変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

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コニカミノルタは、新たな成長シナリオを描くために社外との協力を進めている。前回は、同社の執行役で事業開発本部長の市村雄二氏に新規事業創出の勘所と、拠点である「Business Innovation Center (BIC)」を設置した意図や特徴を聞いた。市村氏によれば、新規事業創出には組織という仕組みだけでなく、社員が日ごろから磨いておくべきスキルが必要という。今回は、社員の心がけを聞いた。

 ――BICで新規事業開発を進める際、必要になる要素技術は社内からの採用を優先するのでしょうか。

社内を優先することはありません。「まず、うちの研究所に問い合わせることはしないでくれ」と伝えてあります。自社で手掛けている要素技術は、1000や2000ある選択肢の1つかもしれません。そのような状況でも、何が何でも自社技術を優先するのは意味がありません。

この考え方は、とても理にかなっています。どのような会社でも、売り上げの10%程度を研究開発につぎ込んでいます。1兆円の売り上げであれば1000億円です。金額自体は少なくないかもしれませんが、日本全体、さらには世界中で膨大な金額が研究開発に使われている状況を考えると、たかが1000億円ですよ。会社にとって研究開発費は、本当に必要な要素技術の知的財産を保全するために投入すればよいのであり、すべての技術を自社開発で賄うのは割が合いません。だから、別に自社の技術に固執する必要はないのです。

私は社内でよく、「どんなに素晴らしいアイデアが思いついたとしても、その瞬間に全く同じ事業をつくろうとしているのが全世界で100人は絶対にいる」と言っています。アイデアを思いついた時に、もう事業化競争が始まっているんです。その競争に打ち勝つ要素は何かというと、スピードしかない。だから、1番スピードが出る形で事業を大きくするようにしなければなりません。それには、1番速く、社会価値や顧客価値を生むために1番良いセットを求めればいいわけです。「社内だから優先する」という議論は、社会価値や顧客価値を生むことからすると、何の価値もありません。

 ――BICが担う役割は大きいですね。BICの規模はどのくらいですか。

市村氏

市村氏

BICのヘッドクオーターにあたる部分は5~6人、世界5極(日米欧、中国、シンガポール)に設置したBICでのコア人材はそれぞれ10~20人くらいです。BICの人数を聞いた社外の人からは、「えっ、そんなに少ないのですか?」とよく驚かれます。

そもそも、人の数とか、オフィススペースの広さとか、そういう物差しで規模や価値を想像することそのものがおかしい。BICではオープンイノベーションをやっているので、社外に多くの協力者がいます。100人の会社10社に出資していれば、1000人とプロジェクトを進めていることになりますよね。ある領域に焦点を合わせた事業を創出するとき、当社内に特定分野の専門家がいなくても、実現するために専門的な技術が必要になれば、そうした技術に強みがある会社と組めばよいのです。

 ――自社内の陣容を数で考えること自体、自前主義の「重力」に引っ張られているわけですね。

やはり、発想を転換していかないといけません。実証実験についてもそうです。すべて、自分たちだけで実証実験をやる必要はないわけです。例えば、病院の中の業務フローに我々の新しい技術やシナリオを持ち込む場合、我々だけでは実証実験できませんよね。病院内で実際に業務に携わっている人たちと一緒に進める必要があります。実は、オープンイノベーションで事業開発すれば、生産性は格段に上がるんですよ。

 ――コニカミノルタの成長シナリオを描くための新たなエンジンとして、BICを設けた意義は分かりました。もう1つのエンジンである要素技術の開発では、BICに使ってもらえるような技術を開発するという形になりますか。

BICの人に使ってもらうという思考では困るんですよ。BICにも、それから要素技術を開発するチームにも言っているのが、毎日、ないしはチーム内で提案するときに、必ず3つのことを掲げることを徹底せよということです。

 ――3つとはどのようなことですか?

第1に社会的な価値は何か。技術であろうと、事業モデルであろうと、各自でやっていることの社会的な価値を一言、ないしはせいぜい1行で言えと伝えています。

第2に永続的にマーケットで勝てるのか。どのようにしたら競争力を維持できるのか、どうやったら誰よりも優れたモノに仕上がるのかを問います。例えば、製品であれば最も質が高いとか、がんの創薬プロセスであれば治験が誰よりも期間を短くできるといった、飛び抜けた特徴がないと市場で優位な立場を永続的に保てません。ここでも1行でまとめることを求めています。

第3にどのくらいの事業規模になるのか。例えば、事業規模が1億円だったら話になりません。コニカミノルタの資金を使い、コニカミノルタの社員として取り組む新規事業であれば、せいぜい10億円、100億円といった事業創出の絵を描いてもらいたい。ここでは厳密なビジネスプランを問うているわけではないので、夢は大きく描いてもらいたいですね。

なぜ、大きな夢を描いてほしいかというと、大きな事業に育てるための策を一生懸命に考えるようになるからです。10億円の規模にするだけでなく、10億円を100億円にするには何をすべきか、さらに100億円を500億円にするにはどうすべきかを社員に考えさせたい。

