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株価下支え 日銀のETF購入を生かす

2016/9/25

 日銀による上場投資信託(ETF)の買い入れに注目が集まっている。7月29日に買い入れ額をこれまでの2倍近い年6兆円に拡大すると決定。株式相場への影響が一段と大きくなるとみられているためだ。巨額のETF購入は株価を押し上げる要因となるが、副作用もある。個人投資家が運用成績を向上させるために知っておくべき仕組みや注意すべきポイントをまとめた。

 「日銀の買い支え効果だな」。9月7日の取引終了後、市場関係者からはこんな声が漏れた。外国為替市場で円高・ドル安が進んだこの日、日経平均株価は朝方、200円近く下げた。だが、その後は持ち直し、終値では1万7000円を維持。相場の底堅さを印象づけた。

 この日に日銀が買い入れたETFは700億円超。年6兆円の買い入れ額は、この約80回分に相当する。外国人投資家による日本株の売越額は年初から8月までで約5兆円。「日銀の買いで外国人の売りを相殺できる」(T&Dアセットマネジメントの神谷尚志チーフ・エコノミスト)との声も聞かれる。

■利益確定はせず

 日銀がETFを購入するのは株式市場に資金を供給して、企業活動を活性化させるため。その結果、賃金が上昇するなどして消費者にお金が回り、ひいては物価の上昇につなげようという狙いだ。

 ETF購入は個別銘柄を広く買うのと同じ効果がある。日銀は信託銀行を通じて証券会社に注文を出す。証券会社は市場に流通するETFを取引したり、運用会社はETFを組成したりする。その結果、ETFはもちろん、ETFが連動する指数に組み込まれた個別株の上昇圧力となる。

 東海東京調査センターの鈴木誠一シニアマーケットアナリストは「巨額の買い手がいる分、投資家は値上がりの恩恵を受けやすい」と指摘する。通常の株の取引では、値上がりすれば利益確定の売りが出る。ところが日銀は買い一辺倒で、利益確定の売りを出さないためだ。

 基本的な投資戦略として鈴木氏が挙げるのが「日銀が買うのと同じ指数に連動したETFを購入すること」だ。日銀は購入するタイミングを事前に明らかにはしないが、確実に年6兆円分を買う。個人投資家が時期を分散するなどして購入すれば、値下がりのリスクを抑えた運用ができる。

 買い入れの対象となるETFは主に東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価、JPX日経インデックス400に連動するもの。そのほか「設備投資や人材投資に積極的な企業で構成されたETF(賃上げETF)」を買う枠もある。こうした指数に連動する投資信託やETFは個人でも購入できる。

 ETFの組み入れ対象となった個別株も手堅い投資先といえるかもしれない。例えばトヨタ自動車やNTTといった銘柄はTOPIXのほか日経平均、JPX400、さらには複数の賃上げETFにも組み入れられている。その分、日銀の買い入れが株価に追い風となりやすい。

■高値づかみ懸念

 もっとも個別株への投資では、高値づかみに注意が必要だ。ETF購入を通じた買いは、個別銘柄の業績や指標面での割安感などと関係なく発生する面がある。結果的に株価の形成に歪(ゆが)みが出やすくなり、「株価収益率(PER)などの指標面で説明できない水準まで株価が上昇した銘柄も散見される」とニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストは指摘する。

 企業の実力と株価が大きく乖離(かいり)した銘柄は、急落するリスクが高まる。割高な水準にある銘柄に手を出さないことはもちろん、保有株が上昇したら「長期保有を前提にした銘柄でも、利益確定を積極的に検討すべきだ」と大和証券の石黒英之シニアストラテジストは助言する。

 日銀は2010年12月にETFの購入を始め、徐々にその額を増やしてきた。当初は年4500億円だったのが段階的に増え、年6兆円にまで拡大した。現在、保有するETFは簿価で9兆円に達する。これまで日銀はETFを売ったことはないが、いつかは市場に放出する。当面は気にする必要はなさそうだが、頭の片隅にはとどめておきたい。(福井環)

[日本経済新聞朝刊2016年9月17日付]

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