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「箱根駅伝の全国開放」提言 陸上界停滞脱出の一歩に 青山学院大陸上競技部監督・原晋氏が語る(下)

スポーツイノベイターズOnline

2016/10/10

33年もの間、箱根駅伝に出場できていなかった青山学院大学陸上競技部を就任10年で優勝に導き、2016年には大会連覇、39年ぶりとなる全区間首位という完全優勝に導いた原晋氏。今回は、同氏が講演で語った日本陸上界の改革案を談話形式でお伝えする。

2020年には東京五輪・パラリンピックが行われます。そこに向けて、当然日本の陸上競技もさらなる成長をしていかなくてはなりません。しかし、現在の陸上界は非常に遅れていると言わざるを得ません。そのことを示すのが、何年も破られていない日本記録です。

男子では20年以上破られていない日本記録が6つもあります。10年以上破られていないものでも10個以上あるのです(注:五輪、世界選手権で実施される種目に限る)。

「IT Japan2016」(主催:日経BP社、2016年7月6~8日)で講演した青山学院大学陸上競技部監督の原晋氏

用具やトレーニング理論などは、現代のほうが昔よりも優れているはずなのに、なぜこのような状況に陥ってしまったのか。それは、23年前のJリーグ発足に遠因があるのではないかと私は考えています。かつては身体能力が優れた子供たちは野球に流れていましたが、サッカーの人気が高まったことで、野球とサッカーで二分することになってしまった。そのため、陸上競技に有望な子供たちが集まらなくなってしまったのではないかと思っています。

ただ、有望な子供たちが陸上競技を選択しないのは仕方ないことだと思います。もうかるわけでもなく、根性、根性、ど根性の世界ですから。やはり、もっと華やかな競技にしていかないと、有望な選手は集まらないのです。

■世界に誇れる環境でも伸び切れない日本陸上界

では、陸上競技を華やかにするにはどうすればいいか。それについてお話をする前に、まずは日本の陸上界の現状をご紹介します。

今の日本陸上界は、非常に恵まれた環境にあると思っています。まず、競技の根底を支える「論理的な練習計画」「陸上道・哲学」は、世界一と誇ってもいいでしょう。日本人の勤勉性や真面目さも自信を持っていい。

実際、北京五輪の男子マラソンで金メダルを獲ったサムエル・ワンジル選手は、仙台育英高校を経てトヨタ自動車九州に進みました。日本で陸上競技を学び、育った選手です。北京五輪での優勝インタビューでも「僕は日本で我慢ということを覚えた」と言っていました。また、2015年の世界陸上1万メートルで4位になったビダン・カロキ選手は、広島県立世羅高校で陸上競技を学び、現在はDeNAに所属しています。彼らのように、日本で陸上を学んだ世界の一流選手たちもいるわけです。

日本は、「合宿地」「トレーニング機器」「医療環境」に加え、「食生活・水」なども恵まれています。東京から数時間で高地トレーニングを行える高原に行くことができますし、低酸素ルームなどの施設も充実しています。医療のレベルも高いですし、蛇口をひねれば簡単に飲み水が手に入る。日本の陸上界はこうした優れた周辺環境を抱えながら、それらを統括する組織体制がしっかりしていないため、世界に後れを取っているのです。

日本の陸上界は恵まれた環境にありながら、組織体制がしっかりしていないため、世界から遅れを取っていると説明

■原氏が提言する「日本陸上改革案」

こうした課題を解決するために必要なことは、陸上競技のスポーツ産業化です。陸上競技がビジネスとして成立するようになれば、選手の活躍によって業界が活性化し、華やかになります。

では、私が考える改革案をご紹介します。まず必要なことは、組織体制を見直し、組織に一連の流れをつくることです。例えばサッカーの場合、日本サッカー協会を頂点に、協会主導でジュニア世代の育成などを進めていますが、陸上競技の場合、中体連や高体連など、各年代の組織に連携がなく、強化・育成がぶつ切りになっています。そのため、各年代の指導者たちが集まって育成や強化の方法を話し合うことができていません。こうした状況を改善することで、長期的・継続的な視野を持って、選手育成を行っていく必要があると考えています。

それと同時に、トップカテゴリーである社会人や、メディアに最も取り上げられる大学生の競技環境で規制緩和を行うことも重要です。例えば、ユニフォームスポンサーを自由化することができれば、スポンサー料が入り、それによって選手たちの競技生活にも余裕が出ることになるでしょう。

また、実業団チームがあって比較的裕福な長距離種目では、現在はほかのチームに移籍しにくいシステムになっています。本人のわがままで簡単に移籍するのは良くないと思いますが、やはり実業団に入って指導者や練習方法が合わないというケースはあるでしょう。そのときに移籍のハードルが高いと十二分に実力を発揮できないまま現役生活を終える選手たちが出てきてしまいます。そうした悲劇を生まないためにも、自由に移籍できる環境をつくらなくてはなりません。

2020年の東京五輪に向けて、スーパーナショナルチームを結成することも効果的ではないでしょうか。例えば「駿足JAPAN」と称し、代表監督などのスタッフを用意し、各実業団チームなどから優秀な選手を選抜して、切磋琢磨しながら、継続的な強化を行っていくのです。選手たちは各チームからの出向扱いとして、5カ年計画の強化が必要と思っています。もちろん国や企業などの協力が必要になりますが、地元開催の五輪でメダルを獲得するためには、今までにない強化方法を取らなくてはならないでしょう。

組織の横のつながりを強化し、年代ごとに最適な育成プランや目標タイムの設定も必要になると原氏

■箱根駅伝の全国開放で活性化

そして、最も重要になるのが、陸上競技のスポーツ産業化です。これを実現するためには「マスメディアとのタイアップ」「駅伝日本一決定戦の新設」「箱根駅伝の全国開放」「IT(情報技術)との連動」という4つの柱を築かなくてはなりません。

特に、競技大会には手を加える必要があると思っています。1年で最も陸上への注目度が高まるのは、正月の箱根駅伝ですが、1月3日に箱根駅伝が終わると、10月の出雲駅伝まで、メジャーな大会がないというのが現状です。せっかく箱根駅伝で陸上競技の熱が高まっても、これだけ期間が空いてしまうのは非常にもったいないことです。そこで、2月~3月頃に、「ドリーム駅伝」という大会を新設してはどうかと考えています。ニューイヤー駅伝上位10チーム、箱根駅伝上位10チーム、高校選抜チーム3チームを集めて、真の日本一決定戦を行うのです。これは、実現できれば非常に盛り上がると思います。

最後に、そして何よりも訴えたいのが箱根駅伝を全国の大学に開放することです。現在は関東の大学しか参加できませんが、地方からでも箱根駅伝に出場できるとなると、陸上競技への注目度はもっと高まります。

今は日本各地の至るところにサッカースクールがありますが、地方の大学が活躍するようになれば同じように陸上教室ができ、陸上競技を始める子供たちが増えていくでしょう。そして、若者が地方に残る効果も期待できるので、地方活性化にもつながっていく。国の地方創成事業の全体からみるとほんの数%の効果かもしれませんが、箱根駅伝を全国に開放することが、陸上界はもちろんのこと、日本を元気にするキッカケにつながる。私はそう考えています。

「箱根駅伝第100回大会を機に予選会に地方の大学も参加させてはどうか」と原氏

(ライター 久我智也)

[スポーツイノベイターズOnline 2016年8月31日付の記事を再構成]

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