あのNOVAのオーナーに 市職員が起業家となった理由NOVAホールディングス社長 稲吉正樹氏(上)

すでに契約していた物件の大家さんのところへ解約に行ったところ、保証金など数十万円を返してくれたうえ、「これで看板や机を買って、ここでやってごらん」といってくださいました。おかげで開業することができ、なんと1カ月で100人の生徒を集めることができました。

M&A支えたフランチャイズ

短期間で多くの生徒が集まったため、社会人アルバイトの先生4人が「FCでやらせてくれ」と言い出しました。断る理由もなかったので「どうぞ」と。すると、その人たちがどんどん校舎を増やしていってくれたのです。加盟金で直営校舎も増やすことができて、あれよあれよという間に200校になりました。

塾は人が資本の仕事なので、毎晩のように食事に行ったり、飲みに行ったりしていました。そのお金がもったいないと思っていたところ、ちょうどいい居酒屋の出物があったので、これを店舗ごと引き受け、外食業を手がけるようになりました。幸いその店が繁盛しまして、FCの人たちを連れて行くと「自分にもやらせてほしい」と。こうして外食事業もFCで拡大していきました。

外食の店舗も増えてきたころ、銀行経由で「後継者のいない居酒屋チェーンを引き継がないか」と打診がありました。これを買い取ったのがM&Aの最初です。2004年のことです。

それが非常にうまくいったので、いろいろな所からM&Aの声がかかるようになりました。結局、上場企業7社を含めて30社ほどを買収しました。買収資金なんてないので、非常に安い金額で承継する代わりに、有利子負債も引き継ぐという手法で、M&Aを繰り返しました。

M&Aが成功した理由のひとつはFC化にあります。私たちのビジネスはFCをコアにしています。FC加盟企業は自分の地域にいろいろな事業を展開することでドミナント(競争優位)化して商売をしています。そのころには、もともとの塾の加盟企業の皆さんが、そうした複数のFCを同時運営する「メガフランチャイジー」に成長していました。このため、M&Aで新しい事業が加わってくると、その地域の店舗を全部引き受けてやってもらえるようになっていたのです。

ピーク時は英会話教室と塾を含めた教育事業で約800校舎、外食でも約800店舗をグループで抱えるようになりました。

M&A案件は私自身が陣頭指揮を執ることで、新しく仲間となる買収側企業を尊重し、早々にグループ企業として役割を果たしてもらえるよう相互理解を深めることに注力しました。

一方、教育事業では、塾が全国に増えていくなか、新たな展開が課題となっていました。「次の教育ビジネスは何か」と考えたときに、思い当たったのが英会話でした。英会話教室がグループに入れば、全国の塾の加盟企業が取り組んでくれるのではないかと、そんな考えもありました。

そこで2006年に、「EC英会話」という北海道で圧倒的なシェアを持つチェーンをM&Aしました。全国展開していきたいと考え、関東や名古屋などに試験的に教室を開いてみましたが、生徒が集まりません。英会話はブランド力やスケールが必要だということを思い知らされました。

NOVAの経営破綻をニュースで知ったのはそんなとき、07年10月のことでした。

NOVA取得、破綻を知って即断即決

新聞記事で確認した保全管理人に連絡を取ったところ、翌日に会ってもらえることになりました。その夜一晩で、慣れないパワーポイントを使って自分なりにプランを一人でまとめました。翌日午前中に説明にうかがったところ、「これはいいね」ということになり、正味3日ほどで、ほぼ内定をいただくことができました。

その半年ほど前、旧NOVAのオーナーと業務提携を話していました。しかし、すでに旧NOVAの経営状況は悪く諦めました。ただ、その時に会社の内容を精査していましたので、破綻と聞き「であれば可能性があるのでは」と考えたのです。

金額は申し上げられませんが、事業譲渡としてはそれほど大きな案件ではありませんでした。譲渡条件として出されたのは2点でした。受講生に未受講の授業が残り債権となっていましたので、その範囲でレッスン料金を割り引いて提供すること。従業員をできるだけ再雇用すること。

割引レッスンについては、授業料の75%割引を提案しました。25%の根拠はそれが原価だと考えたからです。

原価を負担してもらえれば、未受講債権は徐々に正常化されて、受講者の一定数は通常の受講生になっていただけるのではないかと考えました。これにより、多くの受講生の実損は無くなったのではないかと思っています。

NOVAの事業譲渡にあたっては、当時の600校すべてを閉鎖した状態で引き継ぎました。教室を借りていた家主と交渉を進め、少しずつ再開していきました。

事業自体は半年でキャッシュフローは黒字になったので大変なことはありませんでした。しかし、翌08年9月、リーマン・ショックが起きます。これが結果として大きな要因となり、私は会社を売却することになります。

稲吉正樹氏(いなよし・まさき)
1969年生まれ、愛知県蒲郡市出身。92年愛知学院大学文学部卒、蒲郡市役所入庁。1994年退職、がんばる学園(現ジー・コミュニケーション)を創業、2007年NOVAを事業取得。09年ジー・コミュニケーションを売却、いなよしキャピタルパートナーズ(現NOVAホールディングス)を設立、10年NOVAを含む教育事業を買い戻す。現在グループ企業は海外子会社9社を含め17社。趣味はダイビング。

(平片均也)

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