シーボン「週4日正社員制度」で育児・介護を支援
今年、創立50年を迎えた化粧品会社のシーボン。美容部員からキャリアアップした金子靖代社長が会社を率い、役員の6割も女性が占めるなど、東証一部上場企業の中でも女性活躍の先駆けとして注目を集めている。化粧品販売の店舗で働く社員は100%女性で、本社を含めても93%は女性社員。女性管理職は87%を占める。女性従業員や管理職の比率の高さから、米経済誌(日本版)の「女性活躍企業ランキング」でランクインしたこともある。
そんな、何十年も前から女性が活躍してきたシーボンでも、ここ数年は急激に産休・育休を取る女性社員が増えているという。そこで2013年に従業員満足度を高めるためのES向上推進室を設置。2014年からは「ショートタイム正社員制度」などを導入し、徐々に社内への浸透を図っている。「社員の働き方にもっと選択肢を」と歩みを続ける企業に取材した。
20年以上前から、会社の重要なポジションを女性が担ってきた
「今、女性が増えている企業、女性を積極的に登用している企業は多くなってきていますが、シーボンの場合は、何年も前から女性が中心の会社です。社員の平均年齢は34歳ですが、今40~50代で20年以上、シーボンに勤めている女性も多くいます。親の介護などの問題にも直面しつつあり、また定年後の生活についても考え始める女性が多くいる――というのは、女性登用企業の、何年もしくは何十年先の姿を表しているのではないでしょうか」
シーボンのES向上推進室マネージャーの稲葉理子さんはこう話す。シーボンは20年以上前から「女性が使う化粧品だからこそ、気持ちが分かる女性がつくり、販売する」ことをモットーに、研究開発・生産を統括する責任者、販売に携わる責任者など、重要なポジションのほとんどを女性が担ってきた。
そんなシーボンでも、「女性は結婚したら家庭に入る」ことが当たり前だった時代には、やはり退職する女性も多かった。「産休や育休、短時間勤務などの制度を使って働き続けることが、世の中でも一般的になったここ数年は特に、当社でも子どもを育てながら働き続ける女性が増えています」と稲葉さん。そこで、より社員が働きやすい職場環境を整えようと、約2年前から徐々に新たな制度を採り入れ、運用を始めている。
週4日、6時間勤務などが選べる「ショートタイム正社員」
その中の代表的なものが、「ショートタイム正社員」という制度。正社員の身分のまま、週4日勤務などが選べるシステム。具体的には、週5日・6時間ずつ働くAコースと、週4日・6時間ずつ働くBコースがある。2016年4月現在、12人の女性がショートタイム正社員の制度を利用している。
「結婚・出産後も仕事のペースを落としたくないと考え、ショートタイム正社員の制度がなくても、バリバリ働き続ける女性もたくさんいます。一方で、結婚や出産のタイミングで、退職するか迷う女性も一定数はいます。この制度がなければ、働き続けることができなかった社員の受け皿となり得るのです」(稲葉さん)
店舗で働くフェイシャリストは専門職。長く経験を積み、スキルやお客さんとの信頼を築いた社員が辞めるのは会社にとっても痛手。「週4日なら」「6時間なら」働ける、という人をつなぎ留めることは、会社にとってもメリットが大きいという。
ショートタイム正社員は、結婚や子育てのほか、介護を理由としても選択することができる。給与は働いた時間に応じて減るが、福利厚生などは普通の正社員と同様、利用できる。ただ店舗の正社員の場合、ショートタイム正社員を選ぶと職種が少し変わる。お客さん対応から営業、販売まですべて担当する「フェイシャリスト」という職から、既存のお客さんのアフターサービス(肌チェックやカウンセリング、フェイシャルケア)を中心とする業務を担当することになる。それでも、また通常勤務に戻ったときはフェイシャリストになることもでき、子どもを産むとキャリアから転落するマミートラックにはまらないよう、配慮されている。
定年を65歳に、正社員も短い時間で働ける
さらにシーボンは2014年、定年を60歳から65歳に引き上げた。同時に65歳で定年を迎えた後も、再雇用制度や嘱託社員などの制度により、70歳までの継続雇用を実施している。そして60歳以上の社員は、ショートタイム正社員制度の利用も無条件で選べるようにした。「店舗の場合、例えば60歳以上のショートタイム正社員は、昼ごろから閉店まで働いたりして、夜遅くまでは残れない子育て中の社員と、うまくバトンタッチができている」と稲葉さんは話す。
同社が50歳以上の社員に実施した「60歳以降の働き方に関するイメージは?」というアンケートでも、「働ける間は、今と同じ働き方で仕事を続けたい」が33%、「残業なしで仕事をしたい」が28%、「時間を抑えて働きたい」が13%、「バリバリ働いて、責任のある仕事をやりたい」という人が5%いた。約8割が働くことに意欲はあるが、60歳以前と同じ時間・働き方だと難しいかもしれない、と考える人も多いことが分かる。「何年か後には、60歳を迎える社員も今よりも増えてくるでしょう。ショートタイム正社員の制度は、そんなベテランの社員に働き続けてもらうためにも活用できそうです」と稲葉さんは話す。
同社では女性の役員も多い。金子靖代社長も美容社員からキャリアアップした生え抜きの女性社長で、「誰にでもチャンスがある」という社風が根付いている。役員10人中6人が女性。また管理職全体でいうと87%を女性が占める。
同社が過去3年以内に産前産後休業や育児休業を取得した女性社員や、育児のために短時間勤務をしている女性社員にヒアリングしたところ、子育てが一段落した後の働き方として「キャリアアップや昇格を目指したい」「技能を磨きたい」など、キャリアアップに意欲を示した社員が44.6%いた。
子どもが小さい時期に、無理なく両立できる環境を用意すること、そしてマミートラックに陥らないよう、また出産前のようにギアを上げたい人に、戻る場所やキャリアアップの機会を与えてあげること。この両方がそろって初めて、女性が働きやすい会社になるのだろう。
・【育児休業の延長】 最大3歳まで
・【育児短時間勤務期間の延長】 状況に応じて小学校入学まで
・【ウェルカムバック制度(再入社制度)】 育児等の理由により、退職した社員の再入社を支援
・【男性社員の育児休暇取得】 男性社員も女性社員と同条件で取得可能
・【ファミリー・デイ開催】 家族を職場に招待し、子ども達による職業体験やパーティーで親睦を図る
・【社内報】 産休・育休中のライフスタイルを紹介
(日経DUAL 砂山絵理子)
[日経DUAL 2016年8月10日付記事を再構成]
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