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家の空き部屋開放 地域にお茶の間、高齢者わいわい食べて笑って孤立防ぐ

2016/9/13

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坪庭のある典型的な京町家で食事をする「洛遊くらぶ」のメンバー(京都市中京区)
坪庭のある典型的な京町家で食事をする「洛遊くらぶ」のメンバー(京都市中京区)

高齢者が自ら自宅の空き部屋や空き家を地域に開放して交流の場にする、いわゆる「地域のお茶の間」づくりが各地で盛んになってきた。コミュニティーの崩壊で人と人とのつながりが希薄になるなか、昔のような近所づきあいを復活させ、地域の力で高齢者らの孤立を防ごうという狙いだ。

残暑が厳しい9月初めの週末。東京都世田谷区の住宅街、砧地区にある一軒家に50~80代の男女約25人が次々と集まってきた。家の名は「くつろぎ処おおがいさんち」。この家に住む大海篤子さん(75)が自宅の空き部屋を改装し、今春から地域に開放した。この日は初のビアパーティー。近くの酒店からサーバーを借り、グラスに生ビールを注ぎ来訪者の喉を潤した。

寂しげだった親

近所の世話焼き役として顔が広い大海さんは、孤立する高齢者の増加に心を痛めていた。「交流の場をつくれないか」。そんな思いが募り、使わなくなった子ども部屋などを提供しようと決めた。親しい仲間と「砧村おばちゃん会議」を設立。周囲の500世帯にチラシを配り、4月の発足パーティーには60人以上が参加、大盛況だった。

当初は弁当やお茶を飲食しながら談笑する会を月2回開いた。7月からは子育て中の親子を招いての絵本の読み聞かせも始め、多世代交流にも力を入れる。「いざという時に助け合える地域にしたい」。大海さんの夢は膨らむ。

公共施設や空き教室、空き店舗などを地域の交流の場にするコミュニティーカフェ。なかでも、自宅の部屋を地域に開放する動きが広がっている。

昨年末、小倉光枝さん(68)が千葉県市川市で始めた「コミュニティ・カフェ まいんど」もその一つ。自宅近くに所有する一軒家に長男家族が住んでいたが、昨春転居して空いたため、念願のカフェを開いた。きっかけは以前、同居していた両親が外出せず、寂しそうにしていた姿が忘れられなかったからだ。

「高齢者が気軽に集える場をつくりたい」。そんな思いを胸に、公益社団法人長寿社会文化協会(東京・港)のコミュカフェ開設講座を受講。食品衛生管理者の資格を取り、台所を改造して準備を進めた。第5を除く毎週月曜の昼間に開く。料理は小倉さんが作り、かつてのPTA仲間らが配膳や片付けを手伝う。口コミで固定客も増えた。

店を訪ねると16の席は既に満員。この日の献立はサケのカレーマリネ、鶏ささ身肉のバンバンジー風の2種類。手の込んだ料理の割に500円は安い。別室で先生がフラダンスを教えるほか、手芸教室や抹茶の会も開く。「私も友人も楽しめて、お客さんも喜んでくれる。始めて良かった」と小倉さんは目を細める。

地域のお茶の間を支援する自治体も増えている。京都市は2012年度から開設費や運営費の一部を補助する「高齢者の居場所づくりに対する助成制度」を開始。現在、約140団体が助成を受ける。多くは社会福祉協議会や社会福祉法人などが公共施設や福祉施設などを使って運営する例だが、中には個人が自宅を開放するところもある。

家族当てにせぬ

「足の指の付け根を押して。イチ、ニ、サン、シ……」。9月初め、京都市の中心部にある古い町家で高齢の女性7人がストレッチ体操にいそしんでいた。馬場備子さん(74)が主催する「洛遊くらぶ」のメンバーだ。3年前、市から助成を受け、自宅近くに所有する空き家を改装した。

週1回、市内に住む友人らが集まり、体操教室や茶話会、英語教室を開く。この日は体操後、ゆでたそうめんや持ち寄った総菜を食べて談笑した。夫の介護を愚痴る人、耳寄りな病院の情報を教える人など、話題はさまざま。馬場さんは「これからは独居老人が増える。家族は当てにできないから、近くの人同士が支え合うしかない」と話す。

長寿社会文化協会のコミュカフェ事業担当、昆布山良則さんは「高齢者は家の中に籠もるより積極的に外出した方が健康度が高く、認知症の予防にもなるといわれる。行けば誰かに会えるという場所があれば、出かける動機づけになるはず」と指摘する。今後、高齢化が進めば、空き家や空き部屋はいっそう増える。需要と供給がマッチする環境が整えば、個人が主催する地域のお茶の間づくりはさらに広がりそうだ。

生きがい、どんな時 一家だんらんより友人と食事・雑談

高齢者はどんな時に生きがいを感じるのか。内閣府が5年に1回実施する「高齢者の日常生活に関する意識調査」(2014年度、複数回答)によると、最多は「趣味やスポーツに熱中している時」(47%)だったが、次に多かったのが「友人や知人と食事、雑談をしている時」(42%)だった。

男女別では、女性の53%が友人との雑談を挙げているのに対し、男性は30%とやや低かった。ただ、注目すべきは3番目に多い「家族との団らんの時」(39%)を上回ったこと。「遠くの親戚より近くの他人」ということわざがあるが、まさにこれに当てはまりそうだ。

(高橋敬治)

[日本経済新聞夕刊2016年9月13日付]

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