが開かれる「街かどケアカフェ」(東京都練馬区)
ボランティア、NPOなどによる高齢者向けイベントが開かれる「街かどケアカフェ」(東京都練馬区)

公的介護保険で「要支援」の人が対象の、介護予防のためのサービスが大きく変わろうとしている。これまで全国一律に提供されてきたが、2017年4月までに市区町村が取り組む「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」に移る。保険財政が厳しくなるなか、地域のNPOや企業、ボランティアなどの力を活用する狙い。だが、地域によっては地縁が薄く難しいことも。高齢化が深刻になる東京都市部の現状を探った。

東京・世田谷の東京聖十字教会ホールには毎週金曜日になると、近隣の高齢者が10人ほど集まり、4時間、食事や体操、おしゃべりを楽しむ。20分歩いてやってくるという女性(88)は「毎週楽しみ。ルンルン気分です」と話す。「ここに来ると癒やされる」と打ち明ける男性(86)も。

世田谷区が4月に始めた住民主体型の「地域デイサービス」の一つだ。要介護者が主な利用者の通常の「通所介護(デイ)サービス」と異なり、今はまだ介護は必要のない人が自発的に参加している。

同区でケアマネジャーをしていた加納美津子さん(66)が、ボランティアによる高齢者の居場所づくりにも補助金が出ると知り区に申し出て5月に開始。1回9000円の補助金を運営経費にあてる。「数人のボランティアが協力してくれているが、無償では活動できなかった」という。

世田谷区は地域活動が盛んで、区民が自主的に集まる場所が約600ある。地域での支え合い意識が比較的高く「元気な高齢者が、心身が衰え始めた高齢者を支える形ができつつある」(同区の河島貴子介護予防・地域支援課係長)という。そんな世田谷でも区内27地域のうち、地域デイサービスがあるのは11地域にとどまる。「各地域に3つ程度はほしいが、担い手が集まらない」とこぼす。

総合事業では、国の介護保険で提供していた要支援者向けの訪問介護とデイサービスが自治体の事業に切り替わる。東京全区が16年4月までに切り替えた。全国一律サービスから、自治体がニーズに合わせて行う。多くの区でデイサービスは時間短縮や送迎を無くすなどで経費を節減。訪問介護は従来の要支援者ではほとんど利用が無かったものを対象外とした。

もともと祭礼などで地域の結束が強いか、自治体が普段から積極的に地域コミュニティーを活用している地域は互助の仕組みがうまく回り始めている。しかし、東京の都心部の区では「ボランティアやNPOが集まらない。住民主体は理想的な形だが安定感に欠ける」(千代田区)と訴える。

現状について、淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授は「うまく住民支援の仕組みをつくる自治体もあるとは思うが、半数以上の自治体は何も下地がなく戸惑っている。容易ではないだろう」と指摘。「福祉は平等に提供するもので、地方分権では内容に差が生じやすい」という。

多くの区が、自治体の事業に切り替えた後に、担い手不足に直面するなか、練馬区は人材を育成する事業「高齢者支え合いサポーター」に力を入れる。研修を受けてもらった人を、高齢者の居場所づくりや生活支援サービスを担うNPOなどに紹介する。NPOやボランティアが活躍する場として「街かどケアカフェ」と呼ぶ拠点も区の出張所内に開いた。

住民にとって質・量ともに納得のいく介護予防サービスの提供と費用削減が両立できるのか。成否は自治体の知恵と経営能力にかかっている。

■まず互助意識高めて

高齢者が自立して暮らすには、生活実態に応じた新サービスの掘り起こしと提供体制が不可欠。厚生労働省は、市区町村が地域の高齢者の困り事や要望を調べて対応策を考える「協議体」を市区町村や中学校区に設けるよう求めている。

だが他区に先駆けた東京都の品川区でさえ「組織はできたが本格稼働はまだ。住民参加型は時間がかかる」(高齢者地域支援課)。名ばかりにしないために「まずは地域でフォーラムを開き、高齢者や住民に助け合う必要性を分かってもらう地道な活動が必要」とさわやか福祉財団(東京・港)の堀田力会長は話す。

江戸川区は区内3カ所に「なごみの家」と呼ぶ拠点をつくり、生活支援コーディネーターと呼ぶ人材を置いた。高齢者の家を訪ね困り事や要望を聞く。「スーパーが閉店し不便になったなどの声が多い」とその一人、小嶋亮平さん。生の声を基に小回りの利く支援サービスを提供するなど、迅速な対応が求められる。

(相川浩之)

[日本経済新聞夕刊2016年9月27日付]