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睡眠

睡眠中の突然死を防ぐには

日経ナショナル ジオグラフィック社

2016/10/18

ナショナルジオグラフィック日本版

PIXTA

2016年8月28日の朝日新聞にショッキングな記事が載った。過去10年間に亡くなった14歳以下の子ども約5千人について解剖記録などからその死因を分析した結果、虐待死や不注意による事故死など予防できる事故が4割近くもあったというのだ。

個人的に目を引いたのは、「事故死」の半数以上が睡眠中の死亡であったことだ。子供、特に乳幼児は1日の半分弱を寝て過ごしているのだから、睡眠中に死亡する事例が一定数あることは不思議でない。しかし、事故というのは日中の活動中に起こりやすいイメージがある。溺死や誤嚥(ごえん)などの子供にありがちな事故死を遙かに上回っていたのは意外であった。

また、具体的な事例として挙げられていた母親の腕枕やうつぶせ寝が原因と思われる窒息に驚いた方も多いのではないだろうか。添い寝に伴う窒息死については本コラムでも以前に触れたことがあるが(「添い寝の功罪 日本の子どもの睡眠は超短時間」)、このような調査結果を見せられると、添い寝問題についてもっと注意が喚起されても良いと感じる。

朝日新聞では事故死に焦点が当てられていたが、睡眠中に体調不良で突然死するケースもある。しかも、睡眠中に亡くなるのは乳幼児や子どもに限らない。若者や働き盛りの壮年でも決して突然死とは無縁ではない。

では、このような睡眠中の突然死はどのような原因で起こるのだろうか。

(イラスト:三島由美子)

■とてもキケンな睡眠中の「無呼吸」

寝ている間は外部からの刺激に対してとても無防備のように思われるかもしれないが、睡眠中でも体内環境を一定に保つための基本的なシステムは十分に働いている。たとえば、視床下部や脳幹部をトップにした自律神経機能や内分泌(ホルモン)機能は睡眠中でも休みなく作動し、血圧や心拍数、体温、呼吸を調整している。

ただし、約90分周期で現れるレム睡眠中には自律神経活動が変動しやすく、交感神経が活発になりしばしば心拍数や血圧が上昇する。レム睡眠は「自律神経の嵐」とも呼ばれているくらいだ。過労やストレスなどをきっかけにして睡眠中に不整脈が起こることもある。

高血圧など心臓疾患の持病がある人では、早朝に心筋梗塞を起こすことが少なくない。レム睡眠は睡眠の後半になるほど長くなるため、明け方の長いレム睡眠中に交感神経活動が急激に高まることが一因になっている。

加えて、睡眠中の突然死に深く関係していると考えられているのが無呼吸発作である。

最近ではずいぶんと知名度が高くなった睡眠時無呼吸症候群だが、睡眠中の突然死の一因にもなっている。睡眠時無呼吸症候群にもいくつかのタイプがあるが、睡眠中に大人では10秒以上、小児では20秒以上の呼吸停止が何度も繰り返し生じるのが共通した特徴である。

たかだか10秒とあなどってはならない。大きく息を吸い込んでからの息止め10秒は簡単だが、睡眠中の浅い呼吸ではわずか10秒間でも軽い息苦しさを感じ、20秒ともなるとかなり苦しくなる。睡眠時無呼吸症候群では1分以上も呼吸が止まることがある。

1時間当たり5回以上の無呼吸があれば睡眠時無呼吸症候群と診断されるが、30回、40回はざら、60回以上止まる重症の人もいる。一回20秒の無呼吸が60回あれば、1時間当たり20分間も息をこらえていることになる。それこそ死ぬような思いをしますよね。当然ながら、このような重症の睡眠時無呼吸症候群があると夜間中の不整脈、心筋梗塞、脳卒中、ひいては突然死のリスクが高まる。

睡眠時無呼吸症候群のほかにも、さまざまな原因で睡眠中の突然死は訪れる。生命維持に欠かせない副腎機能が睡眠中に低下してしまう、神経疾患などが原因で声帯の筋肉が異常にけいれん、もしくは麻痺して気道が塞がって窒息する、などオソロシイ病気もある。

睡眠中の突然死の多くは前兆がない。だからこそ突然死と呼ばれているわけだが、睡眠時無呼吸症候群については医療を受けることで突然死のリスクを減らすことができる。肥満や大きなイビキがある、高血圧や狭心症などの持病がある、朝方に息苦しさや動悸で目覚めることがある、夕方よりも朝の方が血圧が高い、などの症状がある人は専門医に相談することを強くお薦めしたい。

■乳幼児突然死症候群をなるべく防ぐには

最後に乳幼児の睡眠中の突然死に戻ろう。

乳幼児における睡眠中の死因の中では、乳幼児突然死症候群(sudden infant death syndrome: SIDS)が代表的である。元気で過ごしていた乳幼児が、睡眠中に突然、心肺停止状態で発見される。それまで健康状態に問題が見られないことが大部分であるため、親にとってはまさに青天の霹靂。その悲しみたるや、おもんばかる術がない。

SIDSはおよそ乳児4000人に1人の割合でみられ、生後2カ月から6カ月に多い。その後は徐々に減るが、1歳を超えてから起こることもある。SIDSに関する数多くの調査にも関わらず、未だにその病因は確定していない。しかし、ここでも睡眠時無呼吸が深く関わっていると考える研究者が多い。

亡くなった乳児の脳を調べると、呼吸を調整する脳幹部の神経組織の変化や、慢性的な低酸素の所見がみられることがあり、生前から呼吸状態が不安定だったことを疑わせるからだ。目覚めている日中には呼吸に問題はなくても、睡眠中には無呼吸が生じやすくなる。体調や姿勢(うつぶせ寝)が重なって無呼吸状態が続くことで死に至るのがSIDSの病因ではないかと考えられている。

健康な人の場合は、たとえ睡眠中でも低酸素状態になると息苦しくなって目を覚ますのが普通である。実際、大人の睡眠時無呼吸症候群では窒息する前に眠りが浅くなり目覚めるというサイクルを一晩中繰り返す。酸欠がそのまま死につながることはない。ではナゼSIDS では無呼吸が死につながるのか?

それは、低酸素にさらされても覚醒する力が乏しいためではないかと考えられている。亡くなる前に偶然脳波検査を受けていたSIDS児の生前の脳波データを解析すると、脳深部の古い脳の活動は比較的活発だが、それに対する大脳皮質の覚醒反応が少ない、つまり目覚めにくい傾向が見て取れるからだ。

SIDSを予防することはできないのだろうか。残念ながら、生前に呼吸機能のハンディキャップをとらえることのできる信頼性の高い診断法は開発されていない。そのため、せめて乳児のうちは、SIDSのリスクを高めるとされる、うつぶせ寝、受動喫煙、呼吸器感染症などはできるだけ避けるようにしたいものだ。

三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2016年9月15日付の記事を再構成]

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