「しまい洗いの極意」 達人・横倉靖幸さんのワザ
襟首と脇、入念に染み抜き
夏物衣料をしまう時期になった。しっかり洗ったつもりでも、翌夏には襟首や脇が黄ばんでしまった経験のある人は多いだろう。しみ抜きで実績のあるクリーニング店、クリーンショップヨコクラ(茨城県城里町)の店主、横倉靖幸さんに衣替え時の洗濯の極意を聞いた。
――夏服をしまう前の洗濯で気をつける点は何ですか。
「頻繁に着ていた夏服をしまって来年またきれいに着るためには、入念にしみ抜きをすることです。特に汗をかきやすい襟首と脇に注意しましょう。汗は透明なので乾くと見えなくなりますが、しっかり洗いきれないまま時間がたつと酸化して黄色くなります」
「しまう前のしみ抜きは、タグに『洗濯機で洗える』、または『手洗いできる』マークの付いた衣類に限って使える方法です。毛皮など動物製品や高額なおしゃれ着など、水洗いができない、ドライでしか洗えないものはクリーニングの専門店にお願いしましょう。手洗いできるマークが付いていても、色落ちしやすいデニムなど判断が付かないものも同様です」
――しみ抜きは、どうすればいいのでしょうか。
「汗ばみやすいTシャツなどの襟首と脇の部分や、しつこい食べ物のしみのあるところに、家庭の材料で作れる『魔法水』を使います。重曹を大さじ1杯、酸素系の衣料用漂白剤(液体)を大さじ3杯に、食器用中性洗剤3滴を加え、軽く混ぜます。塩素系の漂白剤は酸性の洗剤などと混ざると有毒ガスが出る可能性があります。魔法水に使うのは酸素系漂白剤です」
「きれいなタオルを下に敷いて、歯ブラシに魔法水を付け衣類の汚れた部分やシミに塗り広げます。色つきの衣類なら少し試して、下のタオルに色移りするならやめましょう。衣類の材質によっては傷む可能性もあるので、こすらずにたたくように塗りましょう」
「通常のしみ抜きだけなら、生地に薬品が残らないように最後に水ですすいでから洗濯します。しまい洗いのときは、魔法水を付けたまま洗濯機に入れてください。時間がたっても黄ばみにくくなります」
――ワイシャツやブラウスの襟首の汚れは、クリーニング店に出しても落ちきらないこともあります。
「綿やポリエステル製のワイシャツの襟首の汚れは男性用のスクラブ洗顔料を使うと効果的です。女性用より粒が大きい点がポイントで、女性の衣類を洗うときでも男性用を使います。適量を手にとり汚れが気になる部分に軽くなでるように塗り広げます。塗ったまま洗濯機に入れてください」
「繊維に入り込んだ洗顔料の粒が繊維から流れ出される時に、襟首に付いた汚れなどをかき出します。スクラブ洗顔料は、顔に使えるほど繊細に作られているので生地を傷める心配もありません」
――しまい洗いで、しみ抜き以外に注意すべきことはありますか。
「夏を過ぎると、家庭の洗濯機の洗濯槽はカビだらけになります。そのまま洗うとカビの胞子が衣類に付いてしまうので、洗濯槽用の洗剤を使ってきれいにしてから、しまい洗いをしましょう。雑菌の多い風呂の残り湯で洗うのも考えものです。一晩たつと雑菌が爆発的に増えます。洗剤で退治できなかった雑菌が衣類に残り、変な臭いがしてしまいます」
「十分に洗濯機を回転させてまんべんなく洗剤を浸透させるため、通常よりも洗濯する衣類の量を減らしましょう。黄ばませたくない大切な衣類なら、2回洗うのがおすすめです。湿気の多い日に干して生乾きのままたたむと結局カビ臭くなるので、しっかり乾燥させてからしまいましょう」
――しみ抜きの技術を上達させたきっかけは。
「2代目店主の父から厳しく指導を受けましたが、父ができないことをしなければいつまでも認めてくれない。見返したい思いがありました。そこで19年前にしみ抜きの専門家に弟子入りして勉強。28歳で父から店を引き継ぎました」
「北海道から沖縄まで全国各地から送られてくる、しみ抜きの依頼品は年間で約5000点にも上ります。わざわざ遠くから思い入れのある一着が寄せられるので、相手の思いを壊さないように、1本のシワもないよう仕上げます。父譲りの職人気質からか、誰にも任せられません」
[日本経済新聞夕刊2016年9月14日付]
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