国外財産や名義預金 税務署、把握に一段と厳しく

税務当局が国外所得や相続財産の申告漏れの把握に一段と力を入れている。申告義務があるのに国外所得・財産を隠す人が依然多いほか、親が子供などの口座を借用して預金し相続財産を減らす「名義預金」が目立つからだ。質問文書「お尋ね」の送付を増やしたり調査対象者への聴取を強化したりするなど、あの手この手を駆使する。税務署から指摘されやすい点や対処法を探った。

「国外財産調書の提出が必要だと思われるので出してほしい」。東京都に住む会社経営者Aさん(58)は、自宅に送られてきた税務署からの封書を読んで、はっとした。税務署に指摘されたとおり、調書の提出を怠っていたからだ。

国外財産調書とは、日本国外に多額の財産を持つ人に提出が義務付けられている書類(図A)。年末時点で円換算額が5000万円を超えていると、翌3月15日までに詳細を税務署に申し出なければならず、罰則規定もある。

国外にある預金や有価証券から生じる利子や配当、売却益といった所得は申告漏れが多く、2013年末分から導入された。国外取引をしていた人が指摘された申告漏れは、所得税全体の申告漏れの平均金額を大きく上回る(図B)。

金融機関が報告

Aさんが国外に多額の財産を保有することを、税務署はどうやって把握したのだろう。答えは簡単だ。Aさんが預金口座を開いている銀行が、取引記録を税務署に通知していたからだ。

1回当たり100万円を超える額を国外に送金するか、国外からの入金があると、その記録を金融機関は「国外送金等調書」の形にして税務署に送る。年間の提出件数は600万強。Aさんも数年間にわたり何度も高額の送金をしていた。

義務がありながら提出を怠る人には監視の目が厳しくなっている。気配を察知した税務署が最近よくとる手が「お尋ね」の送付だ。納税者に事実関係を確認するための文書で、Aさんが受け取ったのもこれだ。

公正な申告を促す意図が込められた任意の文書であり、返答義務がないために放置する人もいるという。しかし、「甘く考えると大変な目に遭うことがある」と、元特別国税調査官で税理士の岡田俊明氏は話す。

「回答しない場合、税務署が直ちに正式な税務調査に入るケースが目立つ」(岡田氏)というのだ。税務署員が家に出向くなどして進める税務調査は、いったん始まると、後でいくら自主的に修正申告をしようが原則、加算税を課される。

「国外送金等調書に基づいてお尋ねが作成されるのが最近の流れになっている」(元仙台国税局長の川田剛氏)。今年初めに「パナマ文書」をきっかけに各国で次々と明らかになった租税回避地を使った課税逃れの動き。目を光らせるのは日本も例外ではない。

国外財産と並び、「税務調査が一段と厳しくなっているのが相続関連」(ランドマーク税理士法人代表税理士の清田幸弘氏)だ。

「まるで被疑者として取り調べを受けているような気分だった」。千葉県に住む会社員Bさん(45)は今年5月に受けた税務調査の様子を打ち明ける。14年3月に父を亡くし、翌年1月に相続税の申告をした。

「名義預金がありますね」。税務署員はおもむろに聞いた。親が子どもらの名義口座を使ってためていた「名義預金」は本来、相続財産として申告しなければならない。税務署は預金口座の入出金の状況をさかのぼって調べ、痕跡を探す。

ただ資金の移動が現金によるものであったりすると決め手に欠く。そこで最近目立つのが相続した子どもに「証言」させる手。例えば「私名義の口座の存在自体知らなかった」などと語ってもらう。名義人自身が知らなかったのなら、それは名義預金に他ならない。

目立つ「現預金」

証言記録は「質問応答記録書」という。以前は「聴取書」といわれ、仮装や隠蔽に対して重加算税を課す目的でとる手立てだったが、「最近はさほど悪質とは思えない案件にも広がっている」と相続税に詳しい阿保秋声税理士は言う。

Bさんのケースも同様。口座の存在や入金の事実を知らず、取引印は親が自身の口座用に使っていたのと同一だった。Bさんは記録書への署名・押印を求められた。「強引ともいえる調べ方が今後広がるのでは」とみる税理士は多い。

過去に申告漏れの対象になった相続財産の内訳を見ると「現預金」が目立つ(図C)。多くは名義預金とみられる。15年から相続税の基礎控除が大幅縮小され、課税対象者が広がったことで名義預金は富裕層だけの問題ではなくなっている。15年以降に起きた相続で税務調査が入るとすると「早ければ年内から」(税理士の藤曲武美氏)だ。

相続税関連で税務署が重点的に調べる内容を図Dに示した。例えば預貯金の相続額を正確に申告しない場合。死亡時点の残高を書く必要があるが、生前の入院費や葬祭費を親の口座から支払い、その後の残高を申告するケースが多い。

死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を超える部分を申告せずに指摘されることもある。自宅敷地の評価額を80%減らせる小規模宅地の特例について条件を満たしていない例も目立つという。(M&I編集長 後藤直久)

[日本経済新聞朝刊2016年9月21日付]

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