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ドライヤーで髪は傷まない パナ、「ナノケア」の技

日経トレンディネット

2016/10/10

パナソニックが2016年9月1日に発売したナノケアシリーズの最上位モデル「ナノケア EH-NA98」。予想実勢価格は2万2000円前後
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いよいよ、パナソニックも本気を出したか? 2016年7月26日に、パナソニックがヘアドライヤー「ナノケアシリーズ」のプレス向け説明会を実施した。滋賀県草津市にあるパナソニック アプライアンスの開発拠点を見学し、パナソニックの「ヘアケア」にかける意気込みや、ナノケアシリーズについて聞いた。

パナソニックは、1991年に設立された松下電工(当時)の研究所で美容研究を開始。設立当初から肌や毛髪、ひげ、オーラル、水、空気などを研究し、ビューティ・リビング事業部に技術提案をしているという。

パナソニック 技術本部 ホームアプライアンス開発センターの鼻戸由美氏

パナソニック 技術本部 ホームアプライアンス開発センターの鼻戸由美氏は、研究所の活動について、「昔、ヘアドライヤーは髪の毛を乾燥させるためだけの商品でした。しかし話を聞くと、『髪質を改善したい』というニーズが非常に高いことが分かりました。毛髪に潤いやツヤを与える、まとまりをよくする、指通りを向上させるなどのニーズがあります。そこで毛髪や頭皮、毛根などの特性や物性を研究したり、プロのスタイリストの技術を研究したり、モニターに来てもらってユーザー調査を行っています」と語る。

ドライヤーの開発は、スタイリング重視から“傷んだ髪を何とかしたい”というヘアケア重視に方向転換。2001年発売の「マイナスイオンドライヤー」に始まり、2005年には「ナノイー」を搭載する現在のスタイルが始まった。ナノケアシリーズは現在累計700万台を数えているという。

5000円程度のヘアドライヤーが大半を占めるなかで、ナノケアシリーズのフラッグシップモデルは実勢価格で2万円を超える高額製品だ。にもかかわらず、「ナノケアシリーズのフラッグシップモデルは、2014年10月から21カ月連続で販売台数シェアトップを続けています」と、パナソニック ビューティ・リビング事業部 商品企画部 スタイラ・アイロン商品企画課の清藤美里氏は話す。

■毛髪の徹底的な研究が製品開発につながる

開発センターでの説明会は、毛髪の成り立ちについて教わることから始まった。毛髪は外側からキューティクル(毛小皮)、コルテックス(毛皮質)、メデュラ(毛髄質)という3層構造になっているという。「海苔巻きの海苔がキューティクルで、ご飯がコルテックス、具がメデュラといった感じです」(鼻戸氏)。

パナソニック ビューティ・リビング事業部 商品企画部 スタイラ・アイロン商品企画課の清藤美里氏

日本人の場合、毛髪の直径は60~80μm程度で、キューティクルは4~8枚程度がうろこ状に重なっている。キューティクル同士は「CMC(細胞膜複合体:キューティクル同士を接着する役割を持つ)」によってくっついているが、すき間があってそこから水やコンディショナー成分が出入りする。

毛髪に関するこれまでの研究には、2005年に発表した「ナノイー」を筆頭に、2009年には髪の表面をコートしてUV(紫外線)ケアするプラチナマイナスイオンの効果、2010年にはミネラルの髪への効果、2013年にはナノイーの酸性アップによる肌への効果、2014年にはナノイー発生量の制御による髪ボリュームの効果などが挙げられる。

そのうちの1つの事例として、鼻戸氏は「ミネラルの髪への効果の研究」について説明した。

「年を取ると髪にツヤがなくなり、パサつく」と悩む人も多いだろう。これはキューティクルが浮いて密着性が落ちてしまうことが原因として挙げられるという。

「毛髪に含まれる微量元素を分析したところ、キューティクルには亜鉛が多く、加齢とともに減っていくことが分かりました。これが密着性に関連するのではと予測を立てたのです」(鼻戸氏)

そこでミネラルの一種である亜鉛を髪に付着させたらどうなるのかを確認するために、兵庫県にある大型放射光施設「SPring-8(スプリング8)」を利用。これは、理化学研究所が運営し、国内外の産・学・官の研究者などに開かれた共同利用施設だ。

