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「トンチン年金」 長生きで受け取り多く得に

2016/9/18

 女性の2人に1人が、男性なら4人に1人が90歳まで生きる時代になった。長い老後生活の大きな心配はお金のことだろう。そんな中、長生きするほど多額の年金を受け取れる「トンチン年金」が注目されている。耳慣れないその年金の考え方を取り入れた年金保険商品がこのほど発売された。公的年金でも長寿の時代に適した受け取り方があるという。探ってみよう。

 「70歳までは企業年金もあるのでなんとかなるが、それ以降は公的年金しかないので老後の生活が不安だ」。そう考えた東京都内の男性会社員(50)は今春、70歳から毎年50万円を終身で受け取る年金保険商品を契約した。日本生命保険が50歳以上を対象に発売した長寿生存保険「グラン・エイジ」だ。保険料は毎月約4万円で、50歳から70歳まで払い込む。

 亡くなるまで年金が約束されているので、一定年齢以上長生きするほど得になる。ただし年金を受け取り始める前に亡くなったときなどは、払い込んだ保険料の7割程度しか戻らない。その分、年金原資を厚くして契約者の長生きに対応するのが特長だ。同社ではこの特長を「トンチン性を高めた」と説明している。

 「トンチン」とは17世紀にイタリアのロレンツォ・トンティ氏が考え出したとされる「トンチン年金」に由来する。ごく簡単に言うと、年金保険への加入者が亡くなったとき、その遺族に対する保険金などは支払わず、その分は生きている他の加入者の年金原資に回すという仕組みだ。このため加入者は長生きするほど、多くの年金を受け取れるようになる。逆に年金を受け取る前に亡くなれば、保険料は掛け捨てだ。

■「滑り出し順調」

 米国などではこのような保険商品がかねて販売されている。日本では「契約者に理解してもらえるか不安」(保険会社)といったことから例がなかった。そんな中、日生は「人生100年時代の備えとなる商品が必要」と考え、早く亡くなると掛け捨てという極端な形にはせずに今春から売り出した。発売後3カ月で契約件数は約1万4千件。「想定の倍で順調な滑り出し」という。

 ただ、だれにでも理想的な商品とは言い難い。先ほどの会社員の契約では、89歳以上生きないと受け取る年金の累計額が払い込んだ保険料総額を上回らない。家計に余裕のある人向けの商品だろう。

 ファイナンシャルプランナー(FP)の内藤真弓氏は「長い老後に向けては、手元のお金をしっかり増やしていくことが重要。そのための商品として優れているかどうかは他の商品とも比較して判断すべきだ」と指摘する。超低金利に対応するためには、よりトンチン性を高めた商品なども求められそうだ。

 民間の年金保険は任意で加入するのに対し、公的年金はすべての人が加入することになっている。公的年金は終身で支給されるため、もとより長寿に対応していると言えるが、受け取り方を工夫すれば、より長寿の不安を減らせる可能性がある。

 社会保険労務士の沢木明氏は現在66歳。65歳から受け取れる厚生年金と基礎(国民)年金はまだ受け取っていない。「70歳で請求するつもりだ」と話す。

 というのは、公的年金には66歳以降に繰り下げて受け取ると、その期間に応じて年金額が増える仕組みがあるからだ。66~70歳までの間で1カ月刻みで受け取りを遅らせることができる。金額は1カ月繰り下げるごとに0.7%増える。1年遅らせれば8.4%増、70歳まで待てば42%増にもなる計算だ。

 沢木氏が65歳で受け取れる年金額は厚生年金と基礎年金合わせて年約200万円。これが70歳から受け取るようにすれば、約280万円になる見通しだ。「将来は夫婦で老人ホームに入るつもりで、それに備えるためにも年金額は少しでも増やしておきたい。70歳まで年金がなくても暮らしていけるように、今の仕事を続ける」と語る。

 65歳から本来の額で受け取る場合と、42%増しで70歳から受け取る場合を比べてみよう。受け取った累積の年金額は81歳ごろに両者同じとなり、それ以上生きれば後者の方がどんどん増えていく。老後の当面の資金にメドがついているなら検討に値する。

■繰り下げ検討も

 公的年金には遺族給付といった仕組みもあるが、基本は生きている間に受け取る設計。おのずと長生きした方が得という「トンチン性」はある。繰り下げ受給はトンチン性をさらに生かす受け取り方とも言える。

 繰り下げの手続きについても説明しておこう。会社員として厚生年金に加入していた人などには65歳になるころ、日本年金機構から「年金請求書」が送られてくる。

 ここには「基礎年金だけ繰り下げる」「厚生年金だけ繰り下げる」という繰り下げ希望欄がある。どちらかを望む人はそこにマルを付けて提出する。両方繰り下げる人は請求書自体を提出せず、66歳以降で自分が望む時期になって手続きすればよい。詳しくは年金事務所に問い合わせよう。

 長い老後に向けては貯蓄や年金などで対応するのが基本になるだろう。ただ、FPでもある沢木氏は「年金生活に入れば月1万円の違いは大きい。公的年金の受け取りを遅らせ、額を少しでも増やすためにも、できるだけ長く楽しく働けるようにして賃金で暮らせる期間を延ばしたい」と話している。(編集委員 山口聡)

[日本経済新聞朝刊2016年9月14日付]

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