失敗の引き金にも……代替案がない方が成功する理由

日経ウーマンオンライン

2016/9/14
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アメリカで注目が集まっている“ハピネス研究”を知っていますか? この分野では、「働く人の精神がどのように仕事に影響するか」についての研究が盛んに行われ、それが実践の場でも取り入れられています。これは仕事で感情を出すことをタブーとしがちな日本とはずいぶん違う考え方です。翻訳・通訳者の相磯展子さんが、「ハピネス研究」をはじめとする海外の仕事観を紹介しながら、日本の仕事の常識に疑問をぶつけていきます。

たいていの人はリスクを伴う挑戦に踏み切る際、代替案としてB案を考えます。「起業で失敗したら、前の会社に戻ろう」といった発想は、常識的には理にかなっていると多くの人が考えるでしょう。しかし、最近の研究ではこのB案を考えることが、本来の目的を達成する妨げになっていることが指摘されています。

米国ウォートン・スクールの教授らが2016年4月に発表した研究では、代替案について考えただけで、モチベーションが下がり、努力しなくなることが分かったそうです。結果的にB案の存在が目標達成の可能性を下げていたのです。

[引用] (研究グループが行った)ある実験では駅で見知らぬ人に声をかけ、目標達成のためにどれくらい努力しているか、万が一失敗した時のB案があるかなど、目標にかかわる事柄を書き出してもらった。この2つ目の質問に「はい」と答えた人は、「いいえ」と答えた人に比べて目標達成のための努力が少なかった。
(Science of Us「The Case Against Having a Backup Plan」)

私たちはある程度のプレッシャーがなければ本気になれません。後がない人はものすごい力を発揮するものです。この研究結果もまた、その事実をよく表しているのかもしれません。

代替案がマイナスに働く理由とは

一方、チューリッヒ大学の研究者ナポリターノとフロイントは、目標達成においてB案がプラスに働く場合とマイナスに働く場合を検証しました。

[引用] B案が目標達成においてあなたを助けるか、邪魔するかは、ナポリターノとフロイントが「complexity value」と呼んでいるもの、つまり一つの目標だけを目指すことに比べて、B案があることで生じる余計なコスト、メリットによって決定します。たいていの人は代替案に伴うこのコストを正確に把握できていないのです。
(Association for Psychological Science「When Backup Plans Backfire」)

私たちの多くはB案が無条件に良いと考えがちです。しかし、B案によって時間や労力などの限られたリソースをいたずらに取られてしまうこともあり得るのです。

[引用] 良かれと思って立てるB案だが、戦略を考え、実行するためのさらなる時間的コストが目標達成の失敗の引き金になりかねない。研究者たちによると、特定の状況下でB案がプラスに働くか、マイナスに働くかを判断する絶対的な方法は存在しない。そのため、与えられた状況の中で、B案の本当のコストとメリットをしっかり考えるべきなのだ。
(同上)

思い当たることはありましたか? 次に、代替案があった方がいい場合・ない方がいい場合の違いについて、考えていきましょう。

B案があった方がいい場合もある

何もB案を考えるべきではないということではありません。時には運といった、あなたではどうしようもない因子に目標達成が影響される場合もあります。そういった場合はB案があった方がいいかもしれません。

一方、目標達成があなたの努力に大きく左右される場合は、あえてB案を作らない方が達成の可能性が大きくなります。実験結果が示唆しているのは、モチベーションを最大化させるにはB案を持たない方がいいということです。

また、モチベーションという観点からいうと、複数のアプローチで目標達成を試みることは効果的です(例えば、アーティストになりたい人が作品を作るだけでなく、ネットワーキングのためにギャラリーで働いたり、技術を磨くために先輩アーティストのアシスタントとして働くといったことです)。モチベーションが上がるだけでなく、その目標に対してより一層コミットするようになることが指摘されています。モチベーションがカギである場合は、B案を持たないという選択肢のほかに、こうしたアプローチもあります。

最もかしこいのは、自分の目標達成が努力の部分が大きいのか、運が大きいのか(その両方という場合も往々にしてあるかもしれませんが)を考え、それに合わせてB案が必要かどうかをしっかり考えることかもしれません。

覚えておくべきことは、B案は時にあなたのモチベーションを大幅に下げてしまうということです。

相磯展子(あいそ のぶこ)
翻訳・通訳者。アート専門の翻訳、通訳、プロジェクトの企画運営などを行うArt Translators Collective副代表。ネーティブレベルの英語力を活かし、書き手・話者の視点に寄り添う翻訳・通訳に定評がある。美術館、財団、雑誌などの出版物の翻訳、ウェブメディア記事の翻訳・執筆のほか、イベントやシンポジウム等の通訳や海外とのコレスポンデンスなども行う。

[nikkei WOMAN Online 2016年8月18日付記事を再構成]

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