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将来、何が起こるのか――。誰もが知りたいはずだが、現実には未来を予測するのは至難の業だ。そんな中、まず外れない予測がある。人口予測だ。日経BP未来研究所の仲森智博所長によれば、世界で様相を一変させるほどの変化が起こることが人口予測から見えてくるという。その変化は日本にとって厳しいものになるが、変化に対応する手段はあると説く。

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経験したことがない大きな変化

未曽有の変化。陳腐な言い方です。またか。そう思われる方が多いかもしれません。けれど、実際にいま進行していることは、そうとしか表現しようのないものなのです。

改めて言います。いま人類は、少なくとも近世以降は経験したことがない、大きな変化のなかにあります。例を挙げてみましょう。一つは、先進国から新興国へのパワーシフトです。

19、20世紀を通じてずっと、欧米などの「先進国」が世界の富を独占してきました。2000年時点においても、世界の国内総生産(GDP)の約8割はG7を中心とした先進国が稼ぎ出していたのです。この構造が顕著に変わり始めたのはリーマン・ショックあたりでしょうか。新興国の急速な経済成長によって、相対的に先進国の力が弱まりつつあります。この傾向はさらに加速し、2030年には世界の富の半分は新興国が生み出すことになるでしょう。

この裏付けとなっているのが、人口推移です。いま世界は人口爆発期ともいえる状況にあります。前の東京オリンピックが開かれた1963年の世界人口は32億人ほどでした。それが、2000年ころには60億人を突破し、現在は73億人ほど、2020年には77億人、2030年には84億人に達しているでしょう。

世界の様相は一変する

インドなど新興国では人口が急増している

インドなど新興国では人口が急増している

その人口爆発をけん引しているのが新興国です。つまり、新興国は人口ボーナスを背景に急速な経済成長を続けているわけです。結果として深刻に懸念されるようになったのが、食糧、エネルギー、水などの不足と奪い合いです。もちろんそれは氷山の一角で、あらゆる地域、分野で激烈な変化によるひずみが生まれ、社会問題が噴出するであろうことは想像に難くありません。

一方で、先進国は軒並み人口を減らし続けています。いわゆる少子高齢化ですが、日本のそれは、欧州諸国などよりはるかに急激なのです。日本は世界に先駆けて、ここでも「人類がこれまで経験したことがない」少子高齢社会を体験することになるでしょう。

実は、新興国にもその影は忍び寄ってきています。例えば韓国はすでに人口減少の局面に入っており、中国がこれに続きます。つまり、成長の順を追って少子高齢化が襲い掛かってくるわけです。注目すべきは、経済成長も少子高齢化も、あとになるほど変化の度合いが急激になっていくということでしょう。

恐ろしいのは、こうした未来は確実に訪れるということです。人口予測は、まず外れない。その結果として、世界は様相を一変させるほどの変化を私たちは体験する。それは確実に起こることなのです。

既存産業とICTの融合、そしてAIの覚醒

こうした変化に対応する手段として、極めて重要なのが「科学技術」の力です。そもそも欧米への富の集中は、産業革命がもたらしたものだともいえます。つまり、科学技術の進化によって引き起こされる変革は、それ単体でも世界の様相を一変させるほどの破壊力を秘めているのです。

その大変革は、すでに準備されつつあります。主役は、広い意味でのICT(情報通信技術)になるでしょう。

歴史を振り返れば、人類の繁栄を支えてきたのは生産性の向上であり、近世の急成長は「工業化」によって達成されたといえるでしょう。人手頼りの手工業から少ない人手で量産を可能にする装置産業へのシフトを果たし、ロボット、ICTなどを導入しつつその高度化を進めてきたわけです。繊維、機械、電子など多くの分野でこれが進行し、そのことが社会に大きな影響を与えてきました。

けれど、見渡せば「人手頼り」の産業分野はまだまだあります。医療、農業、金融を含むある種のサービス業、職種では、経営、教育、物流/運輸などがそれに該当するでしょう。ほとんど確かなことは、これらの分野でかつてないほどの生産性向上が達成され、そのことが全産業に影響を及ぼしていくということです。その推進力となるのが、いわゆるICTでしょう。

クラウドの出現、ビッグデータの誕生、それを糧としたAI(人工知能)の覚醒。科学技術が進展しAIが人類の知能の総和を超える「シンギュラリティ」と呼ばれる水準に近づいていくことで変化は加速し、波及する範囲は劇的に広がっていくはずです。あらゆるビジネスの成否は、この変化にどう対応し、直面する社会課題の解決に結びつけていくかにかかっているのです。

「パンドラの箱」は開いた

 例を挙げてみましょう。ほんの一例です。

昨今、新聞紙上をにぎわすテーマの一つに、自動運転があります。機械が人に代わって運転をしてくれる技術です。おそらく、東京オリンピックでは関連施設を結ぶ無人バスを走らせるなどの社会実験が実施されるでしょう。高齢化が進む地方では、それより早く導入が始まるかもしれません。

ところで、自動運転をみなさんはどう捉えているでしょう。一般には、「ゲームしながら移動できるようになる」「クルマで出かけても酒が飲めるようになる」程度に認識されている方が多いのではないでしょうか。