技術者は得てして、「解像度を上げるにはどうするか」「高速化するには何をすべきか」といった技術を極める発想をしがちです。開発した技術はある種の製品に採用されるかもしれませんが、他社に対して優位なのはせいぜい3年というところではないでしょうか。もっと長期にわたって高い競争力を誇れる技術を開発するには、事業規模100億円を超えるようなビッグピクチャーを描いて、そこに至るシナリオが要るわけです。これは第2に挙げた、永続的にマーケットで勝てるかどうかを考えることにつながります。

これら3つは、実はとても意地悪な質問です。ただし、これら3つを毎日毎日、頭の中で汗をかきながら考えていくと、新規事業創出や事業拡大につながる術が磨かれるはずです。

 ――市村さんは、こうした術(すべ)をどのようにして身につけたのですか。

今まで、いっぱい失敗しましたからね。失敗の積み重ねで身につけたというところでしょうか。いろいろなビジネスパーソンと会話したり、仕事したりしたことも効いています。例えば、私はシリコンバレーに何年も居て、様々な人たちと交わって仕事をしました。ベンチャー企業とも仕事をし、投資家たちともいろいろと議論しました。こうした経験の中で、日本の会社にとって実行可能であり、かつグローバルに競争力を持たせるにはどうすべきかを考え、コニカミノルタで実行する策に行き着きました。

新規事業を創出するためにBICで用いる策は、コニカミノルタだから成立するモデルであり、必ずしもありとあらゆる会社に適用できるかどうかは分かりません。ただし、技術や事業の将来像を展望する思考を組み合わせて、自社の成長シナリオを描いていくことが重要なのは変わりません。

社内で保有する技術にとらわれず、社外の優れた技術を取り込んで新規事業を起こしたり、事業を拡大したりする、いわゆるオープンイノベーションの実践が欠かせません。オープンイノベーションの考え方は20年前からあり、決して新しい考え方ではありませんが、本当に実践して成功している会社は極めて少ない。日本の製造業なんて、ほとんど無いに等しいのではないでしょうか。日本には本業を変革していかねばならない会社がいくつもあると思います。

 ――本業を変革するとしても、「自社の強みは何か、何が優れているのか」をしっかり考え、本質を見極めないとなりません。

それは必須です。ただし、必要条件ですが、十分条件にはなりません。まず自分たちの持っているコアは何か、本当に世界で戦える要素として何があるのかを考える必要があります。それなりの規模の会社には、必ず"何か"あるはずです。それをもっと研ぎ澄まして、「我々の強みはこれだ」と突き詰めるために議論しなきゃなりません。

そしてもう1つ、見ておかねばならないのが、技術の潮流です。技術って、今は主流であっても、いずれ違う技術に置き換えられてしまうものです。技術を業界で標準化するとか、誰でも使えるようにオープン化するとか、技術を適用する業界のルールが変わってしまったら技術の生かし方が一変し、技術を保有する意味がなくなってしまう可能性すらあります。こうしたことを想定しておくために、技術の潮流を見ておかねばなりません。

 ――技術者だけでなく、文系出身が多い経営層の人たちも技術の潮流を見据えておく必要がありますね。

日本ではビジネスパーソンを、つい文系、理系と分けてしまいます。あれは全く意味がなく、今どきはそんなことは言ってられません。文系の知識、理系の知識の両方が当然のように分かっている人間でないと、会社の将来像を描けません。

今は当然のように、デジタルプラットフォームで仕事し、事業を生み出し、戦略を練っています。30年前だったらいざ知らず、今はデジタルプラットフォームの活用は当たり前です。文系に分類される人材であっても、デジタルプラットフォームのことを知らないというのはあり得ません。

逆に、理系に分類される人材だって、文系のことを知る必要があります。M&Aもあれば、出資うんぬんの仕事に関わる可能性はあり、そういう議論に関与できない技術者は本当に役立つ人材なのでしょうか。日本には、日本ならではの良いところが多々ありますが、理解しがたい考え方が残っています。そこは変えていかざるを得ないですね。

 ――コニカミノルタの本質は何でしょうか。

いくつかあります。その中で特徴的なものを挙げるとフォトニクス、日本語で言えば光学です。画像とか光とか、光学に関わるエレクトロニクスやメカニクス、制御、ソフトウエア、アプリケーションを含めたサービスまでの領域になります。その領域を使って、アナログの世界をデジタルの世界に取り込み、今まで見えなかったものを見えるようにするなど、今まで不可能だったことを可能にして価値のあるものに変えるのが、我々の強みです。デジタルの世界には、データ分析を得意とする会社が多々あります。こうした会社の分析エンジンを使ったり、あるいは組んだりして、価値のあるものを創造していきたい考えです。

市村雄二氏(いちむら・ゆうじ)
1960年生まれ。1984年大阪大学経済学部卒、NEC入社、メーンフレームの営業など担当。2012年にコニカミノルタ入社。M&A(合併・買収)やトランスフォーメーションを情報機器部門で進め、IT(情報技術)サービス事業の強化を担当、現在は執行役・事業開発本部長としてコニカミノルタ全社の次の柱となる事業の構築を行っている。

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