小倉智昭が見た ポール・マッカートニーの素顔
小倉智昭のザ・ビートルズとっておき(4)
1970年、ポール・マッカートニーがザ・ビートルズからの「脱退宣言」をして、ビートルズは事実上解散する。解散後、ポールは個人として5度来日してツアーを敢行、その日本公演すべてにキャスター、小倉智昭さん(69)は足を運んでいる。学生時代にベースをやっていたのもポールに憧れたから。そして2013年11月、ついにポールの単独インタビューのチャンスをつかむ。「頭の中が真っ白になった」ほど緊張した小倉さんに対し、ポールは意外な一面を見せた。(聞き手は企業報道部次長 松本和佳)
――ビートルズは66年の来日公演が最初で最後となりました。
「それっきりよ。翌年にはもう公演をやらなくなって、すぐ解散しちゃった。さすがにショックでした。後でポールに曲作りについて聞いたのだけど、ビートルズは4人が集まって、『ね、ジョン、この曲どう思う』『いいね』なんて言いながら演奏してテープに録音して、曲ができちゃうんだって。その才能たるやすごい。だけど、得るものを得て、好きなことができるようになり、嗜好性が違っていって、女性問題も出てきたら当然、うまくいかなくなるよね」
「解散の理由はポールとジョンの仲が悪かった、ということが一番大きいでしょう。有名なグループが必ず通る道です。シカゴだとかローリング・ストーンズだとか何十年も続けているバンドはあっても、途中でメンバーが入れ替わっています。初期の生え抜きのまま40年、50年とやっている有名バンドはそうないでしょう」
――ポールの魅力はどこにあるのですか。
「ポールの魅力か……。当たり前だけど、作詞作曲の能力でしょうね。歌はなんていうのかなあ、哀愁がある。ハートがあるのよ。『僕は譜面は読めないよ』とかいいながらもピアノは弾く、ギターは弾く、オルガンだって何でもやるんだから。すばらしい才能だと思います。僕はポールが大好きだから公演は見逃さないよ。東京公演を4回やるなら全部チケットを買いますね。貴重ですもん。まあ、これで最後、と言われながら何度も来るんですけど(笑)」
「全日程に行くからいろんなことがわかる。たとえばポールは毎日、ステージの動き方もしゃべることも全部一緒。アドリブもありません。完璧にシナリオがあるようです。『日本が好き。日本にきて歌うのはハッピーになれる』とか、曲の合間にしゃべることも毎回同じ。完璧主義者なのかな」
――初のインタビューではどんな印象を受けましたか。
「13年11月の日本ツアーのときにフジテレビの『とくダネ!』で単独インタビューが許されました(詳細は動画参照)。大阪公演の前に時間をとってくれるって。すごくラッキーなことにリハーサルにもそっと入れてもらえることになり、ライブではやらない4~5曲を楽しそうに演奏しているポールを間近で見ました。ああ、これ、ライブで見たいな、と思ったよね。練習が終わった後がインタビューの時間でした」
「やる前から舞い上がってしまって。だって、インタビューが始まる前にプロデューサーが、『ポールが座るのはどこだ』『違うな。ソファの向きを少し変えて』などとダメ出しをする。『顔が左から撮れるアングルがいい』『そのライティングは明るいから、少し落として』とか、セッティングにうるさくて。やっとOKが出てポールを呼びに行ったのは一時間ほどたってから。何から聞いていいか困っちゃってさ。思わず『ほんとにもう大好きなんです』と言っちゃった」
――突っ込んだ質問ができましたか。
「勢いで、80年に成田空港で大麻の不法所持で逮捕されて入国できず公演が中止になったとき、『東京公演のチケットを全部持っていたんだよ』と言うと、『君は本当に僕のファンなんだね』だって。ジョンに対しては、『彼はいい曲を作るし、いいやつだったよ』と話すんだけど、もう熱い気持ちを持っていないんだなと感じましたね」
――インタビュー時の秘蔵写真をお持ちです。
「(ポールと小倉さんが並んで映っている写真をiPadで見せながら)すごいツーショットでしょ。僕が、『ベースを弾くんだよ』って言ったら、『じゃあ君もベースを弾く格好しなよ』と、2人でベースを弾いているポーズをして、ポールのカメラマンが写真を撮ってくれたの。後でメールで画像を送ってくれたのですが、しっかりクレジットの(C)が入っていましたよ(笑)。だから公開はできないです。ごめんなさい。ビートルズは世界一、著作権管理が厳しいからね。この写真は宝物です」
――昨年4月、ポールは49年ぶりに日本武道館でライブをしました。
「日本武道館と東京ドームであり、東京公演は4回全部見ました。東京ドームでは大画面を使ってショーアップして、演奏した曲も多かったんだけど、追加公演となった日本武道館はキャパシテーに限りがあって、そうした演出が難しく、曲も少なかった。でも、満足度では断然、日本武道館でした。ポールのノリも音もはるかに良かった。公演を聞けてよかったなあ、と涙が出ました。今でもみんながポールの公演に行きたがるのがすごい。僕だってまた来日したら、チケットが高くても必ず行きます」
「ロックでもジャズでもフュージョンでも、日本人ミュージシャンがどんどんうまくなっています。バンドをやっていた僕は、もはや、昔とったきねづか、なんて言えませんよ。でも、若い人は音楽をあまり聞き込んでいない気がする。音楽はいいよね。音楽がもう一度、力を持ってほしいな」
「小倉智昭のザ・ビートルズとっておき」は9月26日(月)から29日(木)まで4回シリーズで公開しました。(おわり)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。