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コニカミノルタ執行役 事業開発本部長 市村雄二氏

コニカミノルタ執行役 事業開発本部長 市村雄二氏

新規事業の創出や事業転換に取り組む企業は多い。ただし、「新しいことをやる、今までと違ったことをする」としても、果たしてどのような組織を設ければよいのか、答えを見いだせないケースは多々あると聞く。そのような悩める企業やビジネスパーソンにとって、創業140年を超える老舗メーカーであるコニカミノルタの取り組みは大いに参考になるだろう。同社の執行役で事業開発本部長の市村雄二氏に新規事業創出の勘所を聞いた。

 ――スタートアップと協業するなど、コニカミノルタは新たな成長シナリオを描くために積極的に社外との協力を進めています。ただコニカミノルタは1873年創業の老舗メーカーでフィルムのブランド力があったコニカと、カメラでブランド力があったミノルタが統合しただけに、コニカミノルタの現在の姿への認知度はあまり高くないと聞きました。

「コニカミノルタは何している企業なのだろう?」と言われることがあります。フィルムやカメラの事業は既に終了していますが、いまだにかつての姿の印象が強く、「お前のところのフィルム、使っていたぞ」「うちの親父は、お前のところカメラを愛用していたぞ」と声を掛けられることもよくありますね。発表会などで紹介する当社の取り組みを聞いて初めて、我々の今の姿を知ってもらうこともあります。

カメラ事業を売却した当時で、コニカミノルタの売り上げは2650億円落ちました。そこから事業をしこしこと積み上げて、今では売却前よりも売り上げや利益は上がっています。こうした事実をもっと広く知ってもらいたいですね。

我々は成長シナリオを描くに当たり、「自社技術だけではダメだ」と当たり前のように考えています。単独技術の突破力では勝負になりません。多様な技術の融合も大前提にしていますし、ソフトウエアだ、サービスだ、事業モデルだといった、課金の仕方から何から何まで全部違う仕掛けを用意しなければならないことさえあります。

 ――フィルム事業を得意とされてきたメーカーといえば、コニカミノルタ以外に富士フイルムや米コダックもあります。富士フイルムは事業転換に成功した例として知られています。

フィルムというのは、実は擦り合わせの技術の積み重ねであり、用いてきた要素技術は他に転換しやすいんですよ。技術的には、例えば化学物質を薄く広げるというものがあります。そのために、いろいろな化学物質を混ぜ合わせる技術を積み上げてきました。自社が強みを持つ技術を要素レベルにまで突き詰めて把握し、それを基に業容転換を図ることが重要です。

自分たちの持っている技術をずっと掘り下げていくと、自分たちの業容ではない分野で必要とされる技術と「何だ、同じではないか」と気付くことは珍しくありません。例えば、フィルムメーカーが技術開発で用いる手法が、製薬会社が使っている手法と一緒ということもあります。

 ――コニカミノルタは、マーケットインの概念でイノベーションを起こして成長シナリオを描くために、2014年2月に「Business Innovation Center (BIC)」を開設しました。世界各地で新たな潮流をつかむため、BICは日米欧だけでなく中国、シンガポールの5カ所に配置しています。

市村氏

市村氏

新規事業を探索するアプローチとしてコニカミノルタでは従来、技術を掘り下げて、その掘り下げた技術の適応領域を探索してきました。ところが昨今、世の中が複雑になり、変化が激しく、かつ変化の度合いも大きく、そして変化のスピードが速くなってくると、このやり方では対応しきれません。「Airbnb」といったシェアリング型のビジネスが勃興するなど、価値に対する人々の考え方も大きく変わってきましたよね。

一方で、技術を掘り下げてきた技術者に「顧客軸だ」「マーケットドリブンだ」「社会価値ドリブンで事業創造せよ」と言っても、すぐに対応するのは難しい。それは技術者だけでなく、今日の事業を生業とする営業やマーケティングの担当者にとっても難しい要求でしょう。そこで設けたのがBICです。

 ――事業開発の視点が違うのですね。

はい、全く違います。BICは事業開発のもう1つのエンジンと言えます。日本メーカーだけでなく欧米メーカーでも、研究開発者に事業開発を創出させたり、新規事業を任せたり、あるいは若手を集めて事業創出のイベントを設けたりするケースが多々あると聞いています。果たして、どれだけ効果があるのでしょうか。こういった取り組みは継続性とか永続性とかはありません。BICはこれらと全く異なります。

BICは新規ビジネスを開発・提供するための組織であり、完全に顧客視点、マーケット視点で事業をつくるのが特徴です。「お客様のビジネスをイノベーションするセンター」と理解ください。「コニカミノルタのビジネスをイノベーションするセンター」ではないのです。BICでは現在、100案件程度のプロジェクトが進んでいます。そして今、我々は次のフェーズに入りました。

 ――次のフェーズとは?

