自分の未来を自ら設計できる「キャリア戦略」実践術人材紹介会社・コンコードの渡辺秀和社長に聞く(2)

公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司

公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司
コンコードエグゼクティブグループの渡辺社長
コンコードエグゼクティブグループの渡辺社長

2020年の東京五輪・パラリンピック後の「post2020」時代を見据え、戦略的なキャリア形成を考えるには、どうすればいいのか。今、ビジネスリーダーの転職市場は未曽有(みぞう)の好況になっているという。この好機を生かさない手はない。コンサルティング会社、ファンド、外資系企業への転職に強みを持つ人材紹介会社、コンコードエグゼクティブグループ(東京・千代田)の渡辺秀和社長に「キャリア戦略」の実践術を語ってもらおう。(聞き手は公認会計士・心理カウンセラー 藤田耕司)

藤田 現在の転職市場は極めて好況だが、東京五輪の前後に景気が悪くなった場合、転職市場も状況が悪化する可能性が高い。前回、こんな話を聞きましたが、そう考えると、今から東京五輪までの期間は戦略的にキャリアを歩むうえで好機ですね。著書「ビジネスエリートへのキャリア戦略」で提唱しているキャリア戦略という考え方は、好機だからこそ重要になりますね。

渡辺 キャリア戦略とは「人が望む人生を実現するために必要なキャリアを手に入れるための道程」です。例えば、メーカーの経理職の人が「日本の教育問題に一石を投じるようなベンチャー企業をつくりたい」と考えたとします。ただ、経営スキルも教育業界での経験もない人がいきなり起業しようとするのは無理があります。そこで考えられるキャリア戦略の一つは、まずコンサル会社に転職して経営スキルを身につけ、さらに教育業界の経営企画に転じるなどして自分なりの教育サービスを検討し、その後に起業する道です。こうした段階を経てチャレンジした方が起業の成功確率は飛躍的に高まります。

キャリア=資格?

藤田 キャリア戦略について考えると、転職に有利な資格を取得した方がいいと思う人も少なくないはずです。

渡辺 資格の取得には膨大な時間がかかります。勉強を始める前に、本当に必要なのかを慎重に考える必要があります。一生懸命に努力したのに、気がついてみると自分が到達したいゴールとは違うところに来てしまったということになりかねません。

藤田 「キャリア=資格」と短絡的に考えない方がよいですね。ただ、教育業界で起業する例のように、いくつかの段階を想定しながら戦略的にキャリアを設計する発想は、あまり知られていないように思います。

渡辺 キャリア設計には技術があって、ビジネスパーソンにとって非常に大切なスキルであるにもかかわらず、日本の教育では学ぶ機会が少ないのが実情です。そこで当社はキャリア設計の技術を教える「キャリアリテラシー教育」に力を入れています。

目の前の仕事に意識が向きがちなまま、年齢を重ねると……

藤田 キャリアについて戦略的に考えながら生きているかと問われ、自信を持ってイエスと言える人は多くないと思います。どうしても目の前の仕事に意識が向きがちですからね。その結果、年を重ね、気づけば転職が難しい年齢になっている人も少なくないでしょう。一方、早い段階から独立起業したり、外資系企業や投資銀行に勤めたりして、高年収を得る若い人材も増えています。

渡辺 そうですね。実は「人材の二極化」とも言える状況が既に起きています。少し前に話題になりましたが、米グーグルが人工知能(AI)の研究をしている東京大学の大学院生を年俸1800万円でリクルーティングしたケースがあります。東大生に人気の旧財閥系企業に新卒で入社すれば、年収は400万円程度です。同じ東大生でも新卒1年目から年収がこんなに違うのです。長らく日本のサラリーマン社会は安定した大企業に新卒で入り、皆が横並びのまま、年功序列的に年収が上がっていく仕組みでしたが、そんな時代は終わっています。

