自己嫌悪は「のびしろ」の証し ネガポジ変換の効果
起きた出来事の「ラベル」を付け替えてみよう
「頭では発信することは良いと分かっていても、なぜか行動できない」「発信したいけどやはりどこからどう手をつけていいか分からない」という方も多いかもしれません。
なぜ、良いと分かっているのにできないか。それは「意志」や「やる気」で物事を進めようとしているからです。実は、行動に移すための鍵は「意志」や「やる気」ではなく、「仕組み」をいかに作るかにかかっています。
以前、行動習慣の専門家に聞いた話によると、運動や勉強、または何かの習慣を「意志」や「やる気」だけで継続できる人は、たったの2%だそうだす。つまり、ほとんどの人は意志だけで習慣を変えることはできないのです。
そこで試してほしいのは、今回紹介する、「心は変えないまま、まずはラベルを変えてみる」という手法です。
これは、最初にわき上がった言葉がネガティブなものだとして、行動に制限がかかったとしても、そのネガティブな言葉の「名前」を付け替えれば行動を変えることができるという考え方です。不思議なもので、同じ出来事でも名前付けを変えるだけで、おどろくほど前向きになれるものなのです。「言葉」を変えることで、徐々に心が変わります。これなら、大元の「心」を最初から無理矢理変えようとしなくても、気軽に試すことができますよ。
ネガティブな気持ちは熟成させずに、切り替えを
私は、ネガティブ思考や後ろ向きな思考が「悪」だとは思っていません。人間ですから、誰だってゆううつなことや、嫌なこともあるはずです。毎日の出来事に感謝できないときだってあるし、人に当たり散らすことだってあるでしょう。全てにおいて前向きに感謝しつづける聖人君子のようになりたいと思う気持ちはありますが、そうは言ってはいられないときだって、たくさんあります。
実は、ネガティブ思考が悪いのではなく、その気持ちをいつまでも引きずってしまうことが悪いのです。ネガティブなことを思ってはいけない、考えてはいけない、と思っても、自然に浮かんでくるのであれば仕方がないこと。浮かんだ言葉をポジティブに切り替えるスイッチを自分に持っていれば良いだけです。
自分への声かけ次第で、物事はポジティブにも、ネガティブにもなり得ます。
たとえば私が長年プロデュースしている、早起きができるようになる朝専用手帳『朝活手帳』には、「戦略的先送りリスト」という項目があります。これは、月末に自分がやった行動やToDoリストを整理して、できなかったこと、やり残してしまったことをもう一度来月に持ち越すリストのことです。
ここで「やり残しリスト」「できなかったことリスト」とせず、「戦略的先送りリスト」と名付けたのは、私自身が「やり残し」という言葉でテンションが下がるからです。「やり残し」というだけで、なんだか自分に負けた感じがしませんか? 私ってどうしてこんなに意志薄弱なんだろう、と、名付けた言葉によって落ち込むのです。
言葉を変えると「仕切り直し」ができる
もちろん、ただ単純に言葉だけを変えて、その瞬間気持ちが救われても、中身が伴わなければ意味がありませんが、それでも、言葉を変えることで気持ちは大きく変わるのです。なぜなら、言葉を変え、行動のラベルを変えることで、意識的に「仕切り直し」ができるからです。
「やり残しリスト」を作ろう、と思うと、毎月やろうやろうと思っているのに結局やれていないものや、実はやらなくても毎日に支障がなかったものまで大事に記入しようとしてしまいますが、「戦略的先送りリスト」なら、上記の項目は思いきって捨ててしまうこともできます。
このプロセスを経ることにより、だらだらとしてできなかった自分を責めることなく、「自分ですべきことを選びとり、来月に持ち越すことに決めたんだ!」という気持ちを得ることできるのです。
実はこの手法、アメリカで考案された「AI:Appreciative Inquiry」という、シカゴ大学で研究されている組織開発の手法と同じだと友人に教えてもらいました。実際に行動自体のラベルを変えることで、我々の行動のFocusが良い方向へ向かうという研究結果も出ているとのこと。海外でも認められている方法だと知ることができてうれしかったです。
出来事に対する意味づけは自分で変えられる
このように、起きた出来事に関するラベルを変えることを日々行っていった結果、まるで歩くポジティブ大辞典のように周囲から思われるようになった私ですが、今でも時に落ち込み、ネガティブな思いと一緒に生きています。それでも、「自分はまだまだダメだ」と自己嫌悪に陥るということは、まだまだ私には「のびしろ」が残っている!といったように、一度徹底的に落ち込んだ後に自分に対するポジティブな声かけができるからバランスが保てているのです。この習慣のおかげで、徐々に思考が変わり、行動が変わり、性格が変わり、運命も変わってきたことを実感しています。
仕事か家庭か選ぶのではなく、仕事も家庭もできる
先日、ダイバーシティーをテーマにした1日研修を行ったとき、今後私たちが直面するキャリアにおいてのリスクをどうポジティブ変換していくか、というグループワークを行いました。そのとき、参加者の女性から印象深い言葉を聞きました。
「2分の1の力でそこそこやる、と思うのではなく、2倍の人生を生きている、と考える」
彼女たちのグループでは、出産や結婚による仕事の両立に不安を持つ人が多かったそうです。「仕事か家庭か」の選択軸で考えるとつい萎縮してしまうような将来ですが、「仕事も家庭も経験できる、2倍の人生を楽しめている」と考えたら、これからの未来がずっと楽しいものになってきませんか?
このように、意味づけを自分自身で変えることができます。意味づけを変えることで、行動も変わります。最初から自信がある人なんてまれなこと。自信は、失敗の上に積み重ねていくものです。
発信するのはあなたにとってリスクだと最初は思ってしまうかもしれませんが、発信というリスクを取ることで、相手の反応を知り、相手の反応から自分を知ることができます。自分のダメなところも、周囲に本気でぶつかってチャレンジしていかないと見えません。チャレンジすれば落ち込むことは一時的に増えるかもしれませんが、その分「のびしろ」は増えます。心の中であれこれと考えているうちは、自分の「のびしろ」は仮説でしかないのです。
ネガティブなままで大丈夫
たとえ最初は実力なんてなくても、もがき苦しんでいるうちに実力は後からついてくるものです。最初は格好悪いこともたくさんあるかもしれません。でも、先駆者はみな、周囲からばかにされるものなのです。道なき道を歩くのは、特別に選ばれた英雄でもなんでもなく、私たちなのです。
ネガティブなままで大丈夫。ネガティブだからこそ、リスクを先回りして考えることができる才能を持っているのですから。その才能を生かしつつ発信を始めたら、きっと救われる人がたくさんいるはずですよ。
株式会社 朝6時代表取締役。慶應義塾大学総合政策学部卒業。外食企業、外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。企業や官公庁、個人に向け、図を活用したプレゼンテーション資料作成術、企画書作成術や会議進行術など、「伝わる」コミュニケーション全般について指南。女性のキャリア形成、ダイバーシティーなどをテーマに講演、著述活動も行う。『絶対! 伝わる図解』(朝日新聞出版)、『描いて共有! チーム・プレゼン会議術』(日経BP社)などプレゼン・図解に関する著書多数。
[nikkei WOMAN Online 2016年8月26日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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