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ダムで心デトックス 人を圧する量感、放水で浄化

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NIKKEI STYLE

「ダム」人気が水かさを増している。ヒューマンスケールをはるかに超える物量感で人を圧倒するダム。河川国で地震国でもある日本が誇る土木ノウハウを注ぎ込んだ建築物だけに、ダムはインフラ技術の証しとも言える。国内の主だった86基を紹介した『ダムに行こう!』(学研プラス刊)の著者であるダムライターの萩原雅紀さんにダムが人を引きつける理由やダム見学で得られる発見などを教わった。

◆    ◆    ◆

「巨大な構造物が山や湖といった景色の中にいきなり出現するところにダムの非日常的なおもしろさがある」。萩原さんはダムが自然と人工の境界をなしてそびえ立つ「意外感」を見てほしいと言う。天然の湖水をせき止めるような形で建設されるダムは、荒ぶる自然に立ち向かい、その脅威とどうにか折り合いをつけようと試みる人間の営みを象徴する。ゆるやかな円弧を描いて水を背負うアーチ式ダムの姿には、ギリシャ神話で天空を支える巨神アトラスを思い起こさせるような健気さと力感がある。

見どころ多い黒部ダム

初心者が見学デビューするうえでの萩原さんのおすすめは、日本最大級のアーチ式ダムである黒部ダム(富山県立山町)。夏場には毎年恒例の「観光放水」が10月半ばまで毎日実施されている。高さ186メートル、幅492メートルの壁面から毎秒10~15トンの水が噴き出す光景は圧巻で、大量の水しぶきと一緒に気持ちまで洗い流されるようなカタルシスを味わえる。「壮大なスペクタクルに清められるかのようなレア体験が待っている」(萩原さん)。運がよければ、放水にかかる虹にもお目にかかれる。

規模が大きいダムは「初めて行っても感動が大きい」(萩原さん)。東日本大震災の後、再生可能エネルギーへの関心が一段と高まったが、水力発電は太陽光や風力に比べて発電量が桁違いに大きいうえ、効率が高い。あらかじめ貯めておいた水を下に落とすことで発電できるので、必要なタイミングで素早く電気を起こせる。太陽光や風力ではこうはいかない。併設の見学者向け施設で水力発電システムを解説しているダムもある。こういった水力発電の仕組みを体感的につかめるのもダムを訪ねるメリットと言える。

アーチが物語る英知

建築物としてのダムの見どころは、「ダムが単独で存在しているのではなく、周囲の自然と共存しているところ」にあるという。たとえば黒部のようなアーチ式の場合、ダムの両翼にある岩盤と互いに支え合うかのように設計されていて、実際に負荷を分散している。つまり、ダムが無言のうちに体現しているのは、自然や災害とわたりあう人間の知恵なのだ。建築に詳しくない人でも初めて見たダムに息を呑む理由は、直感的にその成り立ちを理解するからかも知れない。

>>「総合1位」は神奈川県のあのダム

岩手県北上川の湯田ダム (c)萩原雅紀

「大きさや迫力、アクセスや見学のしやすさなど、魅力面で各ダムごとにレーダーチャートを作ったとしたら、総合的に1位に輝くのはこのダムだと思う」と、本書のなかで賛辞を贈られているのが、神奈川県の宮ヶ瀬ダム。萩原さんが本格的に興味を持つきっかけともなったダムだ。6分間の観光放流が4~11月の毎週水曜、毎月第2日曜、第2・第4金曜に実施されていて、ダイナミックな人工瀑布に出合える。最寄り駅からバスで行けるので、思い立ったら出掛けられる。近くにキャンプ場やマス釣り場があり、ハイキング気分で訪ねやすい。

コロラド川をせき止め、1936年に完成したフーバーダム(米国)のように、欧米では早くからダム建設が相次ぎ、工法も進歩した。一方、日本でダム建設のノウハウが独自に積み上がった背景としてはやはり地震が大きいようだ。膨大な水圧を支えるダムは極めて高度な耐震性を求められる。地震国というやっかいな事情はダムづくりの技術を練り上げていくうえではプラスに働いたところもあり、今では日本発のダム技術はインフラ輸出の一翼を担うようにもなっている。

日本の風土とせめぎあい

都市部に暮らしていると、普段はあまり意識しないダムだが、夏の渇水期には水不足懸念のニュースでは貯水量が目安とされる。実際、今年は利根川水系の8ダムで6月から異例の取水制限が実施された。ダム見学は私たちのライフラインの筆頭に挙げられる水をダムが安定的に支えていることも再確認させてくれる。ドライブで向かえば山がちな日本の地形や、豊かな森林資源のありがたみも行き帰りの道すがら感じ取れるはずだ。

堤防決壊を引き起こした、2015年の鬼怒川水害が示すように、日本はもともと「暴れ川」に苦しめられてきた。多くのダムは防災上でも重要な役割を果たしてきた。ゲリラ豪雨が日常化しつつある中、「もしダムがなかったら、水害は今の程度ではとても済まないはず」(萩原さん)。両岸の河川敷がやたらと広い場所は過去に増水して川幅がそこまで広がった事実を示す。そういった流域では防災上の目的からダムが建設されてきた。だから、ダムを見ると、その土地の成り立ちにも理解が深まる。併設の来場者向け解説施設ではダム建設の狙いや効果なども丁寧に説明しているところが多い。一時期、「コンクリートから人へ」が叫ばれたが、萩原さんは「コンクリートが人を守っている実例がダムだ」と見る。