藤田 確かに二極化が進み、昔のような安定を求めることが難しい時代になったと実感しますね。今後、東京五輪までの4年間、そして五輪後、日本経済は大きく変化すると言われていますから、一段と入念にキャリア戦略を立てることが必要でしょう。では、キャリア戦略は実際、どのように実践していくのでしょうか。

渡辺 キャリア戦略は3つのステップで構築します。まず目指すゴールとして「何になりたいのか」というキャリアビジョンを設定します。次に現状からキャリアビジョンに至るルートを考え、最後にそのルートを歩むために転職を成功させるという手順です。まず、キャリアビジョンをしっかり設定しないと、どのようなキャリアを積むべきかを決められません。キャリアビジョンが定まったら、次は現状からそこへ到達するためのステップを考えます。様々なルートの中から、どのルートがキャリアビジョンに到達する可能性が高いのか、ビジョンに至る最短ルートはどれなのかを検討します。

「キャリア戦略」について聞く筆者

藤田 どんなキャリアがあれば、転職先に受け入れられるのかを知る必要もありますね。

渡辺 それを知るためには、自分の身近な先輩がどのような転職をしていたのかが参考になります。ただし、企業の採用動向は常に変化していますし、一般には知られていないルートもありますので、人材紹介会社や求人サイトに登録して情報を収集するのが効率的でしょう。自分が関心を抱いている分野に強い会社を選んでアクセスし、無料相談サービスを利用してもよいでしょう。

書類選考の対策は入念に

藤田 キャリアビジョンに到達するための転職を成功させる戦術面の注意点はありますか。

渡辺 転職活動で内定を勝ち取るためには、選考対策が非常に大切です。書類を作り込まないまま、ある企業に応募したところ、書類選考で落ちてしまったのに、書類を作り直して再応募したら内定したというケースは珍しくありません。その人が持っている経験やスキルは全く同じでも、応募書類が違うだけで結果が変わってしまうのです。実力を十二分に理解してもらうためにも、書類対策、筆記試験対策、面接対策はとても大切です。

藤田 経営コンサルティングの仕事をしていると、人は自分の可能性をどこまで信じられるのかによって、人生が全く違う展開になると感じます。過去の経験にとらわれず、自分の可能性を信じるのには勇気が必要ですけどね。キャリア戦略も自分の可能性を信じる勇気を持っているかどうかで、大きな差が出ると思います。

渡辺 人材市場が発達した現状を好機ととらえるのか、危機と感じるのか。これは自分の可能性を信じる勇気を持てるか否か次第でしょう。しっかりと評価されるキャリアを積めば、自らの意思で好きなことを仕事に選ぶことも可能です。転職の機会を組み合わせて戦略的にキャリアを設計することで、自分の未来を自分でデザインできる時代なのです。

藤田 自分の可能性を信じる勇気を持つ。ここから新たなキャリア戦略が生まれるのかもしれないですね。

わたなべ・ひでかず 一橋大商卒。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)戦略コンサル部門を経て、人材紹介会社のムービン・ストラテジック・キャリア(東京・中央)で5年連続ナンバーワンキャリアコンサルタントとして活躍。2008年にコンコードエグゼクティブグループを設立。ビズリーチ(東京・渋谷)が主催する「日本ヘッドハンター大賞2010」のコンサルティング部門で初代MVPを受賞。1000人超の相談者をコンサル業界やファンド、事業会社の幹部に転身させてきた。著書に「ビジネスエリートへのキャリア戦略」(ダイヤモンド社)がある。
ふじた・こうじ 公認会計士、税理士、心理カウンセラー。早大商卒。監査法人トーマツを経て日本経営心理士協会、FSG税理士事務所、FSGマネジメントを設立。経営コンサルティングと心理学を融合した経営心理学の普及活動を行い、企業の経営顧問、経営者のメンターを務める。主な著書に「リーダーのための経営心理学」(日本経済新聞出版社)がある。

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