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バスケでも評価基準は「観客動員」 これがすべてです Bリーグ川淵三郎キャプテン、インタビュー(上)

スポーツイノベイターズOnline

2016/10/17

(写真:加藤康)

2016年9月22日。

バスケットボール男子の国内最高峰プロリーグ「B.LEAGUE」(以下、Bリーグ)が開幕した。

2005年に日本の協会とたもとを分かちプロ化に踏み切った「TK bjリーグ」(以下、bjリーグ)と、企業チームが主体の「ナショナル・バスケットボール・リーグ」(以下、NBL)が統合。この11年、かなわなかった統一を実現したのは外部から招聘(しょうへい)された日本バスケットボール協会(JBA) エグゼクティブアドバイザーの川淵三郎氏だ。サッカー・Jリーグの初代チェアマンを務めた経験をもとに大なたを振るい、国際バスケットボール連盟(FIBA)から資格停止処分を受けた日本バスケットボール界を「再生」させた。

日本のスポーツ界をまた一段と進化させるであろうBリーグ。川淵氏にこれからの日本バスケットボール界の課題や展望、また日本のスポーツ界の未来を語ってもらった。(聞き手は、上野直彦=スポーツライター)

―― 最初に、川淵さんのことは何とお呼びすればいいのでしょうか。 既にJBA 会長の役職を離れて、エグゼクティブアドバイザーという肩書きですが。

川淵 キャプテンでいいよ。みんなから、そう呼んでもらっているので。

―― 分かりました。では、川淵キャプテンにお聞きします。リオデジャネイロ五輪の女子バスケットボール日本代表は大活躍でした。特に、敗れたとはいえ一時は16点のリードを奪ったオーストラリア戦はすごい試合内容でした。

川淵 日本でテレビ放送されたリオ五輪の試合はすべて見ました。おっしゃる通り、初戦、2戦目の勝利は大きかったですし、3戦目のオーストラリア戦は敗れましたが、本当に惜しかったね。試合内容もよかった。そんなに簡単には勝たせてもらえないのも現実です。あの辺りがまだ大きな舞台で戦っていない経験の無さかなとも思いました。

―― 8月24日に開催された「熊本復興支援 Bリーグ・チャリティーマッチ」も取材しましたが、平日開催にもかかわらず2000人以上の観客が集まり、延長戦となった試合に喜んでいました。あの試合をBリーグではどのように捉えていますか。

川淵 Bリーグが成功するためには、あのぐらいの盛り上がりではまだ足りない。今までのbjリーグ、NBLはマニアックなファンが多かった。これからは固定ファンだけでなく、バスケットボールを初めて見る人が今の倍ぐらいは増えないと。

僕の経験からいうと、「バスケットボールって、初めて生で見たら結構面白いもんだな」と思ってもらえる。だから今までのチームを応援してくれたファンは、多くの仲間をアリーナに連れて来てほしい。それができればBリーグは大成功するに違いないという自信を持っています。

―― Bリーグ開幕まで1カ月 (インタビューは8月29日に行った)を切りましたが、今の段階で考えている課題はどういうところでしょうか。

川淵 プロリーグの評価は、観客動員がすべて。これが僕の一番の基準なんです。観客を動員するために、「バスケットボールの魅力をどう伝えるか」「アリーナの快適性をどう高めるか」「『また観に来たい』という気持ちにどうなってもらうか」など、課題はいろいろあります。

試合の中身がすごく変わって、日本の選手も今までとは違う積極的な強化に取り組んで面白い試合ができるようになった。ここまでは当然の話です。そういうものがあった上で、評価の判断基準は観客動員。これがすべてです。

■メディアも不可能と言った「2リーグ統合」

―― 川淵さんは、「サッカー」「バスケ」といった特定の競技にこだわらず、「スポーツ界全体の発展」が口ぐせです。これは他のスポーツ協会の指導者にはない部分です。それはどのような思いからでしょうか。

川淵 Jリーグがスタートした当時、一番人気があったのはラグビーでした。そしてバスケットボールやバレーボールもプロ化しようという動きがあったんです。だから実はもっと早くプロ化ができていてもおかしくなかったわけですが「プロ化してどう日本のバスケットボール界を変えていくのか」「世界にどう羽ばたくのか」、いろんな意味でビジョン、夢を描けなかった。

日本はオリンピック至上主義だから(笑)。オリンピックに出られない競技は、日本の中では認められません。サッカーでいえば、ワールドカップですよね。もしサッカーがワールドカップに出場できていなければ、こんなに人気が継続することはあり得ないわけです。アジアの中でトップになって、オリンピックで活躍できるような選手を育て、チームをつくり上げていくためには、もうプロ化しかありません。

―― しかし、ここに至るまでには様々な困難がありました。特に2つのリーグの統合はメディアからも「不可能に近い」と言われました。

川淵 そうだね。バスケットボールはリーグが2つに分離していて、マスコミがこれに対して全く興味や関心を示さない。そりゃ、当たり前なんです。「どっちのリーグが強いのか、弱いのか」すら分からない、地域に根ざしてプロらしいことをやっているのがbjリーグだけど、実力的には明らかにNBLの方が強いということも、世間の人は全く知らないわけです。