けれど、思索を深めていけば、自動運転車の普及は極めて大きな影響を社会に与えるものであることが分かってきます。

誰も自家用車を買わなくなる

実は、消費者からすれば、良いことだらけです。まず、自動車を買わなくてよくなる。ローン返済に追われ、駐車代、ガソリン代、保険代、税金、車検・整備代と、ことあるごとに出費を強いられることは、もうなくなるのです。代わりに活躍するのが、格安の無人タクシーでしょう。運転手という「人手」が不要になることで、タクシー料金は数割、ひょっとしたら10分の1以下になっているかもしれません。

事故も減るでしょう。「人間の」運転手はすべて手練れというわけではありません。運動能力が低下した高齢者、やんちゃな若者、休日にしか運転をしない人もいるでしょう。優れた運転手であっても、居眠りをしてしまうかもしれない。きちんと運転できていたとしても、死角から子供が飛び出してくることもある。実際、事故原因の9割は人間の認知ミスや判断ミス、操作ミスだといいます。

この問題は、自動運転車でほとんど払拭できるはずです。死角から飛び出してくる人を自車や周囲の車のセンサーで捉えることは容易です。運転技能も、AIを組み合わせることで格段に進歩するはずです。日本中、世界中の道路を走行した膨大なデータを経験として取り込み学んだAIは、人の技量をはるかに凌駕(りょうが)する運転能力を身に付けるはずです。

クルマの動きを統合的に制御し、稼働率の向上を図ることで、事故渋滞も激減するでしょう。このことによって、移動時間はぐっと縮まるはずです。このほかにも、「うれしい」変化はいくつもあります。移動コストが下がるのと同様に物流コストが下がること、災害などによる避難が容易になること、緊急車両の移動所要時間がぐっと短縮できるであろうことなどです。

自分がやらなくてもほかの誰かがやる

ただ、喜んでばかりもいられません。産業界にとっては、自動運転の実用化と普及は、自身の存亡を揺るがしかねない、戦慄すべき大変革でもあるのです。

その動きのど真ん中にいるのが自動車メーカーでしょう。クルマというものが、BtoC(消費者向け事業)の商品からBtoB(企業間取引)の製品になる。これだけでも対応は大変です。動力も変わるでしょう。ガソリンから、無人でのエネルギー補給が容易で、構造が単純=コスト削減が見込める電気自動車へのシフトが進むでしょう。

さらに恐ろしいのは、どこから誰がライバルとして出現してくるかわからないということです。「技術が変わればプレーヤーも変わる」ということは、私たちがこれまで何度も目にしてきたことです。新規参入が少ない自動車産業にあって、「自分たちがやらなければ前には進まない」という状況が長く続いてきました。けれどもこれからは、「自分がやらなくてもほかの誰かがやってしまう」ことになるわけです。

自動車に関わってきた業界も、大きな影響を受けるでしょう。自動車メーカーと直接取引をしてきた産業分野にはじまり、運輸、物流、流通小売り、保険、医療、警察、消防などの公共サービスなどにも及びます。

「人手頼りの仕事」が「量産に適した装置産業」へと変貌する

再度例を挙げてみましょう。戦艦大和は、厚い鋼板に覆われています。砲弾が当たった場合の影響を小さく抑えるためです。では、今日の軍艦はどうでしょう。イージス艦などは、実は一発の砲弾で破れてしまうほどの装甲しか持ちあわせていません。なぜか。それは、「事前にリスクを察知し当たる前に対応するから」なのです。

その考えに立てば、自動車に強靱(きょうじん)な車体はもはや不要ということになるかもしれません。そもそも衝突しないわけですから。そのとき、車体には今と同じような鋼板を果たして使い続けているでしょうか。

繰り返しになりますが、自動運転はほんの一例です。これから、さまざまな分野で、AIを核としたICTによって「人手頼りの仕事」が「量産に適した装置産業」へと変貌していくでしょう。私たちは、産業構造を破壊しながら生産性の飛躍的向上を果たしていくことを宿命づけられているのです。それなくして、労働人口比率の急激な低下と社会コストの急増を伴う少子高齢化は乗り切れないわけですから。

それは分かっていても、「変化をためらう」空気はなかなか消し去れません。けれど、それでも何とかなってしまう状況ではないのです。このことは、先に述べました。「私たちがやらなければ他の人たちがやって、結局その人たちに駆逐されてしまう」だけなのです。

未来予測だけでは足りな

仲森智博氏

仲森智博氏

ではいま、私たちは何を考え、行動すべきなのか。その答えは、一つではないはずです。けれども答えを考えるうえで、必ず知っておかなければならないことがあるはずです。 一つは、世界の動向、動きの源泉たる「メガトレンド」を抽出、理解し、未来イメージを予測することでしょう。ただ、未来は揺れ動くものです。常にそれを点検し見直しつつ、考えられるあらゆるシナリオを想定しておかなくてはなりません。

ただ、それだけでは不十分。これから先の未来は、技術進化によって大きく変貌していくことは、ここまで述べてきた通りです。そうであれば、技術の本質を理解しその行方を予測しておかなくていいわけがありません。

仲森智博氏(なかもり・ともひろ)
1959年生まれ。早稲田大学理工学部卒、沖電気工業基盤技術研究所で薄膜デバイス、結晶成長法などの研究に従事。1989年日経BP社入社、日経ビズテック編集長や電子・機械局編集委員などを経て2013年から現職。早稲田大学ナノ理工学研究機構研究院客員教授も務める。

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