東京五輪後に必要なのは社会の変化に対応できる実力人材紹介会社・コンコードの渡辺秀和社長に聞く(3)

公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司

公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司
コンコードエグゼクティブグループの渡辺秀和社長
コンコードエグゼクティブグループの渡辺秀和社長

東京五輪・パラリンピック後の「post2020」時代は人工知能(AI)などの新技術が社会に大きな変化をもたらしている可能性がある。ファンドや外資系企業への転職に強みを持つ人材紹介会社、コンコードエグゼクティブグループ(東京・千代田)の渡辺秀和社長は社会の変化に対応して「いざとなれば転職できる」力が安定的なキャリア構築に必要だと説く。今回はこのポイントについて聞いてみた。(聞き手は公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司)

藤田 ビジネスリーダーの転職支援には社会の変化を読み解くための未来の予測も必要ですね。

渡辺 社会がどのようになっていくのかという大きな流れで未来を想定することは、キャリアコンサルタントにとって非常に重要です。相談者が転職に成功して目先の年収が増えても、10年後、全くやりたくない仕事をしている、あるいは仕事がなくなっているという状況になるならば、それは良いキャリアとはいえません。だからキャリアコンサルタントには未来を見据える長期的な視点が必要になります。例えば、AIやクラウドソーシングが進化すると人の働き方はどう変わるのかといった点に着目します。

企業の経費カットから変化も

藤田 過去には、経済の変動によって衰退する業界もあれば、逆に一気に台頭する業界もありました。リーマン・ショック後、金融業界が大きく落ち込む一方で、情報技術(IT)業界が成長しました。こうした変化は今後も起きるでしょうね。

渡辺 リーマン・ショック前は「いつかインターネット業界が来るぞ」と言われ続けていましたが、現実には徹夜で働いても年収300万円台といったベンチャー企業が多く、さすがに飛び込みにくい状況でした。しかし、リーマン・ショック後に景気が悪くなると、企業が広告費を節約するためネット広告のニーズが急拡大し、ネットベンチャーが一気に台頭しました。そして優秀な人材がネットベンチャーに集まるようになりました。高収入で知られるコンサルティング会社の在籍者を引き抜いていたほどです。2020年前後にも景気が悪くなると考えると、企業には切実な経費削減ニーズが高まるはずです。すると優秀な人材がそれまで手を出さなかった選択肢を模索する動きが出て、その結果、新たな技術やソリューション(解決策)が爆発的に普及する可能性もあります。

マンションの一室を利用して観光客を泊める民泊などの「シェアリングエコノミー」は2020年に向けて拡大が見込まれる(大阪市)

藤田 東京五輪前後の時期には、AIやIoT(モノのインターネット化)、シェアリングエコノミー、クラウドソーシングといった技術やソリューションが普及するのでしょうか。

渡辺 「来るぞ、来るぞ」と言われているこれらの技術やソリューションも企業のコストを大きく下げる効果がありますから、20年前後に不況が訪れるのであれば、それをきっかけに一気に変化が起きるかもしれません。そうなれば、優秀な人材もこうした業界に向かっていくと思われます。「危機や不況は社会を進化させる」面があります。

藤田 社会が一気に変化するのに対応して転職しようと考えた場合、大きな企業にいる方が有利でしょうか。

渡辺 「安定している」という理由で大企業を志望する学生はとても多いですね。ただ、そもそも大きな変化が起こるときに大企業の雇用は本当に維持されるのかという疑問があります。日本を代表する大手メーカーでも次々とリストラをしている時代なのです。また、AI、IoT、シェアリングエコノミーといった新しいソリューションが市場を席巻してしまうことも考えられますね。米アマゾン・ドット・コムの登場によって多くの書店が廃業に追い込まれました。フィンテック(金融とテクノロジーの融合)、シェアリングエコノミー、3Dプリンター、動画配信サービスなどによって、大手の銀行、メーカー、メディアなどが今までのような地位をいつまでも保てるのかは疑問が残ります。単に安定を求めるだけでは本当の安定は得られなくなる。もちろん小さな企業の雇用も安定はしません。結局、安定を求めて大企業に入ったとしても、小さな企業で頑張ろうとも、いざとなれば転職できるように力をつけて、備えておくことは必要不可欠といえるでしょう。

■大手からの転職は有利か

藤田 大手企業が持つブランド力は大手に勤めるビジネスリーダーが転職するときにも有効に見えますが、実際はどうでしょうか。

渡辺 もちろん企業のブランドは転職において効果があります。旧財閥系商社や大手投資銀行に勤めている人であれば優秀だろうといった感じで、ある程度は転職時の評価に有利に働く面はあります。しかし、気をつけなければいけないのは、ブランド力があるといえるのは「今この瞬間の話」であるということです。10年後も同様のブランド力があるとは限りません。

2020年前後に予想される社会の変化に対応したキャリア構築について聞く筆者

藤田 確かに昨今の状況を見るとブランド力は永続的なものではないとつくづく感じます。それは企業の安定性についても同様のことが言えますね。

渡辺 所属する企業に雇用の安定を求めるのは難しい時代になっています。むしろ転職市場をセーフティーネットと捉えて転職市場で評価される人間になることこそが、「安定」といえるのではないでしょうか。

藤田 転職市場で評価される人間とは具体的にはどのような人材でしょうか。

渡辺 明確な「売り」を持っている人ですね。一方、いろいろなことを少しずつできるゼネラリストは不利です。さらに「売り」を持っていても、それが今後、AIに取って代わられないものであることが求められます。そのため人間にできて、AIには難しい仕事とは何かを真剣に考えなければならない時代になったといえます。

藤田 人間にできてAIには難しい仕事とは何か。次回はこの点について詳しく伺いたいと思います。

わたなべ・ひでかず 一橋大商卒。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)戦略コンサル部門を経て、人材紹介会社のムービン・ストラテジック・キャリア(東京・中央)で5年連続ナンバーワンキャリアコンサルタントとして活躍。2008年にコンコードエグゼクティブグループを設立。ビズリーチ(東京・渋谷)が主催する「日本ヘッドハンター大賞2010」のコンサルティング部門で初代MVPを受賞。1000人超の相談者をコンサル業界やファンド、事業会社の幹部に転身させてきた。著書に「ビジネスエリートへのキャリア戦略」(ダイヤモンド社)がある。
ふじた・こうじ 公認会計士、税理士、心理カウンセラー。早大商卒。監査法人トーマツを経て日本経営心理士協会、FSG税理士事務所、FSGマネジメントを設立。経営コンサルティングと心理学を融合した経営心理学の普及活動を行い、企業の経営顧問、経営者のメンターを務める。主な著書に「リーダーのための経営心理学」(日本経済新聞出版社)がある。

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