(写真:加藤康)

今回Bリーグができることで、男子バスケは強くなるに違いないと多くの人が期待してくれるようになるでしょう。女子代表はリオ五輪でベスト8でしたが、米国以外と当たっていればメダルを取れる可能性もあった。

日本男子バスケットボールの日ごろの練習法や指導者も、プロ化によって大きく変化していかなければなりません。そのことで日本代表が強化され、国民の多くにバスケットボールの選手名を覚えてもらえることにつながるんです。

問題なのは、選手の名前をほとんどの人が知らないこと。1年ぐらい前にリサーチしたところ、唯一、田臥(勇太)を知っている人が3割くらい。他の選手は1~2%なんです。これは悲劇的です。

―― 田臥選手は、本場の米国で活躍していましたからね。確かに、それ以外だと『スラムダンク』や『黒子のバスケ』といったマンガに出てくる登場人物の方が名前を認知されているかもしれません。

川淵 田臥は、僕らも秋田県の能代工業高校時代から知っています。能代工業は圧倒的に強くて、彼のパス、技術が際立っていましたよね。そして、観ていて面白かった。例えば、今は松井(啓十郎)のような3ポイントシュートをバンバンと入れる選手も結構いるのですが、ほとんど誰も知らないでしょう。今回のBリーグで、選手の名前を知ってもらうこと。これこそが、「自身の技をもっと鍛えなくちゃいけない」と選手が思うところにつながります。そこがプロ化の一番大きい効果でしょう。

■企業名は出していいが、独立法人化しない限りは絶対ダメ

―― 川淵さんは、Jリーグの初代チェアマンでもあります。Jリーグが始まった20年前と今回のBリーグ立ち上げでは経済環境やIT(情報技術)など取り巻く状況がずいぶんと違います。取り組みとして、あの頃とどこが変わりましたか。

川淵 サッカーをプロ化しようとした時は、まさにバブルの頂点でした。Jリーグがスタートした時にバブルが弾けたわけですが、Jリーグをスタートさせようと検討するのが2、3年遅れていたら、たぶんJリーグはなかったでしょう。

先ほども言いましたが、バスケットボールでは「全く異なる特徴を持った中身の違う2つのリーグをどう一緒にするか」が課題でした。10年間、いろいろな仲裁が行われてきたわけです。NBLは「企業が持っているチームが集まっていて、資金や実力があるリーグ」、bjリーグは「プロ化されているけれど、経済的になかなか厳しい、また実力的には明らかに外国人選手頼りのリーグ」でした。

よほどの強力なパワーが働かないかぎり、これらを一つにしようとすることは難しい。bjリーグはプロリーグとしてスタートして10年。一方、NBLは企業チーム。この企業チームをプロ化する際に、僕が出した最初の条件は「企業名を出していい、ただし独立法人化しなければ絶対ダメだよ」ということでした。クラブが会社の中の一部門だと、独立採算としてどれくらいの利益を上げ、どれだけの活動をしてという中身が見えなくなります。

一方、bjリーグは株式会社としてやっているんだけど、決して業績がいいわけではありません。課題は、そういう状況をNBLの企業チームに納得してもらうこと、そして企業名を出すことをbjリーグに納得してもらうことでした。そこが一つにするハードルだったわけだけど、僕は僕なりの判断で、最終的にはいい方向に進みました。

―― Bリーグ構想の一つにB1(Bリーグ1部)のクラブが「5000人以上収容のホームアリーナを持つ」というものがあります。かなりハードルが高いと思うのですが。

川淵 ええ。相当ハードルは高いですよ(笑)。でも、プロのクラブが「器」以上になることはあり得ない。

Jリーグをつくった時、1万5000人以上を収容できる、ナイター照明を持ったスタジアムを確保することがクラブの参加条件でした。なぜかといえば、試合の入場料金が1人当たり平均1000円で1万5000人が入ると、チケット売り上げが1500万円。これで年間20試合やったら、だいたい3億円の収入になります。そこにスポンサー収入を加えて、トータル5億円ぐらいでなんとかプロクラブとして運営していけるかなと。

バスケットボールは3000人収容のアリーナに3000人が入るということは、現状としてあり得ないわけです。入れ物(器)を大きくして、そこで8割入るとした場合、5000人収容なら4000人でしょ。それで年間30試合やって、観客は12万人です。1試合の入場料金が平均3000円で3億6000万円となります。これなら3億円の収入が可能です。いろいろと考慮すると、年間の収入が最低5億円あれば、選手に2000万~3000万円の平均年俸を出しても大丈夫という試算なんです。

―― 川淵キャプテンの数字の強さは定評がありますが、サラリーキャップ(選手の年俸上限額)は。

川淵 今まではサラリーキャップがあって、NBLで1億5000万円、bjリーグでは6800万円でした。外国人選手がだいたい高給取りで、日本人は安月給だった(笑)。bjリーグには年俸が100万円以下という選手がいたので、それでプロと呼べるのかと。

片やNBLは外国人も質の高い選手を採れるし、日本の代表クラスの選手が給料の高いNBLに行くのは当たり前ですよね。財政がどうなるか分からない、自転車操業しているリーグのクラブに行くわけがありません。

