成功者のクルマ選び 大切なのは任せるところは任せる
イマドキの"ちょっといいクルマ"ってどういうものなのだろう。気鋭の自動車ジャーナリスト、小沢コージがちょっといいクルマの真実を追い続ける連載。前回「ベンツ、BMWを急追 アウディが受けた意外な追い風」に続いて、好調なアウディを取り上げる。前回はディーラーに話を聞いたが、今回取材したのはオーナー。アウディ「Q7」を購入した若き経営者は、なぜアウディを選んだのか。返ってきたのは意外な答えだった。
選んだ本当の理由は"話の流れ"?
「正直に言いますとアウディを買ったのは、流れでしょうか(笑)。たまたまお客さんとなじみの寿司屋にいて『次は何を買ったらいいですか?』という話になったんです。僕がクルマにまったく詳しくない一方、その方は非常にクルマ好きな方で『だったらアウディがいいよ。良いクルマだから』という話の流れになりまして」。
"人は今クルマをどうやって選んでいるのか?"を物語るエピソードだ。お聞きしたのは最近プレミアムセグメントで勢力を伸ばしているアウディを選んだ若き30代社長の前田諭志さん。最初に独身最後のスポーツカーとして「R8スパイダー」を購入。ご結婚なさってから家族用としてSUVの「Q7」に買い替えた方だが、聞けば特別クルマ好きではなかったという。
「どれでもよかったと言えばそうなんです。ただそれまでにレクサスの『GS』に『SC』と乗り継いで、もっと別の良いクルマに乗りたくて。条件があったとしたらみんなが乗っているクルマはイヤだったということでしょうか。だからBMW、メルセデス・ベンツは避けたかったかもしれません。でも結果として、アウディを選んで良かったし、すごく気に入ってます。スタイルは都会的で洗練されていますし、乗り心地もすごく良いので。特にQ7は、疲れてクルマの中で眠る時に本当にラク。それまで乗っていたR8はシートを倒せず垂直に寝なければならなかったので、首が痛くて痛くて(笑)」。
任せるところは目利きに思い切り任せる
イケメンで背も高く、一見するとお坊ちゃま。スポーツトレーナーとして活躍されている奥様もおキレイで、いろんな意味で恵まれたタイプとお見受けするがそうでもないという。
「よく勘違いされてしまうんですが、僕は経営者二代目などではまったくなくて、言ってみればたたき上げなんです。高校三年間はずっと競輪選手を目指していて、そこでやるだけやってダメだったらすぐに就職して、その後自分で会社を立ち上げました」
若い身でありながら複数の会社を経営。どれも成功に導いているが、うまくいく自分なりのやり方はあるのだろうか。あえて聞いてみると
「知らない分野はどんどん得意な人に任せますね。仕事も遊びも。クルマに関しても雑誌を読んでイチから自分で学ぶやり方もあったかもしれませんが、僕はその分野にたけた先輩に従えばいいかなと思いますから。習うより慣れろの精神で、いろんな良いモノや選び方を教えてもらって、徐々に自分の中に"これがいい"という感覚が育つのを待つ。それが一番早い気がします」という。
実は腕時計選びもそうらしい。雑誌やネットにはいくらでも情報が載っているが、結局どれを選んだらいいのか分からなくなる。そんなときは仲間内の目利き、中でも年上の目利きに従っていればまず大丈夫。
「レストラン選びを考えれば分かるのでは? 良い店は、やはりおいしいものを知っている人に教えてもらいますよね」
ちなみにさらなるハイブランドについての興味を聞いたところこう返ってきた。
「ポルシェやフェラーリは考えませんでした。僕はフェラーリに乗るなら馬に乗りたいので。今は本気で東京オリンピック出場を目指していますから」
会社経営のかたわら、趣味の馬場馬術で本気で日本代表を狙っている前田さん。そこにあるのはハンパな気概じゃない。研ぎ澄まされたバランス感覚であり、集中と選択だ。勝負にたけたオトコは、人の使い方とモノ選びもうまい。今どきの成功者のクルマ選びとは、そういうものなのだろう。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
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