「毛髪に高性能なX線を当ててキューティクル間の距離を計測しました。亜鉛があるものとないもので2%ほど距離が違い、亜鉛がCMCのキューティクル同士の密着性に関係があることが分かりました」(鼻戸氏)

亜鉛というと、味覚の正常化、抗酸化作用、免疫力の向上、生殖機能の発育・維持などに効果があると言われている。特に男性の場合は生殖機能への影響のイメージを持っている人が多いかもしれない。しかし、ヘアケアにもかなり重要な役割を担っているようだ。

■世界中の毛髪サンプルを利用してさまざまな試験を実施

続いて研究所内を見学した。こちらには主に毛髪の手触りやツヤ、硬さ、キューティクルの状態などを観察する装置がある。隣にはモニタールームがあり、ユーザーが実際に来て試作品を使って評価することも行っている。

髪の毛のなめらかさ(摩擦抵抗)を計測する「摩擦感テスター」
「毛の束だとセットの仕方によって値が変わるので、このように0.2mm間隔で髪の毛を並べたサンプルを作ります」(鼻戸氏)

表面が人の指のような感触の素材を髪の毛のサンプルの上にセットする
それを根元から毛先の方向に引きずることで髪の毛の摩擦を計測する

こちらは毛髪の柔らかさや弾力性を1本単位で計測する「1本曲げ試験機」
髪の毛を1本セットして計測する。毛によって硬さが異なるので、100本、1000本とサンプルを計測して平均するという。「欧州人は非常に柔らかく、日本人は硬いというのが数字で出てきます」(鼻戸氏)

ほかに、毛髪のハリやコシを計測する「ねじり試験機」や毛の束のツヤを計測する「つや試験機」、毛の束の曲げの硬さと回復性を測定する「曲げ試験機」などがある。曲げ試験機では、2cmの幅に100本の毛を張ったサンプルを作り、曲げの硬さ、回復性を計測するという。

こちらは毛の束のツヤを計測する「つや試験機」
ライトを当てて特殊なカメラで撮影して画像処理することで、髪のツヤを数値化する

ここではサンプル作りの体験をした。両面テープを少しずつはがし、約2mmのスペースに10本の毛を重ならないように張り付けていく。これを10回繰り返し、100本のサンプルを作る。1つ作るのに最速で10分、普通だと15分くらいかかるとのことだ。

さまざまな国や地域の人々の髪の毛の特性を調べたり、技術的な仮説を立てて作った試作品をテストしてその効果を比較したりと、地道な作業が続けられている。

世界の毛髪の特徴。日本人だけでなく、欧州人やアジア人、アフリカ人などさまざまな地域、人種の髪の毛を集めてさまざまな試験を行っている

■毛髪ケアは「キューティクルの維持」が重要

前述の説明の中に「亜鉛が髪の毛のキューティクルの密着性に大きな関連がある」という話があったが、では、実際にはどのように製品化されているのか。

毛髪は皮膚や筋肉、骨などの生きている細胞と異なり、歯や爪などと同様に一度傷んでしまうと元には戻らない。清藤美里氏は毛髪をケアする上でのキューティクルの重要性について次のように語る。

「キューティクルは、毛髪から水分や栄養素が流出するのを止める役割を担っており、キューティクルがはがれるとパサついてダメージがひどい状態になってしまいます。そのため、キューティクルをいかに損傷させないかが重要です。」(清藤氏)

キューティクルを守る上で重要な役割を果たすのが「ナノイー」だという。

「ナノイーは、マイナスイオンに比べて約1000倍の水分量を持つのが大きなポイントです。キューティクルのすき間が50ナノメートル程度なのに対してナノイーの大きさは13ナノメートル程度なので、キューティクルのすき間に入り込むことができます」(清藤氏)

実際にナノケアシリーズを使って乾かすと、髪の毛がサラッとするだけでなくしっとりした感じになる。そこに「ナノイーの水分量が役立っている」と清藤氏は語る。

「毛髪内にはCMCから油分や水分が入ってくるのですが、水分量が少ないと表面層には付着するものの、内部まで入っていくことができません。ナノイーはマイナスイオンの約1000倍の水分量を持つため、毛髪内部まで水分を浸透させられるのです」(清藤氏)