紅葉や温泉とワンセットに

秋からの季節に訪れたいのは、紅葉が楽しめるダムだ。長野県の高瀬ダムは黒部ダムに次ぐ国内第2位の高さ176メートルという偉容を誇る水力発電ダムだ。こちらは自然の石を城の石垣のように積み上げたロックフィルダムで、工法の違いも見どころ。紅葉の名所とされる高瀬渓谷にあって、ダム堤の上からは燃え上がるようなモミジを見渡せる。近くには葛温泉があり、「ダム、紅葉、温泉」を一度に楽しめる。

交通で注意したいのは、黒部も高瀬も自家用車で直接乗りつけるわけにはいかない点だ。環境保護の立場から、マイカー乗り入れは近くの駐車場までとなっていて、その先はトロリーバスやタクシーを使うことになる。山の気候は変わりやすいので、羽織り物や雨具は欠かせない。巨大なダム内では結構歩くから、履き慣れた疲れにくい靴を選びたい。冬季に閉鎖するダムが多く、観光シーズンは夏場に偏る。紅葉の後はじっくり来夏のプランを練るのに充てよう。

ダム巡りの新たな楽しみが「ダムカード」の登場だ。表面には各ダムの写真、裏面には基本情報や特徴が印刷されている。主要なダムで見学者に配布している(すべてではない)。実は萩原さんは「ダムカード」の実質的な発案者。実現にあたっても提案を重ね、「実際に行った人しかもらえないという点だけは強く求めた」という。このこだわりが生きて、各地のダムを巡るブームが生まれ、愛好者同士のつながりも広がった。特別な許可を得て、ダム内の巨大空洞を教会に見立てて、結婚式を執り行ったダム好きカップルもいたそうだ。

>>ダム訪問とあわせて楽しみたいこととは…

 雄々しいイメージや土木工学のムードがあるダムは男性に好まれるスポットと思われがちだが、ブームの広がりもあって、近頃では「訪問者の割合は男性6対女性4ぐらいになっていて、半々に近づいた」(萩原さん)。カップルで訪れたり、親子連れでドライブに来たりする人が増えてきた。DVDが付属する本書は主要なダムをカバーしていて、写真付きガイドブックとして行き先選びの手がかりになる。写真家の庄嶋與志秀さんが撮ったドローンからの空撮もダムデビューに誘う。

子どもに見せたい「土木力」

親子で行けば、「家族版社会科見学」の気分も味わえる。「ぜひ小さい子どもに見てほしい」と萩原さんが言うのには訳がある。萩原さん自身が幼い頃に家族で見に行った東京・奥多摩の小河内(おごうち)ダムで初めてダムと出会ったときの驚きやワクワク感が心に残っているからだ。「日常空間では存在し得ないボリュームのダムは子ども心に訴えかける力が強い」(萩原さん)。グローバルなインフラ需要を背景に、未来の礎となるビジネスとして期待を集める今、将来のインフラ人材が育ってほしいという思いもあるようだ。

大人になってから、実際に全国各地のダムを訪ね回って気づいたのは、ダムの近くには素敵な温泉宿やおいしい地元料理があるということだった。今もダム巡りを続ける萩原さんだが、その態度は求道者的ではなく、むしろダム訪問前後の「寄り道」を楽しむかのようだ。

大勢のダム好きを応援してきた萩原さんは「あまり構えないで『ドライブついで』から始めてみては」と提案する。お気に入りを見付けに行くような感覚で2、3カ所に足を運べば、興味を持つきっかけになりやすいという。何の準備もなしでふらりと訪れても構わないが、事前に土地柄や工法などについてちょっとだけ下調べをしておけば、ダムの見方が深まる。

プロが教える「眺め方」

最初に行ったときは、水を貯めた堤の上から水面を眺める人が多いが、萩原さんの提案は逆。放水口があるダム本体を見上げるようなアングルからの出合いをすすめる。ダムを目の前にした瞬間に、「人間はこんな壮大な構造物を作り上げることができるんだ」という、無条件の感動に浸りやすいからだ。

構造物の高さだけで言えば、もっと上の超高層ビルもあるが、山や川とせめぎ合うようにして、全身で水圧を受け止めるダムの無骨でまっすぐな立ち姿は「守ってくれている」「頼りになる」といった気持ちまで呼び覚ます。「土木、すごい」「どうやってつくったんだ」という畏敬の念も自然とわく。ダムに限らず、非日常の体験が待つ「旅」は私たちの「当たり前」を揺さぶり、新たな選択肢や考え方に導く。そんな旅の「おみやげ」は目に見えないが、私たちを丸ごと書き換えるような力を秘めている。

萩原雅紀(はぎわら・まさき) ダムライター、ダム写真家。1974年東京都生まれ。偶然たどり着いた宮ヶ瀬ダム(神奈川県)の崇高な姿に魅了されてダムに目覚め、以後ライフワークとして「ダムめぐり」を続けている。これまでに訪れたダムは国内外合わせて500カ所以上。2007年に配布が始まったダムカードの発案にも関わった。近年ではダムをテーマにした講演やイベントの開催、メディアでの連載・出演など、ダムの魅力を一般に広める活動を積極的に行う。毎年末に「日本ダムアワード」も主宰。著書に『ダム』『ダム2』『車両基地』『車両基地II』など。

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