BICは設立から2年半がたち、これからもレベルを高めていきます。コニカミノルタ全体の成長をさらに推し進めていくために、技術を掘り下げてきた研究開発者をBICのメンバーに入れたり、逆にBICのメンバーを技術を掘り下げる部署に異動させたりして、二つのエンジンが互いに刺激を受けるようにします。

――事業的にも仕組み的にも事業創出の形が出来上がったので、いよいよシャッフルできるフェーズに来たということですね。

技術を掘り下げる人たちは、どちらかと言えばシーズ志向でして、技術を磨き上げるのにたけているし、それを最優先します。その人たちに、顧客が実現したいことや問題解決したいことへのソリューションをつくらせようとすると、一生懸命に自分の技術で解決しようとしてしまいます。自分の技術がベストじゃないかもしれないけれど、何とかしようとしてしまう。自分は、その技術しか持っていないから。

ひどいケースになると、新規事業を早期に創出するにはスタートアップと組むのが最も効率的な状況なのに、「スタートアップと組んだら、自分の技術を捨てることになる。これまで研究開発に投資してきた資金が無駄になる。何で、俺らが研究してきた同じ領域でスタートアップと組まねばならないのか」と突っぱねるケースがあります。いわゆる、自前主義です。正しい判断かどうかを考える前に、今までのやり方を変えることへの拒否反応が出てしまいます。

新しいことを始めるとき、こうした反応があることを会社として意識しなければなりません。トップもマネジメント層も、それから変化することにかたくなな人たちを部下に持つ人も、そして何より自分自身も意識すべきです。意識しない間に、自分自身で変化を避ける力に引っ張られ、正しい判断を下せない可能性があります。こうした目に見えない力を、私は「重力」と呼んでいます。

 ――2つのエンジンで人的リソースをシャッフルすることで、「重力」に負けない組織を作り上げるということですね。新規事業創出に極めて重要な位置を占めるBICには、どのような人材がいるのですか。

事業開発や新規事業創出の経験がある人たちをコアメンバーに据えて、BICを構成しています。当初、BICのセンター長や国内外に設置したBICのコア要員は、すべてコニカミノルタ以外からスカウトして集めました。「社内の人材で賄えばいいじゃないか」という意見がありましたが、私は社外人材の採用にこだわりました。

そもそも考え方が違うエンジンをつくろうとしているのに、以前からある社内の考えを持つ人たちをBICの要職に充てては意義が薄れます。もちろん、将来的には社内と融合させて全社を変えていくことを考えていましたが、新しいエンジンを作る段階では社外の人材が必要と考えました。会社の将来像を考えるとき、自分たちの持っているもので邪魔になるものがたくさんあるかもしれません。企業風土を変えなければならないときの障害になってしまいます。

 ――小手先の変更では意味がないということですね。

徹底的にやらないと、会社として永続的に続きません。チョロチョロとやっても意味がないんです。ちょっと若手を集めて新規事業コンテストなどをやり、優秀な提案には資金を付けて事業を立ち上げようとしても、果たしてうまくいくのでしょうか。10件表彰して、そのうち1件当たるかもしれません。しかし、それは会社の業容を転換するとか、風土を変えるとかいった観点から見ると意味がありません。10億円の商売を新たにつくっても、売上高1兆円の会社では何の意味があるのでしょうか。

新規事業を起こしたり、業容を変えたりする場合、会社の規模とか、現在生業とする事業の将来性がどの程度あるのかなどによって、採るべき策は違うでしょう。ただし、コニカミノルタの場合には少なくとも、不確実性のある中で確実なことは、自分たちの技術ないしは事業領域はいつか必ず成熟するということです。実は、このことは当社以外でも同じではないでしょうか。

 ――そうは言っても、会社の文化をがらりと変えるのは大変です。

トップを含めて、会社の中で今でも頻繁に議論しています。「何もしない、変わらないことが最大のリスクだ」という議論です。変わる重要性を啓蒙する活動を社内で進めています。言い続けないといけません。

世の中を見渡すと、業種、業態、業界を問わず、評価されている会社は、あたかも変化を楽しむかのように、新たなことに挑戦し続けていますよね。

市村雄二氏(いちむら・ゆうじ)
1960年生まれ。1984年大阪大学経済学部卒、NEC入社、メーンフレームの営業など担当。2012年にコニカミノルタ入社。M&A(合併・買収)やトランスフォーメーションを情報機器部門で進め、IT(情報技術)サービス事業の強化を担当、現在は執行役・事業開発本部長としてコニカミノルタ全社の次の柱となる事業の構築を行っている。

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