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「多様性の国」ブラジルがパラリンピックに強い理由

2016/9/13

柔道女子57キロ級で金メダルを獲得したブラジルのラファエラ・シルバ選手(左から2人目)=8月8日、リオデジャネイロ(玉井良幸撮影)
ブラジルのリオデジャネイロで7日、パラリンピックが開幕した。成功裏に終わった五輪に続き、日本の反対側に位置する多様性の国に再び注目が集まる。国土は世界5位の851万平方キロメートルで、日本の約23倍と広い。北部のアマゾン川流域には熱帯雨林が広がり、南部では雪が降ることもある。人種構成も多様で、宗主国だったポルトガルなど欧州だけでなく、アフリカやアジアからの移民も多い。世界最大の190万人の日系人社会があるのもこの国だ。文明社会との接触が少ない先住民も生活している。人口2億人のうち、混血は4割超に達する。一方で2020年に五輪・パラリンピックの開催国となる日本は島国で比較的同質性の高い国といえる。招致を機にダイバーシティー(多様性)を尊重する社会を目指す日本にとって、多様な人種や文化を内包するブラジルから学ぶ点は多い。

■多様性と課題、希望を象徴する選手

8月21日の五輪閉会式。マラカナン競技場では大会のハイライトをまとめた映像が流れた。ひときわ大きな拍手が巻き起こったのは、ブラジルに大会初の金メダルをもたらした柔道女子57キロ級のラファエラ・シルバ選手(24)が映し出されたときだった。それはシルバ選手が、ブラジルの多様性と課題、希望を象徴する選手といえるからだ。

柔道女子57キロ級で金メダルを獲得したブラジルのラファエラ・シルバ選手(8月8日、リオデジャネイロ)=玉井良幸撮影

シルバ選手はリオ市西部の貧民街(ファベーラ)シダジデデウスに生まれた。五輪公園からほど近く、世界的にヒットした映画「シティ・オブ・ゴッド」(02年製作)の舞台となった街としても知られる。銃撃戦が頻繁におきる場所だけに、なかなか外で遊べず、自分と同世代の子供が目の前で流れ弾によって亡くなった経験もあるという。当時を「目標なんかなかった」と振り返る。8歳の時、日本からの移民が持ち込んだ柔道に出合ってけんかばかりの日々に別れを告げる。元ブラジル代表が指導する非政府組織(NGO)で練習を積み重ね、規律を学んだ。大会に参加するための旅費は周囲のカンパでまかなって力をつけてきた。

だからこそ閉幕後の8月22日には、消防車の上に立ち、金メダルを首にかけ、国旗を手にして、2時間以上かけて地元をパレードした。雨の中集まった住民は「ファベーラの金」と叫んでたたえた。シルバ選手は「ファベーラの子どもたちも価値があることを証明できた。ロールモデルになりたい」と述べて、地元への感謝を口にした。シルバ選手の勝利の裏には、3年前から一緒に暮らす元柔道選手の女性の恋人の存在もある。自身が性的少数者(LGBT)であることについては「自然なこと」と隠さない。

■五輪上回るパラリンピックのメダル数

リオ五輪でブラジル五輪代表は金7、銀6、銅6の計19個のメダルを獲得し、国別のメダルでは13位となった。13カ国23選手の外国生まれの選手を含む465選手の「多民族代表団」は、過去最高の成績を残したものの、目標に掲げていたメダル合計24個、10位以内には届かなかった。

ブラジルの五輪と
パラリンピックでの獲得メダル数の推移
五輪
開催年大会順位総数
1996年アトランタ2533915
2000年シドニー5206612
04年アテネ1652310
08年北京2334815
12年ロンドン2235917
16年リオデジャネイロ1376619
パラリンピック
開催年大会順位総数
1996年アトランタ37261321
2000年シドニー24610622
04年アテネ141412733
08年北京916141747
12年ロンドン72114843
16年リオデジャネイロ5(目標)

実はパラリンピックでは、この目標をすでに達成している。12年のロンドン大会でブラジル代表は金21、銀14、銅8の計43個のメダルを獲得して、国別で7位に入った。着実に順位を上げており、日本(24位)を大幅に上回る結果を残している。米州大陸の障害者スポーツの祭典である、15年のパラパンアメリカンゲームズ・トロント大会では、米国やカナダを抑えて、トップに立った実績もある。

ブラジルの障害者スポーツが好成績をおさめている背景には行政の手厚い支援がある。01年に全国の宝くじの売り上げの2%をブラジル・オリンピック委員会(COB)とブラジル・パラリンピック委員会(CPB)に割り当てる法律ができた。今年からはその割合が2.7%に増えた。加えてこれまではCOBに85%、CPBに15%だったが、CPB向けの比率は37.04%に増えた。CPBはスポーツ省の補助金、連邦貯蓄銀行(CAIXA)によるスポンサー支援も得ている。13年から16年にかけての3年半で3億7500万レアルが投じられた。

■混乱や貧困を知ってこその寛容

そうした中で「障害者水泳のフェルプス」と呼ばれる地元のヒーローも育った。五輪の5大会で史上最多23個の金メダルを獲得した米国のマイケル・フェルプス選手とならび称されるのは、パラリンピックの過去2大会で10個の金メダルを獲得しているダニエル・ディアス選手(28)だ。生まれつき右肘から先と右膝から先がないなどの障害を持つが、豪快な泳ぎで知られる。

都市インフラだけをみればリオ市ではバリアフリーの環境が進んでいるとは言いがたい。歩道は段差やデコボコが多く、地下鉄駅では移動の足となるエレベーターのない駅が目立つ。欧米の主要都市とは比較にならない。それでも、障害者スポーツへの国家の手厚い支援は「ブラジルが多様性を大事にしていることの証左」(上智大学の堀坂浩太郎名誉教授)といえる。

政治や経済体制でも混乱が続く。8月31日にはブルガリア移民2世のジルマ・ルセフ大統領が罷免され、レバノン移民2世のミシェル・テメル氏が副大統領から大統領に昇格した。ルセフ氏が国家会計を不正執行したと議会が判断して同氏を罷免したためだ。政界を広く巻き込んだ国営石油会社を舞台とした不正献金疑惑は終わりが見えず、資源安を受けた景気低迷も依然として続いている。

そんな中で国民が求めていたのは「ブラジルの勝利」だった。国を象徴する男子サッカーでの初の金メダルに国民はもちろん歓喜の声を上げた。

しかし、それ以上にシルバ選手の「物語」に沸いた。それは、前回ロンドン大会の際にシルバ選手が中傷されたのを知っているからだ。五輪前年の世界選手権で銀メダルを獲得し期待を集めたが、五輪の舞台ではメダルには届かなかった。反則負けだったことなどから、直後にネット上で「猿はオリの中にいればいい」との言葉を浴びせられた。シルバ選手は今回、「猿がオリを出て、五輪の勝者になった」とコメントした。偏見に負けず母国開催で勝ち取った金メダル。混乱や貧困を身近に知る国民だからこそ、閉会式の観客は温かかった。

(サンパウロ=宮本英威)

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