東京の最新ホテルが体現 2020年への「和モダン」
インバウンドサイト発 日本発見旅
リオ五輪が終わりました。開催前からいろいろ不安情報が流れていましたが、フタを開けてみればすべての競技がスムーズに進行し、テロなどの大きな事件もなく、本当によかったと思います。日本選手団は過去最高数のメダル獲得という、記念すべき大会にもなりました。
そして閉会式では、次回開催地である東京のプレゼンテーションがすばらしかったですね。テレビでメイキング映像を見ましたが、各方面のトップクリエイターの方々がかかわっていて、その取り組み方は見ていて鳥肌が立ちました。これまで東京五輪の準備はゴタゴタ続きでしたが、これなら演出も自信をもって世界に送り出せると確信しました。元より日本人のホスピタリティーには何の心配もありませんから、あとは各施設の完成だけですね。
東京が発信する「和」とは……
閉会式で披露された東京を紹介する映像を見て思ったのは、これぞ東京の「和」であるということ。伝統的な日本と現代的な要素が見事に融合しているのです。高層ビルと歴史ある寺社が隣り合って共存する風景。漫画やアニメを世界に発信し、さまざまなファッションの若者であふれる新宿や渋谷の街ですが、スクランブル交差点は外国人が驚くほど整然と渡る……。
最先端の技術・デザインと、伝統的な日本美。先鋭的なカルチャーやファッションと、秩序や礼を重んじる精神性。対照的な要素が融合する面白さ、「和モダン」が東京のいちばんの魅力でしょう。それは外国人から見るとひときわ印象が強いようです。
地方の「和」は違います。たとえば京都や金沢なら、そこは伝統を崩さない純粋な「和」であってほしいと、我々日本人も思いますし、外国人観光客もそれを求めています。さらに木曽路や白川郷だったら、歴史ある古い町並みの風景には、現代的なものはできるだけ入ってほしくないと思います。
でも東京は全く逆です。コントラストの面白さこそ、東京という街が人々を魅了する最大の引力になっているような気がします。
巨大ビジネス街の中心で露天温泉に浸る
さて、五輪の運営そのものにかかわる競技場や選手村などの施設、交通機関のほかに、懸念されているのが宿泊施設です。現在でさえ、観光のピークシーズンにはホテルが足りない状況なので、五輪開催中の部屋不足は避けられないと思われます。
そんな未来を見すえて今年の夏、都心に2つの新しいホテルがオープンしました。各地で新しいホテルがオープンすると必ず泊まってみるのが夫・シャウエッカーの方針です。今回もすぐに予約をしました。
まずは、7月20日に大手町フィナンシャルシティの一画にオープンした「星のや東京」。都会のど真ん中に日本旅館を建てた、話題満載のお宿です。
コンセプトは「塔の日本旅館」。エントランスの扉が開くと、天井の高い畳敷きの廊下が奥に延びています。既にここから、外のビジネス街とは別世界。靴を脱いで歩き出すと畳の感触が心地よく、ここまでの和空間に仕上げたことに感心します。外国人ゲストにもきっとご満足いただけることでしょう。
各フロアに設けられた「お茶の間ラウンジ」も好評のようです。飲み物や軽食を備えたくつろぎの空間で、専任スタッフもいて、ゲストは24時間自由に使えます。客室は木や障子などの和素材とシックな色調で統一され、とても落ち着ける空間でした。
建物の外壁に巡らせた格子は江戸小紋をモチーフとしているそうで、近くに寄ると巨大な竹細工のようにも見えます。客室側から見ると、この紋様がちょうどよい目隠しになっており、隣のビジネスビルからの視線をやんわり遮ってくれます。時間帯によってはその紋様の影が障子に落ち、何ともいえない風情を生み出します。
最も印象的だったのは、最上階の露天風呂。天井部分が四角く空いて露天になっています。露天風呂といえば、自然の中の温泉や眺めのいいお風呂ですよね。外国人もそうしたタイプが大好きなのですが、四角い空でも露天は露天。大手町の地下からくみ上げた天然温泉の滑らかなお湯に浸り、ビル街の風を感じながら東京の空を見上げるのは、何とも新鮮な気分でした。
和モダンの空間から一望する巨大都市・東京
そして、2016年7月27日にオープンした「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」。場所は「赤プリ」の愛称で親しまれた旧グランドプリンスホテル赤坂の跡地。あの高層ホテルが解体のために徐々に縮んでゆく珍しい光景はほんの3年前のことだったのですが、そこにもう新しいホテルが完成したとは!
跡地一帯が複合商業施設「東京ガーデンテラス紀尾井町」として生まれ変わり、その30~36階が250室の客室を備える「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」となっています。最上階にレセプションがあり、2フロア吹き抜けのスカイロビーからの眺望は、思わず歓声をあげてしまうほど。高いところから東京の街を見下ろすと、なぜかテンションが上がりますね。周辺にさえぎるものがないので遠くまで見渡せ、極上の夜景が楽しめますし、昼間の眺めのすばらしさはランチタイム人気が物語っています。
日本食を提供するメーンダイニングの「WASHOKU 蒼天 SOUTEN」では、東京タワーと東京スカイツリーという、2大シンボルタワーを見ることができます。
客室内は、スイッチ類はすべてタッチパネル。最新鋭の設備の中にも、ティーセットの急須が南部鉄器だったり、洗面台の調度品に竹工芸品を使ったりと、随所に「和モダン」のテイストが感じられました。
なかでも最も印象に残ったのは「香り」です。エレベーターからホテルのエントランスに入っていくと、ふわっと芳香に包まれるのです。それは今まで経験したことがない香り。日本のお香のような心穏やかになる深い香気に、少しアジア的なスパイスが加わり、ホテルの雰囲気にぴったりな現代的なはつらつさも感じられます。
スタッフの方にうかがってみると、ホテルのために"日本らしさ"を表現することを意識して、特別にブレンドされたオリジナル・アロマで、エアコンに仕込んであるのだそうです。東京の眺望とともに、外国人ゲストの記憶にも強く残るにちがいないと思いました。
東京の持つ「コントラストの妙」を最大限にプレゼンテーションしてくれる最新ホテルに、どれだけ多くの外国人観光客が訪れ、その魅力を堪能するのか、今から楽しみに感じています。
ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町 http://www.princehotels.co.jp/kioicho/
ジャパンガイド(株)取締役。群馬県生まれ。海外旅行情報誌の編集者を経て、フリーの旅行ライターとなり、取材などで訪れた国は約30カ国。1994年バンクーバーに留学。クラスメートとしてスイス人のステファン・シャウエッカーと出会い、98年に結婚。2003年、2人で日本に移住。夫の個人事業だった、日本を紹介する英語のウェブサイト「japan-guide.com」を07年にジャパンガイド株式会社として法人化。All About国際結婚ガイド、夫の著書『外国人が選んだ日本百景』(講談社+α新書)『外国人だけが知っている美しい日本』(大和書房)などの編集にも協力。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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