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ダイバーシティ、俺が旗振る 男性だから見える現状と課題

2016/9/24

 企業のダイバーシティ(多様性)推進は「女性活躍」の観点から女性社員が担当するケースが多い。ただ、最近では男性社員がダイバーシティ担当に就く事例も目立ちつつある。男性だからこそ見えてくる女性登用の現状や課題とは何か、それぞれの思いを聞いた。

■住友林業、吉川恵祐さん

住友林業の吉川恵祐さん

 「ダイバーシティを担当することに違和感はなかった」と話すのは住友林業の人事部働き方支援室チームマネージャーの吉川恵祐さん(46)。それでも女性登用に関する知識は「最低限しかなかった」。

 男性中心の印象が強い住宅業界で社内のダイバーシティ推進を担当する人事部働き方支援室に異動したのは3年前。女性登用をはじめ、障害者雇用など多様な働き方をサポートする。

男性職場は卒業、人材の橋渡し

 2013年に社内で実施した意識調査で管理職になることを「望まない」「あまり望まない」と答えた女性が7割を占めたことに衝撃を受け、女性社員の意識改革を決意。16年度からメンター制度を始めた。女性管理職から希望者を募り、部長クラスの男性がメンターとして毎月指導する。

 一方、産休や育休について定めた「育児関連制度ガイドブック」は取得予定の社員だけでなく直属上司にも渡し啓発。いまでは女性社員が男性上司に気兼ねなく相談する。

 それでも課題は残る。例えば長時間労働の解消。女性が働きやすいシステムをつくるには男性社員の理解が欠かせないが、労働負担のシェアなど「頭では理解できても本音は違う」こともある。「男性社員も気軽に相談できる雰囲気づくりが欠かせない」と語る。

 ダイバーシティ担当者の情報交換会に年2回参加するが「はじめは女性が圧倒的に多くて気後れした」。今後は在宅勤務の奨励や小学校6年生までの子供がいるなどの要件を満たす社員を対象とした週休3日制の促進などを進めていく。

■AIGビジネス・パートナーズ 蓮見勇太さん

AIGビジネス・パートナーズの蓮見勇太さん

 AIGビジネス・パートナーズ人事部の蓮見勇太さんが、グループ全社のダイバーシティに推進責任者として携わるきっかけとなったのは、2008年に新卒で入社した航空会社での経験がある。乗務員として入社した女性はずっと客室部で働き、活躍の場を広げることができない点に疑問を抱いた。人事部で空港支店マネジャーに初めて女性が就任する人事に関わった後、大学院でダイバーシティマネジメントを学び、AIG社に入社した。

「女性だけの問題」覆す

 一貫して取り組むのは意識改革だ。優秀な女性社員を育てるには男性上司の理解が必須。だが、中高年の男性を中心に、女性活躍は女性だけの問題という意識が根強い。「『自分の娘さんが就職するときに、今のような会社のあり方でいいんですか?』と問いかけると、はっとする人が多い」

 意識を改めるには、男性のダイバーシティ担当者が旗を振る方が「女性だけの話ではないというメッセージがクリアに伝わる」。一方、女性社員から「あなたのポジションは本来女性が就く場所。あなたは1人分の活躍の場を奪っている」と言われた経験もある。「女性管理職の比率など数値目標の達成だけに縛られた一方的な接し方をしてはいけない」と戒める。

 意識改革の成果は徐々に実を結びつつある。社内には、女性活躍やLGBT(性的少数者)などについて課題を提案したりイベントを開いたりする従業員グループが自発的に生まれ、今では全社員の1割が所属する。最近はそうしたグループからの「熊本地震で被災した家屋の査定には、細やかな気遣いのできる女性社員を活用してはどうか」といった提案が実現する例が増えてきた。「ダイバーシティはビジネスのメリットになる」と自信を見せる。

■オンワード樫山 木暮智さん

オンワード樫山の木暮智さん

 オンワード樫山がダイバーシティー推進課を立ち上げたのは2014年。初代課長に選ばれた木暮智さん(56)にとっては青天のへきれきの人事だった。入社以来30年以上営業や広告を手掛けてきた。「当初は『ダイバーシティ』という言葉自体を知らなかった」

 いざ就任してみると、課題は山積みだった。数々の女性向けブランドを手掛けるオンワード樫山は従業員の女性比率が8割を超える。だが、結婚・出産を機にやめる社員が多く、女性社員の勤続年数は男性社員の65%程度しかなかった。

 出産後の女性社員の職場復帰を促すために、出産前の女性社員を対象に「プレママ研修」を開始。保育園選びのポイントや保活スケジュールなどを伝授する実践的な研修だ。実際に3児の育児経験のある女性が中心となって作成した。

残業部署から正面突破狙う

 だが、女性だけの取り組みでは不十分だ。女性活躍という言葉が先行し「特に中高年の男性は疎外されているような印象を受けがち」。復職を本格的に支援するためには、男性を含めた全社員の働き方改革が不可欠。残業の多い部署に直接面談し、課題を抽出。上司が部下の業務の進行を把握し無駄な残業を減らすことで効率的な働き方を促進した。4月から全事業所で夜8時の閉館に取り組む。

 人材の多様化は企業の競争力を高めるための手段。「権利を行使する女性社員は、義務もこなさないといけない」といい、女性ではないからこそ客観的な立場で女性社員に指摘ができるという。「長年アメリカンフットボールの企業チームでコーチや監督をこなしたマネジメント力が役立っている」と笑う。

■人材の多様化、国際的な競争力向上に

 ダイバーシティ推進役というと女性の役職という印象が強かった。だが「女性が女性のために制度を整える、という形では男性社員を巻き込めない」ということに気づいた企業は、男性のダイバーシティ推進役を増やしつつある。これまで、「女性活躍推進は女性の問題」という意識が強かった男性社員の考えを変えるのに一役買っている。

 背景には、人材の多様化を国際的な競争力向上に生かしたいという企業の狙いがある。経済産業省は多様な人材の活用を経営課題として捉える「ダイバーシティ2.0」を掲げ、企業の競争力強化に女性の力を生かそうという動きを強めている。

(山本紗世、鶴藤理沙)

〔日本経済新聞朝刊2016年9月24日付〕

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