毛髪を科学的に検証していると紹介したが、「分析機器で測定した定量データだけでなく、シャンプー台でお客様に使っていただいた後の官能値(人間の感覚による評価値)をセットで考えています。データで実証されてもお客様の実感がなければ意味がないので、どちらかでも落ちたら商品化できないのです」(清藤氏)

「多くのユーザーに最も喜ばれているのが「しっとり」と「髪のまとまり」です。この2つはどの機種に関しても、すぐ実感いただけると自信を持っています」(清藤氏)

■ドライヤーの温風は約140℃まで大丈夫

パナソニックが今回のようなプレス向け見学会を実施した背景には、ダイソンの美容家電への参入、つまりヘアドライヤー「Dyson Supersonic」の発売があったからだと筆者は見ている。そのダイソンのアピールの一つに「温度コントロール」があった。高温で髪を乾かすことによって髪にダメージを与えてしまうという。そのため、ダイソンは毎秒約20回もの頻度で風温をチェックし、最高でも約78℃に風温を抑えているという。

これに対し、「ドライヤーの熱では髪はほとんど傷まない」とするのがパナソニックの主張だ。

髪の変性が始まるのは140℃前後で、パナソニックのドライヤーは約125℃程度に抑えているという

「熱は髪を傷める要素ですが、髪の変性が始まるのは140℃程度です。当社のドライヤーは最も高い温度が125℃程度で、毛髪を変性させるほどのダメージはドライヤーでは生じません。ただし、ヘアアイロンは危険です。当社の商品では、カール用ヘアアイロンの場合は約130℃にしています。しかし温度が高い方が形成力が高いので、ストレート用ヘアアイロンの場合は200℃や180℃といったモデルが非常に多く出回っています。それを毎日のように使うとかなり傷むというのが私たちのデータでは分かっています」(清藤氏)

■ドライヤーの熱でできる効果とは?

清藤氏は「ドライヤーの熱はとても重要な要素があって、60℃以上の温度を当てることでクセを伸ばし、ツヤを長持ちさせる効果があるのです」と語る。

化学薬品でようやく解けるシスチン結合、アルカリ性で解けて弱酸性で結合するイオン結合に比べて、水素結合は最も弱い。その水素結合は、温度によって解けたり再結合したりすると清藤氏は説明する。

「例えば、髪の毛がうねってしまい、これをまっすぐにしたいと思うと、まずその結合を切る必要があります。水素結合を切るためには60℃以上の温風を当てないといけません。そこで一番重要なのは手ぐしでブローすることです。髪の毛がうねっている状態を正しくするには、まず伸ばす必要があるからです。その状態を保つには、再結合しなければなりません。そこで、40℃以下の冷風を当てると再結合します」(清藤氏)

うねってしまった髪の毛の結合を解きながら再結合させるために用意しているのが、温風と冷風を一定のリズムで繰り返す「温冷リズムモード」だ。

「サロンなどでプロのスタイリストがブローの際に熱風でまず温めるのはそれです。正しい状態に戻し、最後に冷風でしっかり固めていきます。これをしないとしっかりと長持ちするまっすぐなスタイリングはできません」(清藤氏)

ただし、水素結合は50℃前後で切れたり再結合したりするため、一般的なドライヤーのようなシンプルな仕組みでは温度をコントロールするのは難しい。

「周囲の空気を吸って熱を生成させるので、夏と冬では出てくる温度が微妙に違います。適切な温度を与えてしっかりツヤを出すために、室温を検知して温度をコントロールし、正しい温風と冷風を与える機能を温冷リズムモードは搭載しています。お勧めの使い方は、まず温風で9割方乾かした後に、温冷リズムモードを使って手ぐしで整えながらスタイリングすることです。こうすることでツヤが出るだけでなく、まっすぐな状態を維持できます」(清藤氏)

では、パーマの場合はどうなのだろうか。

海外ではカーリーヘアやウェービーヘアが多く、カールやウェーブを生かしたい場合は「Dyson Supersonic」に付属する「ディフューザー」のように風を弱めて拡散させるようなアタッチメントを使ってスタイリングするといいとのことだった。

