フィンテック革命で日本株は復活する(藤田勉)日本戦略総合研究所社長

「フィンテック革命は『貯蓄から投資へ』の時代を後押しするだろう」

筆者は、今から33年前に証券界に入った。『これからは「貯蓄から投資へ」の時代がやってくる』と言われ、とても説得力があるように聞こえた。それは長年実現しなかったが、今度こそ「貯蓄から投資へ」の時代がやって来そうだ。1700兆円を超える個人金融資産が動き出すからである。それをもたらすのが、フィンテック革命だ。

金融と情報技術(IT)が融合するフィンテックは、人工知能(AI)革命の有力な構成分野の一つである。これにより、金融サービスが高度化し、便利になり、かつコストが下がることが期待される。

日本ではフィンテックの将来性がたいへん高い。その理由は個人金融資産の大部分が、現・預金のほか、保険・年金、債券などの安定資産に投資されているからだ。フィンテックというと、ブロックチェーン(分散型台帳技術)や決済に注目が集まるきらいがある。しかし、日本では、その主戦場が資産運用となろう。

フィンテック革命は3つの経路から日本株を復活させるだろう。第1に、リスクマネーが株式市場に向かうことを促進する。2014年の個人金融資産の利息・配当収入は13兆円であり、年間の運用利回り(値上がり益を除く)はわずか0.8%に過ぎない。

一方で、米国は株式と投資信託が個人金融資産全体の半分近くを占める。個人金融資産は約7000兆円(2016年3月末)、利息・配当収入は約360兆円なので、年間の運用利回りは5.3%と、日本に比べて圧倒的に高い。

金融機関が店頭で販売する投信や保険は、手数料が高いものが多い。購入時に元本の3%以上、そして、残高に応じて2%近い手数料を取る投信が一般的だ。これだと、10年間で元本の20%以上が金融事業者に支払われることになる。

つまり、投資対象が10年間で20%以上の収益を生まないと、投資家はもうからない。ちなみに、過去10年間の日経平均株価の騰落率はマイナス0.2%である(今年8月末時点)。つまり、配当を含めても年平均1%前後の投資収益率にすぎない。もうけの多く、あるいはそれ以上を手数料として取られるのであれば、貯蓄から投資へと資金が向かわないのは当然のことだ。

フィンテック時代には、スマートフォンやパソコンで投信を買うことが一般的になるだろう。AIを使って資産運用助言サービスを行う、ロボアドバイザーと上場投資信託(ETF)を組み合わせれば、わずかな経費で投資することが可能になる。コストが下がれば、その分、投資家の手取りは増える。つまり、投資家にとって、利便性が向上し、かつコストが劇的に下がるのである。これを実現すれば、投資家が潤って、リスクマネーが株式市場に大量に供給されることが期待される。

第2に、金融市場の活性化は日本の経済成長率を直接的に高める。仮に、個人金融資産約1700兆円の投資収益率が年1%向上すれば、年17兆円の所得が発生する。これは、日本の国内総生産(GDP)の3%以上になる。所得増は消費増につながることが期待される。

日本株の配当利回りは年2.0%、米国の30年国債利回りは2.2%、豪10年国債利回りは1.8%である(今年8月末時点)。ほぼ金利がゼロの定期預金からこれらにシフトすれば、利回りを1%引き上げることはそれほど難しくない。フィンテックで金融商品の投資コストが劇的に下がれば、大いに実現可能である。

第3に、事業会社の金融事業の利益が増えて、企業業績に貢献する。すでに、産業界から金融界へ進出が始まっており、イメージ以上にこれらの利益貢献度は大きい。

15年度の金融事業の営業利益は、トヨタ自動車が3392億円、日産自動車が2321億円、ホンダは1994億円、ソニーは1565億円と、大手金融機関に匹敵する規模の利益を上げている。ソニーに至っては利益の半分以上が金融によるものである。

直接、消費者に対峙する小売業も金融に強い。金融事業の営業利益は、楽天が639億円(営業利益から無形資産償却など一時費用を除いたNon―GAAPベース)、イオンは550億円、セブン&アイ・ホールディングスは497億円に達する。これらの業種では楽天EdyやWAON(ワオン)、nanacoといった電子マネーを軸に金融に近いサービスも浸透している。

ソニー銀行、セブン銀行とも01年設立と歴史は浅いが、すでに下位の地銀を上回る規模の利益を稼ぎ出している。このように、異業種からであっても、高いブランド力と強力な顧客基盤を持つ企業の金融業への参入は成功している。

フィンテックは金融と産業界の垣根を低くする効果を持つ。例えば、高度なAI技術を持つソフトバンクは、みずほ銀行とAIを活用して融資する会社を設立した。日立製作所は仮想通貨の開発で三菱UFJフィナンシャル・グループと協力する。このような事例はますます増えることだろう。

かつて、繁華街には必ずレコード販売店があった。しかし、規制に守られたレコード屋は自ら改革できず、米アップルのiTunesとiPodに駆逐された。本屋もアマゾンに浸食されつつある。同様に、タクシー業界を改革するのはウーバーテクノロジーズ(Uber)なのかもしれない。このように、規制に守られた業界が自らを改革することはたいへん難しい。

「競争なくして競争力なし」である。異業種からの参入があればこそ、既存の金融機関も生き残るために顧客本位のビジネスモデルを一層追求することだろう。結論として(1)リスクマネーの流入(2)国民所得増(3)事業会社の金融事業の利益増――を通じて、フィンテック革命は日本株を復活させるだろう。

藤田勉(ふじた・つとむ) 山一証券、メリルリンチを経て、現シティグループ証券顧問。2016年に日本戦略総合研究所社長。10年まで日経ヴェリタス人気アナリストランキング日本株ストラテジスト部門5年連続1位。慶應義塾大学「グローバル金融制度論」講師。SBI大学院大学教授。内閣官房経済部市場動向研究会委員、経済産業省企業価値研究会委員などを歴任。一橋大学大学院修了、経営法博士。1960年生まれ。
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