おのずとNBLは強くなり、bjリーグには弱い選手しか行かなくなる。しかしbjリーグはプロとして成功しないといけないから、エンターテインメント性とか、子どもたちにバスケットを教えたりして、地域の人に愛されようとする努力はものすごくやりました。NBLはほとんど何もしていません。やっぱり企業へ「おんぶに抱っこ」だからです。この差はいかんとも埋め難かった……。

(写真:加藤康)

Jリーグの時とは異なり、なぜチーム名に企業名を冠することを僕が認めたか。Jリーグと同様に企業名を出さないようにしてほしいとお願いすると、「企業としてのチームを持つ価値はないのでやめます」という会社が何社かあるのではないかと思ったからです。

例えば、バスケットボールチームを持つアイシン精機や、トヨタ自動車、東芝、日立製作所、三菱電機の5社は大企業です。

これらがBリーグ参入をやめると給料の高いチームがなくなってしまう。日本代表選手の処遇に関わる問題です。

いずれプロリーグが盛んになって、収入が増えたら給料が増えるかもしれませんが、とりあえず高い給料を払えるところがなくなったら、選手としてはバスケットボールをやめましょうということになります。それは絶対に避けなくてはならない。リーグを継続していくためには「企業名を認め、プロのチームとして認める。しかし、クラブ経営を独立法人化しないと認めません」というところが最後まで折れなかったところです。

―― 今後、日本代表の強化をどのように考えていますか。

川淵 代表としての練習期間、強化の日程がものすごく少ない。サッカー日本代表は年間スケジュールを見ても1カ月合宿するということは無理です。2015年のワールドカップで活躍したラグビー日本代表は、ヘッドコーチがエディ・ジョーンズの時に4カ月の合宿を4年間やったというんだから恐ろしい。あれぐらいやったら、間違いなく強くなります。

バスケットボールは、今まで長い強化期間が取れる環境にあったにもかかわらず、やっていなかった。サッカーに比べればシーズンオフも長いし、強化の期間はもっと設けられると思います。Bリーグになったことをきっかけに、トップパートナーとなったソフトバンクさんにも相当なお金を出していただいたので財政的にゆとりができました。日本代表をかなり強化していきたい。その際に、選手は言うに及ばず、チームに対しても手当は出すべきだと思っています。

―― 現在、米国の大学でプレーしていますが、渡辺(雄太)選手などいい素材が出てきています。

(写真:加藤康)

川淵 そうなんだよ。八村(塁)も今度、米国の大学(米ゴンザガ大学)に入りますよね。トヨタの松井(啓十郎)なんかも、マイケル・ジョーダンが日本に引退試合に来た時、彼は小学生で、そういう時からバスケットボールをやりたいと夢を持っていました。お父さんがバスケをやるなら米国に行かないとダメだといって、中学校くらいから英語を一生懸命勉強して、高校で向こうに渡って(モントローズ・クリスチャン高校)、米コロンビア大学に推薦で入っています。

選手育成の一つの選択肢として、バスケットボール協会が、中学校・高校の選手を米国の大学に送り込むことをバックアップすべきだと思っています。『スラムダンク』の作者である井上雄彦さんが奨学金(スラムダンク奨学金)をつくってやってくれているんです。

個人の奇特な漫画家がいて本当にありがたいことだが、協会としては、そういったルートをちゃんと設けて、しかるべき大学に推薦して入学できるようにサポートすべきです。そういったルートを見つけて、海外に行ける選手が少なくとも年間10人くらい出てくればいいなと思っています。

米国は環境といい、指導者といい、競争相手といい、国内とはまるで違います。はっきり言って練習量も圧倒的に違います。日本人の練習量は少ない。女子はリオオリンピックを見ても世界レベルだなと感じたのですが、女子の場合には高校を出て実業団に入るケースが多い。実業団はある種のプロみたいなもんだから、練習量はものすごく多いんです。

男子の場合は、だいたい大学に進学します。僕らの時代と違って授業に出ないと単位をもらえないなど、今は結構うるさいんだよね(笑)。勉学との兼ね合いにおいて、大学スポーツをどう強化するかは大きな課題です。(後編に続く)

[スポーツイノベイターズOnline 2016年9月12日付の記事を再構成]

川淵三郎(かわぶち・さぶろう)。日本バスケットボール協会 エグゼクティブアドバイザー。日本サッカー協会最高顧問。首都大学東京理事長。1936年大阪府生まれ。早稲田大学在学中に日本代表に選出。古河電気工業に入社後、64年には東京五輪出場。91年、Jリーグ初代チェアマンに就任。2015年5月に日本バスケットボール協会会長に就任。16年に同協会会長を退任し、エグゼクティブアドバイザーに就任。
上野直彦(うえの・なおひこ) スポーツライター。兵庫県生まれ。ロンドン在住時にサッカーのプレミアリーグ化に直面しスポーツビジネスの記事を書く。女子サッカーやJリーグを長期取材している。 雑誌『Number』『AERA』『ZONE』『VOICE』などで執筆。Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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