「日本人は海外の人に比べて毛髪のうねりが少なく、最近のトレンドは根元がフンワリしていて途中がまっすぐになり、毛先がカールするといったものが主流になっています。乾かすときはまず毛の流れと反対方向に当て、根元を立ち上げてフンワリさせながら、毛先に向けてテンションをかけるといいです。外側から内側に持ってくる形で風を当てると、ゆるやかな内巻きにもできます」(清藤氏)

■速く乾いてきれいに仕上がる秘密は4つのポイント

「風圧」や「風量」を強くアピールするDyson Supersonicを強く意識してか、「ドライヤーの毛髪ステップで必要なのは4つあります」と清藤氏は語った。

「店頭では毎分1.8立法メートルや1.9立法メートルなど、風量の話が出ることが多いのですが、我々は風量と風温、風圧と風の強弱差の4つが重要だと考えています」(清藤氏)。特にパナソニックがこだわっているのが「風の強弱差」だそうだ。

風の強弱差というのは、ヘッドにある「速乾ノズル」で実現しているという。

「真ん中の部分に壁があって、そこから風は出ません。その左右からすごく強い風が出ることで、風をばらつかせることができます。これによってようやく髪内部まで風が届くのです。最初のステップで必要なのが風の強弱差で、次が水滴を吹き飛ばすのに必要な風圧です。ただそれだけではダメです。吹き飛ばしたら今度は蒸発させないといけないので、そのときは風温が必要です。温度がある程度高くないと、水分を蒸発させる効果がなかなか得られません。風温、風量、風圧、風の強弱差が最適バランスにならないと最適な乾燥性能が生まれないというのがパナソニックの考え方です」(清藤氏)

ヘッドの「速乾ノズル」の仕組み。中央部からは風が出ないことで風に強弱差が生まれるという

風温重視型と風圧重視型、バランス重視型というヘアドライヤーのスタイルによって乾燥開始後の髪の乾き方に違いが生じるものの、「立ち上げ初期は風圧重視型のほうが乾燥しているように見えますが、最終的な乾燥状態まで持っていくとほぼ同じ秒数になります」(清藤氏)という。

さらに清藤氏は続ける。

「風圧特化型の場合は風に脈動が起きて、ちょっとした竜巻状態になってしまいます。髪の毛がぐるぐる回るような風が起こるのです。風圧が強いと乾燥性はいいのですが、からまりやすさやまとまりの悪さが起きてしまいます。我々が目指すのは毛髪美容器なので、速く乾けばいいというわけではありません。速く乾かしつつも、終わったときにはスタイリングまでできていることにこだわりたいのです。速く乾き、スタイリングがきれいにまとまりつつ、同時に髪質改善までしてしまう。その3つの要素をかなえるのが、究極のナノケアの目指している姿なのです」

風に強弱差を付けることで、毛先が踊りすぎないように感じられた
他社モデル(右)との比較。ナノケア(左)の方が髪のまとまりがいいことや、毛先まで乾いていること(水色の部分が乾いているところ)が分かる

毛先が踊って髪の毛全体がからまりやすくなっていたことも相まっているかもしれないが、マイナスイオンのみのドライヤーに比べて、ナノイーが指通りの良さに大きな効果が得られることも目の当たりにした。同社のマイナスイオン搭載ドライヤーとナノイードライヤーでも、髪の毛全体のしっとり感やツヤの出方が大きく違ってくることも確認できた。

マイナスイオンしか搭載しない他社モデルで乾かした髪は、クシが途中で引っかかってしまった
ナノケアで乾かした方は、クシが全く引っかからず、すとんと下まで落ちていった

こちらはナノイー搭載のナノケアシリーズ(左)と、マイナスイオン搭載のイオニティシリーズ(右)との比較。写真では分かりづらいが、左の方がツヤや指通りがいいことが確認できた

ナノケアシリーズの最上位モデルが長期間にわたってトップシェアをキープしているのは、ヘアケアに悩みを持つ女性の多くがその効果を実感しているからにほかならないのだろう。研究所を見学し、毛髪に対しての徹底した追究の一端を垣間見ることができた気がする。ダメージケアを含めたヘアケアをしっかりとやりたいという人は、スタイリングの仕組み(髪の毛の結合の仕組み)も含めて理解し、製品選びに役立ててほしい。

(ライター 安蔵靖志)

[日経トレンディネット 2016年9月6日付の記事を再構成]

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