相続・税金

税務署は見ている

税理士に求められる「調査官目線」

2016/9/20

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 先日、税理士の認定研修である「書面添付フォーラム2016」という勉強会に参加してきました。研修後の懇親会は、誰もが一度は泊まってみたいと思うすてきなホテルが会場でした。その際、お隣の席になった女性の税理士Aさんと名刺交換をさせていただいてからの対話を再現してみましょう。

A税理士:飯田先生って、元国税だったんですね。
飯田:はい。
A税理士:じゃあ、今日、登壇されていた大阪国税局の方はご存じなんですか?
飯田:いえいえ、私は、現場の一調査官やったんで、本店の方は、あまり知らないんです。
A税理士:本店って国税局のことなんですね。お話された方、今の役職に就くまでは資料調査課にいたって言われてましたよね。
飯田:そうですね。
A税理士:「リョウチョウ」っていうんですか?
飯田:大阪国税局管内では資料調査課のことを「リョウチョウ」って呼んでるんですね。資料の「料」と調査の「調」をとって「リョウチョウ」。そやけど、東京国税局管内では「料」という漢字のヘンの部分だけをとって「コメ」って呼んでるみたいですよ。
A税理士:国税の業界って、隠語とか略語が多いですよね。前に会計事務所に勤めていたとき、調査官と事務所の大先生の話を聞いてても、わからない言葉がいっぱい飛び交ってました。
飯田:今日のお話は「書面添付」について、国税当局がどんなふうに考えているのか、わかりやすくお話されて、よかったですよね。
A税理士:う~ん、私としてはもうちょっと突っ込んだお話をお聞きしたかったなあって思いました。
飯田:もうちょっと突っ込んだ???
A税理士:実は私、独立してからお客様のところに税務調査に来られたことがないんです。
飯田:へ~、それって、いいことですやん。
A税理士:でも、いざ税務調査に来られたらどうしたらいいのかわからなくて、ちょっと不安なんです。
飯田:なるほどね~。
A税理士:前の先生から教えてもらって、できるだけお客さんには「書面添付」をお願いしてるんです。
飯田:それはいいことですよね。後半でお話された税理士さんが、これから「書面添付」をしていれば、金融機関の見方も変わってくるって話もされてましたもんね。

 皆さんご承知のように、税理士は国家資格です。このコラムを読んでくださっている方の中には、税理士の方や経営者の方のほかに、会社員や主婦の方で通信教育などで資格取得を目指して勉強されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 私は以前、税理士を目指して勉強中の方が読まれている月刊誌にコラムを連載していたことがあります。その本の読者は女性が多く、編集担当の方も女性でした。いま、女性の職業として税理士は注目されているのだなあと実感しています。

 女性の税理士さんは真面目な方が多く、男性の経営者からすると融通が利かないので困るという声も聞きますが、税理士はきちっとしたことが得意な女性にはピッタリな仕事なのだろうと私は思っています。

 税理士試験は毎年1回、夏真っ盛りの8月に試験が行われます。試験科目は5科目。そのうち簿記論と財務諸表論は必須となっています。税法科目は所得税法と法人税法は必須ですが、後は選択できることになっています。

 税理士試験は難関ですが、一度に5科目合格しなければならないわけではありません。毎年1科目ずつ受験することも可能なので、計画的にコツコツ勉強するのが得意な方は取得しやすいのかなと思います。

 実は、税理士は資格を取りさえすれば開業できる仕組みにはなっていません。まずは、税理士会に登録しなければなりません。そして、毎年改正される税法に対応できるように、常に研修を受ける姿勢で、学び続けなければならないのです。

 「書面添付」とは「税理士法第33条の2」に定められている制度で、簡単にいえば、顧問契約をしている企業の申告内容について税理士が書面を添えて太鼓判を押すことを指します。「私が顧問契約をしている経営者はこんな業種で、こんな考えで、こんなふうな仕組みで事業を行っているんですよ」ということを数字だけでなく、文書で補足するのです。まずは、お客様である、経営者との信頼関係を築くところから始める必要があるでしょう。

 国税当局は書面添付がなされている場合、「税理士がここまで細かくチェックしてくれているのであれば、税務調査に行かなくても大丈夫だろう」という判断を下す場合があります。顧問税理士が調査官の視点で経営者のことを見れば、「書面添付」の内容を詳細に書くことができるのだと思います。

 けれども、書き方がわからない、添付しても税務調査に来られるのではないか、書いた内容と違うことを納税者がやっていたら自分が責任を問われるのではないかなど、様々な要因からあまり浸透していないようです。

 税理士の本来の仕事については、税理士法の第1条にうたわれています。

税理士法第1条(税理士の使命)
 税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。

 このことを踏まえ、これから税理士を目指す方や、あまり税務調査の経験のない税理士さんは、調査官目線を養い、ご自分の顧問先が税務調査に入られにくい企業になるように尽力していただければと思っています。

飯田真弓(いいだ・まゆみ) 税理士。産業カウンセラー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生。26年間国税調査官として7カ所の税務署でのべ700件に及ぶ税務調査に従事。在職中に心理学を学び認定心理士の資格を取得。2008年に退職し12年(社)日本マインドヘルス協会(http://jamha.org/)を設立し代表理事に。税務調査とメンタルヘルス研修という切り口で、企業が活性化する研修を全国で開催し好評を得ている。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』(ともに日本経済新聞出版社)。

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